結婚式を明日に控えた都内ホテルのスイートルーム。式の準備と最終確認を終え、紬は控え室で一人、純白のウエディングドレスの最終フィッティングを行っていた。明日……私は本当に葵さんの妻になるんだ……。鏡に映る自分のドレス姿を見つめ、胸を熱くする紬。葵は最後の打合せのため、一階の控室へ向かっている。ほんの数分間の、わずかな一人きりの時間だった。コンコン、とノックの音が響く。「副社長ですか……?」紬が振り返ると同時に、部屋のドアがゆっくりと開いた。そこに立っていたのは、ホテルのスタッフではなく――仕立ての良いスーツを纏い、不敵な笑みを浮かべた神楽蓮だった。「……! 神楽……常務……!?」血の気が引く。調印式での不正発覚後、神楽家の圧倒的な財力と政財界への圧力によって警察の拘留を即座に逃れていた蓮。だがまさか、式を目前に控えたこの厳重なホテル内に侵入してくるとは思ってもみなかった。「久しぶりだね、紬さん。……相変わらず、その純白のドレスがよく似合っている」蓮は静かな足取りで部屋へ立ち入り、背後でカチャリとドアの鍵をかけた。「な……なぜここに……! 葵さんを呼びます……!」紬が慌てて内線電話に手を伸ばそうとした瞬間、蓮の合図とともに背後のクローゼットから黒づくめの男たちが現れ、紬の口を素早く塞いだ。「むぐっ……!? んんっ……!」「声を上げないでくれ。……君を傷つけたくはないんだ」蓮は紬の前まで歩み寄ると、彼女の頬を指先で優しく、けれど逃がさないように撫で上げた。その瞳には、葵に対する激しい憎悪と、紬に対する歪んだ執着が混ざり合った怪しい光が宿っている。「調印式では一杯食わされたよ。君のあの才能……葵の秘書にしておくにはあまりにも勿体なさすぎる。……そして何より、葵が一番大切にしている宝物を奪うことこそ、奴への最高の復讐だ」「んんーっ……! (葵……さん……っ!)」抵抗する紬の意識が、口を覆われた布にしみ込まされた薬品の匂いによって、急速に遠のいていく。「さあ、行こうか。君の新しい居場所へ……」視界が真っ暗になる直前、紬の瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。数分後。打合せを終え、控え室のドアを開けた葵の目に飛び込んできたのは――誰もいない静まり返った部屋だった。「紬……?」返事はない。サイドテーブルの上には、先ほどまで紬
Last Updated : 2026-09-26 Read more