All Chapters of 完璧社長の過剰な執着~隠れ優秀秘書は、二人のハイスペに奪い尽くされる~: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話

結婚式を明日に控えた都内ホテルのスイートルーム。式の準備と最終確認を終え、紬は控え室で一人、純白のウエディングドレスの最終フィッティングを行っていた。明日……私は本当に葵さんの妻になるんだ……。鏡に映る自分のドレス姿を見つめ、胸を熱くする紬。葵は最後の打合せのため、一階の控室へ向かっている。ほんの数分間の、わずかな一人きりの時間だった。コンコン、とノックの音が響く。「副社長ですか……?」紬が振り返ると同時に、部屋のドアがゆっくりと開いた。そこに立っていたのは、ホテルのスタッフではなく――仕立ての良いスーツを纏い、不敵な笑みを浮かべた神楽蓮だった。「……! 神楽……常務……!?」血の気が引く。調印式での不正発覚後、神楽家の圧倒的な財力と政財界への圧力によって警察の拘留を即座に逃れていた蓮。だがまさか、式を目前に控えたこの厳重なホテル内に侵入してくるとは思ってもみなかった。「久しぶりだね、紬さん。……相変わらず、その純白のドレスがよく似合っている」蓮は静かな足取りで部屋へ立ち入り、背後でカチャリとドアの鍵をかけた。「な……なぜここに……! 葵さんを呼びます……!」紬が慌てて内線電話に手を伸ばそうとした瞬間、蓮の合図とともに背後のクローゼットから黒づくめの男たちが現れ、紬の口を素早く塞いだ。「むぐっ……!? んんっ……!」「声を上げないでくれ。……君を傷つけたくはないんだ」蓮は紬の前まで歩み寄ると、彼女の頬を指先で優しく、けれど逃がさないように撫で上げた。その瞳には、葵に対する激しい憎悪と、紬に対する歪んだ執着が混ざり合った怪しい光が宿っている。「調印式では一杯食わされたよ。君のあの才能……葵の秘書にしておくにはあまりにも勿体なさすぎる。……そして何より、葵が一番大切にしている宝物を奪うことこそ、奴への最高の復讐だ」「んんーっ……! (葵……さん……っ!)」抵抗する紬の意識が、口を覆われた布にしみ込まされた薬品の匂いによって、急速に遠のいていく。「さあ、行こうか。君の新しい居場所へ……」視界が真っ暗になる直前、紬の瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。数分後。打合せを終え、控え室のドアを開けた葵の目に飛び込んできたのは――誰もいない静まり返った部屋だった。「紬……?」返事はない。サイドテーブルの上には、先ほどまで紬
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第32話

重い頭痛とともに紬が目を覚ましたのは、見覚えのない豪奢な寝室だった。窓の外には見渡す限りの深い海が広がっており、波の音だけが空虚に響いている。ここ……は……?身を起こそうとした紬は、自分の手首に違和感を覚えて息を呑んだ。右手首には繊細なデザインながら頑丈な金の鎖が繋がれ、ベッドのヘッドボードに固定されていた。ウエディングドレスは脱がされ、滑らかなシルクのドレスに着替えさせられている。「目が覚めたかい、紬さん」部屋のドアが開き、ワイングラスを手にした神楽蓮が優雅な足取りで入ってきた。「神楽……常務……っ」「ここは僕が個人で所有している離れ島にある邸宅だ。葵はもちろん、どんな警察の捜査網もここまでは届かない。携帯も通信機器もすべて遮断してある」蓮はベッドの縁に腰掛けると、怯える紬の顎をすっと指先ですくい上げた。「可哀想に……震えているね。だが安心してほしい。僕は葵のように君を酷使したりしない。ここで僕の愛を受け入れ、穏やかに暮らせばいいんだ。……君のあの素晴らしいデータ解析能力は、僕の事業のためだけに与えられたものだ」「断ります……っ!」紬は弾かれたように蓮の手を振り払った。丸メガネを奪われ視界がぼやける中でも、その瞳には強い光が宿っている。「私の力も……この心も身体も、すべて葵さんのものです! あなたなんかに屈したりしません……!」「……強がりを」蓮の目が冷たく歪む。蓮は紬の細い手首を掴み、ベッドへ押し倒すと、彼女の耳元に低く囁いた。「葵は今頃、君を失った絶望で正気を失っているだろう。……だが、どれだけ探しても君は見つからない。諦めて僕の女になりなさい、紬」「葵さんは……絶対に来てくれます! どんなに離れていても……葵さんは私を見つけてくれます……っ!」涙を浮かべながらも、どこまでも葵を信じ抜く紬のまっすぐな瞳。蓮は舌打ちを漏らすと、強引に奪おうとした唇を寸前で止め、忌々しそうに紬を解放した。「……フン、どこまでその言葉が持つか見ものだね。じっくり時間をかけて、君のそのプライドと葵への忠誠心を砕いてあげるよ」冷たい捨て台詞を残し、蓮は部屋を後にした。一人残された紬は、胸元に手を当て、服越しに感じられる指輪の感触に祈りを込めた。葵さん……私は負けません。だから……っ。一方その頃――都心の鷹司グループ本社・最上階。
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第33話

海に囲まれた離れ島の邸宅。夜が深まるにつれ、紬が囚われている豪華な寝室には重苦しい沈黙が立ち込めていた。手首の鎖が動くたびに、悲しい金属音が部屋に響く。紬は膝を抱え、服の上から左手薬指の指輪を握りしめていた。葵さん……冷たい思いをしていないかな。私を探して、無理をしていないかな……。脳裏に浮かぶのは、自分を愛おしそうに抱きしめてくれた葵の腕の温もりと、甘く優しい囁き。どんなに恐ろしい状況でも、葵から注がれた膨大な愛の記憶が、紬の心を絶望から繋ぎ止めていた。ガチャリとドアが開く。着替えを済ませた神楽蓮が、上質なシルクのガウンを羽織り、手に小さなケースを持って入ってきた。「まだそんな顔をしているのかい、紬さん」蓮はベッドサイドに腰掛け、ケースを開けた。中に収められていたのは、洗練された最高級のダイヤモンドネックレスだった。「明日、僕のプライベートカジノ船がこの島に寄港する。そのまま海外へ高飛びする予定だ。……君にはこのネックレスを身につけて、僕のパートナーとして船に乗ってもらう」「お断りします……! 私はどこへも行きません!」「拒否権はないと言ったはずだ」蓮の目が冷たく光る。蓮は紬の細い肩を強引に掴むと、彼女の背後に回り込み、強靭な力で逃げられないよう押し留めた。「ひっ……!」首筋に触れる冷たい金属の感触。蓮の手が紬の鎖骨を滑り、ネックレスの金具を留める。そのまま耳元へと顔を寄せ、危険で甘い吐息を吹きかけられた。「葵の秘書だった頃の君は地味で冴えなかったが……今の君はゾクゾクするほど美しい。葵に甘やかされて、いい女になった。……だが、これからは僕が君をそれ以上に甘やかしてあげよう。贅沢も、地位も、すべて君の思いのままにしてあげる」蓮の唇が、紬のうなじへと滑り落ちようとした――その瞬間。「触らないで……!!」紬は全身の力を振り絞り、頭を後ろへぶつけるようにして蓮の拘束を振り払った。「なっ……!?」「私は……葵さん以外の誰に愛されても嬉しくありません! どんなに贅沢をさせてもらっても、葵さん以外の人の側にいるなら、死んだ方がマシです……!」凛とした激しい拒絶。 蓮は痛む顎を押さえ、顔を怒りで歪ませた。「……愚かな女だ。そこまで葵に執着するなら……力ずくで僕のものにするしかないようだな」蓮が紬の手首の鎖を掴み、ベッ
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第34話

爆音が島全体を揺らし、離れ島の邸宅を激しい振動が襲った。部屋の天井からパラパラと埃が舞い落ち、強烈なサーチライトの光が、割れた窓ガラスの破片を怪しく輝かせている。「クソッ……! なぜここが分かった……!?」蓮は窓の外で旋回する軍用ヘリ群を見上げ、顔を怒りと焦燥で歪ませた。海外の裏ルートと秘密の通信網を駆使し、完璧に足取りを消したはずだった。葵という男が持つ資金力と、理性を捨てた際の狂気的な行動力を、蓮は完全に見誤っていたのだ。「神楽……常務……」ベッドの上で手首を固定されたまま、紬は呼吸を整えた。響き渡る重低音とサーチライトの眩しさに恐怖を覚えながらも、胸の奥から溢れ出すのは確かな温もりだった。葵さん……やっぱり、来てくれた……っ。「……チッ、甘い顔を見せすぎたな。行くぞ、紬さん!」蓮は乱暴に紬の手首の鎖を外すと、彼女の細い腕を強い力で掴み上げた。「嫌……離してください……!」「黙ってついてこい! 下のハーバーから高速艇を出せば、まだ逃げ切れる……!」嫌がる紬を強引に引きずり、蓮は部屋を飛び出した。長い廊下には非常ベルが鳴り響き、蓮の手下たちが銃器を手に慌ただしく飛び交っている。だが、階下からはすでに、プロの精鋭たちによる打撃音と怒号、そして圧倒的な制圧の音が迫っていた。「蓮様! 前方が突破されました! 奴ら、手加減なしに……ぐわっ!?」報告に来た手下が、廊下の角から突如放たれた閃光弾の眩い光と爆音に倒れ込む。「くっ……!」蓮は紬を自分の背後へと引きずり込み、懐から小口径のピストルを取り出して構えた。煙が立ち込める薄暗い廊下の奥から、ゆっくりと、けれど確実な足取りで歩み寄ってくる一影があった。仕立ての良い漆黒のスーツ。乱れた前髪の隙間から覗く、凍てつくような黒瞳。全身から地獄の底から這い出してきたかのような殺気を滾らせた男――鷹司葵だった。「葵……さん……っ!」紬の声に、葵の視線が一瞬だけ揺れた。無事な紬の姿を目にした瞬間、葵の瞳に宿っていた狂気のような焦燥が、わずかに緩む。だが、紬の手首に残る赤くなった拘束痕と、彼女を逃がすまいと掴む蓮の手を目にした瞬間、葵の眼光は再び氷点下へと叩き落とされた。「……神楽蓮。その汚い手で、俺の妻に触れるなと言ったはずだ」葵の声は低く、地鳴りのように廊下に響き渡った。蓮
last updateLast Updated : 2026-09-28
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第35話

爆音と煙が立ち込める薄暗い廊下で、紬は自分の身体が温かく強固な腕に包み込まれたことを自覚した。漂うのは、懐かしい高級な木香と微かな煙草の香り――間違いなく、ずっと逢いたかった葵のものだった。「葵……さん……っ」「……遅くなってすまない、紬」耳元で響いた葵の声は、普段の冷静沈着な低音ではなく、かすかに震えていた。葵は腕の中の小さな体を折れてしまいそうなほど強く抱きしめ、紬の背中に回した指先に力を込める。紬の手首に残る赤痛々しい鎖の跡を見つめる葵の黒瞳には、狂おしいほどの痛切さと、自分自身への激しい怒りが渦巻いていた。「大丈夫だ……もう誰も、お前に指一本触れさせない。二度とお前を俺の視界から外さない……」「はい……っ、私……信じていました。葵さんが絶対に来てくれるって……っ!」紬は葵の胸元に顔をうずめ、必死にその温もりを確かめた。ポロポロと溢れ出す涙が葵の漆黒のシャツにしみ込んでいく。過緊張から解放された身体はガタガタと震え、自力で立つことすらままならなかった。葵は一切の躊躇もなく紬を姫抱きで抱え上げると、ゆっくりと歩みを進めた。「ぐっ……、待て……葵……!」床に倒れ伏し、肩を押さえた神楽蓮が、血の混じった唾を吐き出しながら二人を睨みつけた。手下たちはすでに葵の特殊部隊によって完全に制圧され、床にひれ伏している。葵は立ち止まり、見下ろすような冷酷な視線を蓮へと向けた。「神楽蓮。お前との決着は、この島を出た後にじっくりとつけてやる。神楽グループの破滅と、お前自身の社会的な死をもってな」「ハハッ……ハハハ! 壊してみろよ、何もかも! だが……忘れろと言うほうが無理だな。紬さんのあの美しい瞳も、僕に噛みついてまで拒絶したあの強い意志も……すべて僕の脳裏に焼き付いている!」蓮は狂気じみた笑みを浮かべ、歪んだ瞳で紬を見つめた。「葵、お前がどれだけ彼女を閉じ込めようと、一度向けられた僕の情熱と執着からは逃れられない……。彼女は永遠に、僕にとっても特別な存在だ」「くだらん戯言を」葵の声にはもはや一切の感情が含まれていなかった。ただ氷のように冷ややかな一言を残すと、蓮の返答すら聞かずにその場を後にした。洋上に待機していた大型ヘリコプターの防音完全個室の特別シート。機体が重低音を響かせて離陸し、隔離された島が遠ざかっていく中でも、葵は紬
last updateLast Updated : 2026-09-28
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第36話

都心の最高級病院、最上階に位置する特別病棟。厳重なセキュリティで保護された室内には、穏やかな陽光が差し込み、静かな時間が流れていた。「あ……葵さん、自分で食べられます……っ」ベッドの上で身を起こした紬は、顔を真っ赤にして固まっていた。目の前には、一口サイズにカットされたフルーツをフォークで差し出す葵の姿がある。社内では冷徹な判断で恐れられる副社長が、極めて真剣な眼差しで紬の口元へフォークを運んでいた。「だめだ。手首の痛みが完全に引くまで、お前は指一本動かす必要はない」「ですが、擦り傷程度ですし、もう痛みもなくて……」「俺が嫌なんだ。お前に少しでも負荷をかけたくない」葵の瞳には、一切の妥協を許さない絶対的な過保護さが宿っていた。引き下がらない葵の圧に押され、紬は恥ずかしさに耐えかねて小さく口を開けた。甘いリンゴの風味が口いっぱいに広がる。「おいしいか?」「はい……すごく甘いです」紬がふはっと微笑むと、葵の目元が緩み、愛おしさに満ちた手が紬の髪をそっと撫で上げた。「……監禁されていた間、恐怖で食事も喉を通らなかったのだろう。これからは俺が毎日、お前の身体に必要なものすべてを与えてやる」葵は椅子から立ち上がると、ベッドの縁に腰掛け、紬の細い身を抱きすくめた。首筋に落ちる熱い吐息と、耳元で聞こえる葵の力強い鼓動。事件のトラウマで時折小さく震えていた紬の心が、葵の深い温もりによってゆっくりと解されていく。「葵さん……私を助けてくれて、本当にありがとうございました」「二度と俺に感謝などするな。お前を守るのは俺の義務であり、存在理由だ。……お前を失う恐怖を味わうくらいなら、俺は悪魔にでもなる」葵は紬の顎をすっと持ち上げると、逃げ場をなくすように深く熱い口づけを重ねた。手首の擦り傷を優しく避けるように包み込む葵の手。互いの息が重なり合い、病室は甘く濃厚な空気に包まれていった。午後。紬が心地よい眠りについたのを見届け、葵は病室を出て控室へと移動した。先ほどまでの甘い表情は姿を消し、黒瞳には冷徹な光が戻っている。控室には、葵の側近とプライベート・セキュリティの責任者が待機していた。「副社長、神楽蓮の移送計画に関する報告です。神楽家の裏組織および海外の過激派グループが、護送車を襲撃して蓮を強奪する計画を立てている模様です」「……警察
last updateLast Updated : 2026-10-03
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第37話

退院を迎えた紬は、葵の自邸へと戻っていた。手首の傷もすっかり癒えたものの、葵の過保護ぶりは事件前以上に加速していた。「……葵さん、お仕事へ行かなくても大丈夫なのですか?」広いリビングのソファ。紬を膝の上に抱きかかえたまま、ノートパソコンで指示を出していた葵が、そっと紬の髪に顔を埋めた。「お前の安全が第一だ。しばらくはリモートで執務を行う。お前を一人で社内に行かせるつもりはない」「ですが、秘書としての私の仕事が……」「今の第一の仕事は、俺の側で愛されることだ」葵の低く甘い声が耳元をくすぐり、首筋へ熱い口づけが落とされる。過剰なまでの密着と保護。葵の温もりは温かく愛おしい反面、紬の胸には「自分が葵の足を引っ張っているのではないか」という微かな焦燥感が芽生え始めていた。その頃、護送車の襲撃事件を経て密かに地下へ潜伏していた神楽蓮は、ある高層マンションの暗い一室にいた。手元にあるのは、監視カメラが捉えた紬の微笑む写真。「……紬さん」蓮は指先で写真の紬の頬を愛おしそうになぞった。周囲からは「葵への復讐のための道具」と思われているが、蓮の本心は違っていた。最初は単なる葵の所有物を奪うだけのつもりだった。しかし、調印式で見せた彼女のまっすぐな瞳、そして監禁先でも葵を信じ抜き、自分に屈しなかった凛とした強さ――。それらが、冷酷だった蓮の心に強く突き刺さり、いつしか消えることのない激しい恋情へと変わっていたのだ。葵の過保護はお前を鳥籠に閉じ込めているだけだ……。お前のその素晴らしい才能も、輝きも、葵の腕の中では死んでしまう。蓮の瞳に、歪みつつもどこまでも真摯な情熱が宿る。僕なら……お前を自由にできる。お前のすべてを認め、最高の場所へ引き上げてあげられる……。必ず葵の手から、君を僕の元へ連れ出す。翌日。葵が短いWeb会議のために別室へ入ったわずかな隙。紬の個人のスマートフォンに、見知らぬ番号から一通の動画ファイル付きメッセージが届いた。疑問に思いながら画面をタップすると、そこに映し出されたのは――蓮の姿だった。画面越しの蓮は、いつもの不敵な笑みではなく、切なさを秘めた真剣な眼差しで紬を見つめていた。『紬さん。驚かせてごめんね。……葵は君を傷つけないために『保護』していると言っているだろう。けれど、それは君の可能性を殺す拘束だ
last updateLast Updated : 2026-10-04
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第38話

蓮からの動画メッセージを受け取って以来、紬の心は穏やかではいられなかった。葵さんの愛は本物……。でも、今の私は葵さんに守られるだけの『籠の鳥』になっていないだろうか……。社内でも屈指のデータアナリストとして自立しようとしていた自分。だが、事件以降、葵の過保護さは加速し、仕事の現場からも遠ざけられている。蓮の言った「君の可能性を殺す拘束」という言葉が、胸の奥で重く澱んでいた。「……紬。何を考えている?」ソファで膝の上に紬を抱きかかえていた葵が、低く甘い声で耳元に囁く。葵の長い指先が紬の頬を優しく撫で上げるが、その黒瞳は冷たく澄んでいた。紬の微かな心の揺らぎを、葵が見逃すはずもなかった。「あ……いえ、何でもありません、葵さん」「嘘だな。お前の瞳は隠し事ができない」葵は紬の顎を強い力ですくい上げると、逃げ場を塞ぐように深く激しい口づけを重ねた。「んん……っ……!」嫉妬と独占欲の混ざった濃厚な口づけ。葵の体温が荒々しく伝わり、紬の思考が白く染まっていく。「お前が考えるべきなのは俺のことだけだ。……誰にもお前を渡さない。お前の心も、身体も、未来も……すべて俺のものだ」葵のどこまでも深い独占愛。それに包まれる幸福感と同時に、紬の胸には小さな息苦しさが生じていた。その夜。葵が神楽家の裏組織に関する緊急の報告を受けるため、一瞬書斎へ向かった隙を突き、紬は意を決して自邸を抜け出した。向かったのは、指定された鷹司グループ旧社屋の地下資料室。薄暗い資料室の奥で待っていたのは、暗闇の中に佇む神楽蓮だった。「来てくれたんだね、紬さん」蓮はいつもの不敵な笑みではなく、愛おしさと切なさが入り混じった優しい眼差しで紬を迎えた。「神楽常務……。私は、あなたの誘いに乗るために来たわけではありません。ただ、あなたの口から直接確かめたかったんです」「僕の気持ちかい?」蓮は静かな足取りで紬へ歩み寄ると、逃げようとする彼女の手首を優しく、けれど確実に掴んだ。「僕は本気だよ、紬さん。……君のデータ分析の才能は美しい。そして、葵に怯えながらも凛と立つ君の姿に、僕は心底惚れてしまったんだ。葵の所有物として愛されるだけで、君は本当に満足なのか?」「それは……っ」蓮のまっすぐな情熱に、紬の胸が跳ねる。蓮の指先が紬の頬に触れ、引き寄せられる。「僕の元へ来い
last updateLast Updated : 2026-10-05
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第39話

薄暗い地下資料室に漂う空気は、息をすることすら躊躇われるほど重く張り詰めていた。葵の背中に庇われながら、紬は激しく打ち打つ自分の鼓動を聞いていた。自分を庇う葵の肩が微かに震えている。それは怒りだけでなく、紬を失いかけたことに対する激しい恐れからくるものだと、紬には痛いほど伝わってきた。「……神楽。二度目はないと言ったはずだ」葵の低く冷ややかな声が、静寂を切り裂く。葵のポケットの中で、緊急通報を受けた警備隊の足音が遠くの階段から響き始めていた。だが、蓮は逃げる素振りすら見せず、歪んだ愛おしさを秘めた瞳で、葵の背後から覗く紬を見つめ続けた。「ふふ……警備を呼んだのかい、葵。どこまでも力と権力でねじ伏せるのが君のやり方だな。……だが、どれだけ警察や力で僕を排除しようと、紬さんの心が君から離れていくのを止めることはできない」「口を謹め……!」「答えてごらん、紬さん」蓮は葵の殺気じみた視線をものともせず、まっすぐに紬へ問いかけた。「君は、葵の作った綺麗な籠の中で、ただ守られるためだけに生きるのが『幸せ』なのかい?……君が本当にやりたかった仕事、発揮したかった才能を、葵は『安全のため』という理由で奪っているんじゃないのか?」「それは……っ」言葉に詰まる紬。否定したかった。自分は葵を愛しているし、葵の愛に感謝している。けれど、ここ数日間の「過保護すぎる看護」と「一切の仕事からの隔離」によって感じていた微かな息苦しさを、蓮に見事なまでに突き刺されていた。紬の躊躇いを感じ取った葵の瞳に、激しい動揺と陰影が落ちる。「……紬。奴の言葉に耳を貸すな」葵は紬の手首を強く握りしめた。その力強さは、逃がさないという執着そのものだった。「お前の安全と幸せを守れるのは俺だけだ。……お前に必要なものはすべて俺が与える。お前が外の世界で傷つく必要などどこにもない」「葵さん……」冷酷なまでに完璧な過保護を貫く葵。そして、自分の力を認め、危険な誘惑とともに「対等な世界」を提示してくる蓮。二人の男の視線が、紬の上で激しく交錯する。一人は自分を完璧な愛で閉じ込めようとし、もう一人は危険な情熱で自分を連れ出そうとしている。どちらの愛も重く、切なく、そして暴力的だった。やがて、資料室の扉が叩き開かれ、葵の警備隊がなだれ込んできた。「そこまでだ、神楽!」銃
last updateLast Updated : 2026-10-06
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第40話

旧社屋での騒動以降、葵の過保護さはもはや「愛」と「監禁」の境界線を越えようとしていた。最上階の自邸。紬のスマートフォンやパソコンなど、外部と通信できる端末はすべて葵の管理下に置かれ、室内のドアは高度なセキュリティシステムによってロックされている。玄関には24時間態勢で私設警備員が立ち、紬が一人で外に出ることは物理的に不可能な状態となっていた。「……葵さん。今日も、会社へは行けないのでしょうか……?」朝食のテーブル。向かいに座る葵に、紬は意を決して声をかけた。葵は静かに珈琲カップを置くと、穏やかだが一切の反論を許さない目元で紬を見つめた。「ああ。当面、お前が社へ出る必要はない。必要な資料があれば俺が持ち帰るし、秘書業務も代理を立ててある」「でも……私、もう怪我もしていませんし、自分の足で仕事がしたいんです。このまま葵さんに守られているだけじゃ……」「お前を守ることが俺の最優先事項だ」葵は立ち上がり、紬の背後へ回ると、その細い肩を愛おしそうに抱きすくめた。首筋に寄せられる熱い唇。逃げ出そうにも、葵の強い腕がそれを許さない。「お前はただ、ここで俺の愛だけを受け入れていればいい。外の世界にはお前を狙う危険が溢れている……神楽のような奴に、二度とお前を触らせたくないんだ」「葵さん……っ」甘く濃厚な抱擁。けれど、その腕は温かいと同時に、紬にとってはあまりにも重い「金の檻」だった。自分を一人の人間として尊重し、仕事で認められたいという想い。それを「安全」という言葉で優しく押し潰されていく恐怖に、紬の胸はキュッと締め付けられた。午後。葵が出社し、静まり返った広大な室内。紬はソファに座り、ただ流れる時間を眺めていた。丸メガネを外し、目頭を押さえる。葵を深く愛しているからこそ、彼の独占欲に応えたい気持ちはある。しかし、自分自身の存在価値が消えていくような感覚に、強い孤独感が込み上げていた。その時――書斎にある固定電話が、静かに鳴り響いた。葵の専用回線であり、許可された人間しか掛けられないはずの番号。紬は恐る恐る受話器を上げた。『……僕の声だと分かっても、すぐに切らないでおくれ、紬さん』受話器の向こうから聞こえたのは、あの低く、切なさを孕んだ神楽蓮の声だった。「神楽常務……! なぜこの番号を……!?」『葵のセキュリティは完璧だ
last updateLast Updated : 2026-10-07
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