フォーラムの会場から自邸へと戻る車内。 重厚なリアシートを支配していたのは、息が詰まるほどの静寂と、葵から発せられる激しい感情の波だった。葵は紬の手首を片時も放さず、誰にも渡さないと言わんばかりの強い力で握りしめている。その冷徹な横顔にはいつもの完璧な余裕はなく、氷の奥に秘められた焦燥と嫉妬がにじみ出ていた。「……葵さん、手首が少し痛いです……」紬がかすかな声を漏らすと、葵はハッとしたように力を緩めた。けれど、握った手を離すことは決してしようとしない。「……すまない」低い、掠れた声。葵は前を向いたまま、ぽつりと呟いた。「お前があいつの前に立っているのを見た瞬間……俺の中で何かが壊れそうになった。……お前をどこか誰も知らない場所に閉じ込め、俺以外の男の視線から完全に遮断したいという衝动が……抑えきれなくなる」「葵さん……」冷酷な副社長としての顔の裏にある、あまりにも危うく、切実な過保護愛。自分を失うことを何よりも恐れている葵の熱い想いが、痛いほど紬の心に伝わってくる。自邸に到着すると、葵は紬を抱き上げるようにしてベッドルームへと連れて行った。部屋の灯りもつけないまま、シーツの上に優しく押し倒される。暗闇の中で、葵のアイスブルーの瞳が蒼い火のように揺れていた。葵は紬の丸メガネを指先でそっと外すと、サイドテーブルへ置いた。露わになった紬の目元、頬、そして唇へと、逃げ場を塞ぐように深く濃密な口づけを何度も何度も重ねていく。「葵さん……っ」「……お前の身体も、心も、すべて俺のものだと刻み込まなければ……気が狂いそうだ」葵の手が紬のドレスのファスナーをゆっくりと滑り降ろしていく。触れられる肌から伝わるのは、冷酷な仮面を脱ぎ捨てた葵の、荒々しくも狂おしいほどの愛おしさだった。「神楽があんな風にお前に触れることも、甘い言葉で惑わすことも……絶対に許さない」「逃げたり……しません……。私は、葵さんだけのものです……っ」紬が首筋に手を回し、自ら身を寄せると、葵は切ないほどの溜息を漏らし、紬の全身を自分の体温と香りで塗り替えていった。蓮の言葉がどれほど甘く危険であっても、この葵の重く激しい愛こそが自分の居場所なのだと、紬は体中で噛み締めていた。翌朝。葵が早朝の緊急役員会のために一足早く出社した後、紬はゆっくりとベッドから起き上がった
Last Updated : 2026-10-24 Read more