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All Chapters of 帰巣本能でαはΩへ還る: Chapter 31 - Chapter 40

91 Chapters

31保護団体

 病院からを後にした時「芦屋さんに会わせたい人がいるんです」と悠人が言い、山に戻る前にマンションに寄る。「ここは?」「行き場の無くなったΩの人たちを保護するマンションらしいです。俺も最近知って」「そうなんだ。でも僕とどう関係が……αが来たら怖がりそうだし……」 駐車場に車を停めると悠人もお父さんも降りる。僕もついていくと門に施錠された暗証番号8桁をお父さんが打ち込んで中に入っていく。 僕と面識ある人がいる? わけわからないままについていくと玄関の前でインターホンが押され、中から小さな老婦人が出てくる。「……あ! 大家のおばあさん!」「まあ! まあまあ! 芦屋くん!」 そうだった。アパートは溝口の強行によって無くなっていたのだった。 どうしてそこまで頭が回らなかったのだろう。僕はずっと自分のことばかりだ。 僕が溝口に監禁されている間、大家はここに保護してもらっていたんだ。  溝口に怒鳴られた上に立ち退きにさせられたなんて。世の中はαの思い通りになり過ぎている。皆が途方に暮れていたところに、山橋家の2人が手を差し伸ばしてくれた。「あの。ごめんなさい。僕が変な人に捕まってしまって──」「いいのよ芦屋くん! あなたに怪我は無い⁉︎ うちのアパート、βとΩが多かったから芦屋くんが住んでくれた時はとても心強かったのよ!」「で、でも結局立ち退きになってしまって」「そういう運命だったのよ。きっと芦屋くんが住んでいなかったら早々に立ち退きにさせられていたところだったから。やっぱりαが1人いると違うものね〜。長い間あのアパートを守ってくれてありがとうね。今は休んでね。ほら、みかん! 山橋くんも!」 大家からみかんを5つもいただいてしまった。 家具などは結局破棄になってしまったが、大家が立ち退きになる直前に合鍵を使って通帳を預かってくれていたらしい。そうだ。大事なお金。全てが頭から抜け落ちている。 ペコペコ頭を下げれば「また遊びに来てね! 絶対よ!」なんて固い握手をされ、なんだ
last updateLast Updated : 2026-10-01
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32寝付けない夜

 体の熱は下がったけれど、夜には溝口の夢を見てしまう。 何度も体を暴かれて、尊厳を奪われる夢。 夜に魘されて飛び起きる度に悠人がベッドの傍らにいる。ありがたくて、申し訳なくて。……Ωの発情期薬を打ち込まれた話以外はしてないけど、悠人は何となく察しているのだろうか。「……何も言わなくても、僕に何が遭ったのかわかるの?」 尋ねれば、目を逸らされ……「嫌なことがあったんだろうな、というのは何となく感じ取れる」と返ってくる。「そっか」 言った方がいいのか。話した方が楽になるのか。でも、優しい悠人はきっと傷つく。もしかしたら悠人が経験したものよりも酷い出来事だったかもしれない。「芦屋さん。ずっと休んでるけど……会社は、大丈夫ですか」 ベッドに座って窓から見える月を眺めていれば、悠人が聞いてくる。「仕事は……やめたよ」「そうですか」「やめさせられたっていうか」「え」「……退職届を、書かせられたんだよね」 悠人の目が見開かれる。そのあとグッと目に力が入り込んで「どういうこと」と目線だけで聞いているようだった。そうだよね。そんな反応になるよね。 あの時の僕は、恐怖で支配されていた。怒鳴られて殴られて、書かなければ何されるのかわからなかったから。 悠人に想像出来るだろうか。「まあ、どのみちトラウマで働けなかったと思うからちょうど良かったよね」 重い空気にならないように努めて明るく言うも、悠人の顔は暗いままだった。「芦屋さんが怖い思いしてる間……俺は呑気に待つことしか出来なくて……俺、あの頃もっと何か出来たんじゃないかと思うんです」「……何もなかったよ。僕はスマホを取り上げられていたし、メッセージを見ることも出来なかった。仕方なかったよ」 あんな恐ろしい溝口に当たったのは僕だけでいい。僕でもあんなに恐ろしかったのに。悠人や、他のΩがあんな目に遭ってしまうのは。 それも耐えられないよ。 そう願いを込
last updateLast Updated : 2026-10-01
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33音に導かれて

 眠れない日々が僕を苦しめる。 熱があった頃は気を失うように眠っていたのだろう。体が少し元気になった今、目を閉じる度に夢で溝口が出てきて苦しむ。 悠人も仕事があるのにずっと付き合わせてしまうと申し訳ないので、眠る部屋は別にしてもらった。これで夜中に飛び起きても悠人が起きることはない。 睡魔はあるのに眠れないのは、こんなに辛いものなのか。 * 朝。誰もいない部屋で目を覚ます。 望んでいたことなのに、顔を覗き込んでいる悠人がいないだけで少し寂しい。 ベッドから降りてリビングに向かうと僕1人分の朝食が用意されていた。 目玉焼きと食パン。 用意されているってとてもありがたい。 悠人とお父さんはもう食べ終えてしまったのだろうか。 席に着いて食べようとするも、どうにも喉を通らない。……今までもずっとゼリーしか食べて来なかったから食が細くなってしまったのだろう。 結局一口だけ齧って冷蔵庫にしまう。 お父さんは常にどこにいるかはわからないけれど、悠人は基本手漉き和紙を作っていると言っていた。事前に渡してもらった合鍵で家の鍵を閉め工房へ向かう。 窓から覗き込めばすでに作業をしている。音を立てないようにそっと入って、視界に入らない場所から後ろ姿を眺めていく。 |簀桁《すけた》の持ち手を掴み振るう。 縦に振って、横に振る。 縦に振って、横に振る。 数回振った後、くるりと後ろを振り返って完成した手漉き和紙を重ねて並べていく。 丁寧に重ねていく悠人の顔つきは真剣そのものだ。一枚終えた後、ふと顔を上げた悠人がこちらを見て、微笑む。「おはよ」「……おはよう」 それだけ。 特に会話はなかった。 それは今まで見学していた時と変わらなかった。 この場所は聖域だから。 僕はあくまでお邪魔させてもらってるだけ。
last updateLast Updated : 2026-10-02
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34小さい頃の記憶

 夢を見る。 右手は僕よりも小さな男の子の手を繋いでいる。その子が迷子にならないように、僕はいつも手を繋いでいた。「おおきくなったら、赤い糸になってけっこんしてつがいになろ」 男の子が言う。 番とか結婚の意味わかっているのだろうか。でもその顔は大真面目で、可愛らしくて僕も「いいよ」と指切りをする。 次にシーンが変わるのは、真っ赤な炎の海。 僕はいつもと変わらず小さな男の子の手を握りしめて、体が焼けない場所を求めて歩いていた。記憶にはなくても僕の口から「父さん、母さん」と出てくる辺り、この頃は両親はいたのだろう。 両親が僕の前に現れることはなかった。代わりに残ってるのはくしゃくしゃになった和紙と、大人しく着いてきてくれた男の子だけ。 僕は遠くにある孤児院に保護されることになった。僕の後をいつも着いて回る男の子は、何を考えているのかわからない表情をしていたけれど。僕がいなくなる時初めて声を上げて泣いた。「いやだ。いなくならないで」 ごめんね。お父さんにたくさん愛してもらってね。約束、守れなくてごめんね。 和紙を握りしめながら。「さよなら」と告げて大人の元へ向かう。 小さな男の子を思い出すと僕も涙が溢れてしまうから。火事の記憶と一緒に男の子のことも封印した。 * 眠れない日々は僕を苦しめる。だけど、いつも悪い夢でもなかった。たまに、火事と小さな男の子の夢を見る。それは、この山橋家で眠るようになってから。 いつも隣にいた小さな男の子と、火事。握りしめていた和紙。 夢はただの夢だと思っていたけれど、ぼんやりしていたものはだんだんと鮮明になっていく。 これは今まで僕が思い出さないようにしていた過去かもしれない。 両親がいなくなって、男の子とも離れ離れになった辛い記憶を、消していたのかもしれない。 なら、どうしても今になって思い出すのだろう。「……芦屋
last updateLast Updated : 2026-10-02
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35悠人の言葉

 僕の地元はこの町? 悠人に尋ねれば、彼はゆっくりこちらを振り返る。「……一旦、家に帰ろう」「あ。……うん」「俺も。色々と伝えたいことがあるから。後で2人で話そう」 真面目な顔で言われるから。今は大人しく従うことにした。 家に帰るとお父さんが夕食を作ってくれていた。病み上がりの僕にはお粥が用意されてあった。「すみません、何から何まで……」「いいんだよ。悠人が体調悪かった時を思い出すな〜」 朝は碌に食べられなかったけれど、夜は粗方食べることが出来た。ゆっくり眠ることが出来たからだろう。静かな空間よりも雑音がある方が僕は性に合っているのかもしれない。 そして、夜。ノックをして悠人が部屋に入ってくる。ここはそもそも悠人の部屋だけれど。「芦屋さん。夕方に言っていた話の続き、してもいい?」「うん」 ベッドに隣同士並んで。目が合う。「親父が芦屋さんを一目見た時に言っていたよ。芦屋さんは24年前に火事で両親を亡くした子だって」 悠人のお父さんが知っていた。その感じだと、悠人は小さくて記憶になさそうだ。そして僕も、記憶を封印していたから。「お父さん、もっと早くに言ってくれても良くない?」「俺が止めた。芦屋さんには関係ない話かもしれないし、変に深掘りして嫌な記憶思い出したりするのも嫌だろうって」「そうだったんだ……」 初めて工房を訪れた時に「何か思い出したりしたかい?」と聞かれたのはそのためだったのか。「OUTEメーカーの募集で芦屋さんの名前を見て……俺に会ってこいって言って」「はは、お父さんが僕たちのキューピッドたったのかな」「初めて展示会で芦屋さんを見た時……本能で番になりたいと、思った」 初めて聞いた。 あの時は碌に目も合わず、ぶっきらぼうな返事ばかりで。嫌々展示会に来たのだろうなと思っていた。いや、実際嫌々だったのだろう。「俺に火事の記憶はない。でも俺も夢で年上の男の子に助けら
last updateLast Updated : 2026-10-03
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36幼い過去の思い出

 火事の記憶があるならそれ以外に僕が見た夢も悠人は見ているかもしれない。 例えば「つがいになろう」と僕に言った記憶とか。「覚えてないな」 なのに悠人は即答する。僕から目を逸らしてぶっきらぼうに言う。「えー。記憶に無いの?」「無い」「赤い糸になってつがいになってけっこんしようって僕は言われた記憶なるのになー」「ばっ……!」 何で知ってるんだと目を見開いて、見る見る顔が赤くなっていって。「……記憶、あるんじゃん」「……タチ悪」 やっぱり小さな男の子は悠人だったんだ。そして嘘を言っていたけれど記憶にも残っている。恥ずかしかったのだろう。「まだ性別もはっきりしてなかったのに。2歳の悠人に告白されちゃった」「しかも芦屋さんじゃなくて、Ωの俺から言うってのも……なんか……」「いいじゃん。性別関係ないよ。僕は子供心ながらに嬉しい記憶だったんだよ」「……どうして?」「好きな人と一緒にいたいって思うのは子供も大人も関係ないよね」 笑って見つめる。 僕たち、ずっとずっと前に出会っていた。番になろうと約束していた。 だから大人になって再会した時、特に理由もなかったのに惹かれあってお互いに番になりたいと思ってしまったのはきっと普通のことなのだ。「……でも、俺はβになった」 悠人が、暗い声で言う。 僕はαで悠人はΩからβ。番にはなれない。「運命だと思った。他のαとは番になりたいなんて微塵も思わなかったのに、芦屋さんの時は頸が痺れて」「……うん」「芦屋さんの番になれなかったのは悔しい。でも……あいつに……霧島に。もう番を狙われなくなることにホッとしている俺もいる」 ベッドの上で膝を抱えて。顔を伏せる悠人。「……上手く言えないけど。きっとなるべくしてβになったんだと思う。本能が、他のαのものにならないように変わったんだと思う」「……だったら。今すぐΩに戻って芦屋さんに頸を噛んで
last updateLast Updated : 2026-10-03
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37両親の形見

 形だけの歯形の痕。 お互いに噛み合うなんて前代未聞。 でも上書きが欲しかった。お互いに好きな相手ではない人から噛まれた気持ち悪さがあったから。 今日は昼間に眠ってしまったこともあって夜は眠れそうにない。ベッドに2人体を横にしてだらだらと時間が過ぎるのを待つ。 窓から見える星空が綺麗。 都内にいる時はこんなに星が見えなかったかも。「……あ。これ、いつか見せようと思ってたんだよね」 ふと思い出し、両親の形見である和紙を悠人に見せる。「……これは」「火事になった時。いつの間にか握りしめていた和紙。……両親の形見だと思っていつも手元に置いていたんだ」「そう……」 悠人の手がそっと伸びゆっくりと撫でられていく。くしゃくしゃになっている和紙。もしかしたら、この和紙は24年前に工房で作られたものかも。「……親父は、この工房を引き継いだ。前の工房主が火事で亡くなってしまったから。……だからこの和紙は、芦屋さんの両親が作ったものかもしれない」「そうなの?」「……山橋家が作っている手漉き和紙とは少し違う」「そうなんだ。……具体的には何がどう違うの?」「紙の色とか、繊維の違い。それから……原料がそもそも違う」「原料?」 過去に少し教えてもらった。紙の素材にはパルプや|楮《こうぞ》、|雁皮《がんぴ》の皮が主に使用されていると。僕の両親は違う原料を使っている。「すごい、俺も初めてみた……幻の原料だよ。火事で山も燃えちゃって、全滅したものだったから」 僕が形見として大事に持っていたものは貴重な和紙だったらしい。今はもうこの世にはない原料。「その名前はなんていうの?」「……|虎《とら》の|子《こ》」 虎の子。 原料自体はもうないけれど、両親の工房を山橋家が引き継いでくれていた。「……なんだかもう、僕は胸がいっぱいだあ」 大事にしてくれていたんだ。 悠人も、悠人のお父さんも。 
last updateLast Updated : 2026-10-04
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38山へ散策

 体力を少しずつ取り戻してきた僕は「虎の子が育てられていた場所を見に行きたい」と唐突に言うも悠人は二つ返事で連れていってくれた。 2人で山を登っていく。「もう、めっちゃ山じゃん。傾斜がすごい」「逸れないでくださいね」「それは大丈夫だけど……」 病み上がりもあって少しバテ気味。でも悠人が何度も振り返って立ち止まってくれるから、そこまで体力は消耗しなかった。「ここに、虎の子があった……らしいです」「今は別の植物が育てられてるんだね……」 過去はここまで火が燃え移ったのか。恐ろしいことだ。子供時代の僕たちが手を繋いで逃げてきたことは奇跡のように感じる。「もう今は虎の子の種とかもないんだ」「はい。芦屋さんの両親で途絶えてしまいました。とても貴重な植物だったので……」 仕方ないよね。 人間だって子孫繁栄しなければいつかは途絶えてしまうから。 原料や手漉き工程は少しずつ変わっても、新しい時代に受け継がれていく。 何だかとても不思議な縁だ。 和紙が僕たちを繋いでくれた。 赤い糸はあるのかもしれないね。 番にはならなくても。「芦屋さんは……今後、どうしますか」「どうって?」「……元気になったら。都内へ帰ってしまうのですか。仕事は……どこで働きますか」「……」 まだ何も決めていないことだった。 当たり前のように就職して働き続けていたけれど。僕はしばらく、のんびりしてもいいのではないだろうか。「今まで住んでいたアパートもなくなってしまったし。働いてきた分のお金はあるから、日本一周とかしてみたいんだよね」「……それはまた、意外ですね」「決まった目的地もなく電車に揺られてぼんやりしている時間も好きでさ。その間に、自分を見つめ直そうと思って」「……はい。いいと思います」 悠人は肯定してくれた。「でも、そしたら寂しくなりますね。この山を離れて各地を回るので
last updateLast Updated : 2026-10-04
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39悠人のお父さんの証言

「そうか……芦屋くんはやっぱり24年前に悠人を助けてくれた男の子だったんだね! 父さんの目に狂いはなかったわけだ!」 山から帰り「2人でどこに行ってたの?」と尋ねてくる悠人のお父さんに、過去の記憶を話していく。うんうんと頷きながら聞いていたお父さんは、僕と悠人が覚えていなかったことを知っている人だった。「OUTEメーカーの企画を見た時も名前しか知らなかったけどもしや⁉︎ と思ったんだよ〜! αなのにΩのことを気にかけてくれる優しい人だったからさ〜!」 αでΩを気遣う人は他にもいるのだろうけど……中には溝口みたいなαもいるし、勝手に悠人の頸を噛もうとしてくる霧島というαもいる。「まあでも。親父には感謝してるよ。俺には相手はいらないと思ってたけど展示会に行って芦屋さんと出会えたし。霧島以外のαと関われたのは大きかった。……結局βになったけど。俺は芦屋さんといたい」 お父さんに素直に話していく悠人の言葉に、僕が勝手に照れて頬が赤くなっていく。「ぼ、僕も……悠人くんに出会えてよかった。昨日も2人で話してたんです。お父さんは僕たちのキューピッドだねって」 お父さんが機転を効かせなければ。僕はこの場所が地元だということも思い出せず、火事のことも思い出さなかった。何より過去に出会っていた悠人の記憶を忘れたままは寂しかったから。「悠人に番相手を探させるために都内に送り出してよかったよ! 父さんの行動は功を奏したわけだね!」 3人でわいわいと夕食をとる。 悠人が展示会で他の人に声をかけられなくてよかった。他の人と番にならなくてよかった。 そう思ってしまうくらいには、僕にも独占欲が芽生え始めている。 彼はβだから、αが不必要に干渉する必要もない。でも。極力一緒にいたい。 それは、彼が元々Ωだったから? 僕にも多少の支配欲はあるのだろうか。(溝口みたいな支配欲は、極力芽生えないでほしいな) 悠人には伸び伸びしていてほしい。 僕の隣で笑っていてほしい。 変に束縛して、命令して言葉
last updateLast Updated : 2026-10-05
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40新居探し

 悠人とお父さんは「このまま家にいてもいい」と言ってくれたけど、やっぱり僕が気を遣ってしまうし、1人になっても落ち着かなかったから。 大家のばあさんが保護してもらっているマンションへ引っ越すことにした。 あの場は『行き場の無くなったΩやβ』が主に住むマンションというイメージだったが、入居条件を詳しく見れば『帰る場所のない人、被害に遭った人』と書かれてありαの僕も移り住めるようだった。 むしろまた大家と暮らす場所が近くになるので大家も大賛成……という感じだった。 大家の他にはもちろん前のアパートで同じだった人たちもいるし、知り合いが多いので僕も心強い。「芦屋さん、本当に引っ越しちゃうの? このままでもいいのに……」 新居に足を運びながら悠人が少し不満そうに言う。持っていく家具も何もなかったので、僕は鞄1つだけですぐに引越しが完了だった。備え付けの部屋だったため本当に何も購入することがなかった。家賃を払うことくらいだった。「また工房には遊びに行くし、少し距離空けた方が会えた時の嬉しさ倍増じゃない?」 そう伝えれば「確かに……」と悠人は考え「また来ますから」と大人しく引き下がる。「何かあったら連絡してください。何かが必要になった時とか遠慮せず」「大袈裟だなあ」「……あと。お願いがあるんですけど」 もじもじしながら、悠人は言葉を選んでいる。「なあに?」と首を傾げていれば「名前……呼んでもいいですか」と返ってくる。「名前?」「はい。芦屋さん、ではなく……奏さん、と」 悠人の低く、優しい声色から紡がられる奏、という言葉に。 ポッと顔が熱くなり両手で顔を覆う。「や、やばいな」「芦屋さんっ? い、嫌でしたか」「違うよ……破壊力ありすぎたよ……悠人くんから奏って呼ばれるの、心臓に悪いな……」「……。奏さん」 ほら。また。 僕はまた心臓が高鳴る。「うん。僕は奏。……じゃあ僕も……悠人くんじゃなくて……悠人って、言ってもいい?」
last updateLast Updated : 2026-10-05
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