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All Chapters of 帰巣本能でαはΩへ還る: Chapter 41 - Chapter 50

91 Chapters

41自分自身で確認

 自慰なんてもう一生することがない。 溝口にあれだけ強制的に絶頂させられた辛い記憶があるから。 そう思っていたのに、悠人と再会し、心が満たされていくと。自然と体が熱くなって熱を持て余してしまうことが増えた。今までは山橋家にいたから、自慰することも憚られてしまっていたけれど。 ここはもう誰にも邪魔されない新居だから。 早速深呼吸をし、ベッドに寝そべってズボンと下着を下ろして直接触れる。「ん……」 2週間振りだろうか。性欲というものは不思議なものだ。あれだけもう関わらないと思ったのに、結局触らないと満足しない体になっている。 目を閉じて悠人を思い出す。「奏さん」と優しく微笑んでくれる顔もいい。だけれど、手漉き職人として真剣な顔も好き。「……!」 不意打ちで溢れ出てしまった。慌ててティッシュで拭き取りズボンを履き直そうとするも……まだ熱がある。 なんだよ、まだ残ってるとか学生かよ……ともう一度触れて。何かが違う。「……ここじゃ、ない?」 体が、疼く場所。 意識を集中させて……それが、溝口に散々|弄《いじ》られてしまった前立腺が熱を持て余していることに気づき。 わなわなと体が震える。(な、なんで。どうして今更。もうなかったことにしたいのに!) 職人顔の悠人を思い出してしまったから。胸が昂って、同時に尻穴も刺激されてしまうって……まるで、悠人に抱かれたいと体が訴えているようで……。(……! 溝口じゃない。僕の相手をしてくれるのは悠人だ。悠人がどこまで知ってるのかわからないけれど……ああ、我慢できない、一旦中を綺麗にしよう) 浴室に駆け込む。 *「ふ……ん、指じゃ、やっぱ届かないのかな……」 浴室で中を粗方綺麗にしたあと、ベッドの上で四つん這いになって意を決して指を入れる。あの時ぶりの異物が
last updateLast Updated : 2026-10-06
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42弁解させてください

「奏さん、あの、本当にごめん。1人で楽しんでるところに……」「う、ううっ」「で、でもね? ……弁解だけさせてくれない?」 僕はもう穴があったら入りたいくらいのレベルで恥ずかしい。裸で四つん這いになって尻穴に指突っ込んでいるところを見られた。 悠人はベッドのそばで正座をして弁解しようとしている。「なんだよっ」「……玄関の! 鍵! 掛かってなかった! インターホン鳴らしたのに返事ないし、鍵開いてるしで、何かあったんじゃないかって慌てて中に入ったら……ふふ」「……笑うなし」「ふふ、あははっ! ご、ごめん……ひぃ〜、お腹が痛いっ……くくっ」「……ねぇ! そんなに笑う⁉︎」「わ……笑っちゃうよ! 俺の心配返してよ⁉︎」 めっちゃ笑ってる! 酷い! 僕もちょっと怒ってたんだけど。 悠人が帰ったあと、鍵をせずに僕は自慰に耽ってしまったのか。  鍵をかけてなかった僕が100%悪いわけだし……悠人がこんなに大声出して笑ってるの初めて見たし。 まあ、悪くないか……と許してしまった。「笑いすぎ〜……」「はぁ〜。でも、よかった。何もなくて。不用心だから俺は心配です」「はい。ごめんなさい」「……じゃ、俺は帰──」「らせないよ⁉︎」 立ち上がった悠人の腕を掴んで思い切り引っ張る。「おわっ⁉︎」と体勢を崩した彼が、慌ててベッドに両手をついて。 ……|所謂《いわゆる》床ドン、みたいな状況になった。「僕を散々笑った悠人も巻き添えだよ?」 え、と固まる悠人ににっこり笑って両手を首に回してしがみつく。「こわ……」「何か言った?」「ん? いいえ?」「……悠人。……して欲しいんだ」 静かに見つめ合う。「したいって言うのは。さっきの行為から見るに……」「……うん。抱いて欲しいんだ」 悠人の目が、大きく見開く。「俺
last updateLast Updated : 2026-10-06
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43緊張を解いて

「ねえ。なんでここに戻ってきたの?」「ああ、スマホ忘れちゃって」「……本当だ。テーブルに置いてある……」「気付かずに耽っちゃったんだ?」「笑うなし」「ふふ。あ、ごめん……ふふっ」「……も〜!」 僕の間抜けなところは見られてしまったが、悠人が何故戻ってきたのかは解明した。確かにインターホン押しても返事がなく、しかも鍵が空いていたら焦るよね……。 行為をするにしても引っ越したばかりで何も手元になかったので、一度悠人が必要なものを購入するために出かけた。 目の前に置かれるのはローション。 いよいよそれっぽくなってきたな……と思えば、悠人は爪切りで指の爪を切り始めた。「え、今?」「うん。俺もしばらくしてなかったから。一応ね」「悠人はさ。……自慰する時は、どこを弄ってたの」「直球だな」「ごめん」「いいよ。俺は……Ωの時はやっぱり、中に刺激が欲しかったから1人でよく指を入れてたりはしたけど。βになってからは。……そもそもあまりしてないかも」「そっかあ。……僕はさ? 前だけ触って満足してたんだけど。……あの人に体を無理に開発されちゃって、お尻の穴が疼くようになっちゃった」「それはノーカンでしょ」 爪やすりで整えた悠人は手を洗ってから、ローションを手に取る。「入念だね」「大事な奏さんを抱くのだから当然」「はは。なんか、お姫様になった気分だな〜」 だって溝口は。いきなり触ってきたから。やめてって言ったのに。無理に入り込んできたから。苦しくて怖くて悔しくて、でもどうしようもなくて。「……奏さん。怖くなったら、すぐに言って」「……うん」「指、入れるね?」 仰向けに寝そべっている僕の尻穴に、悠人の中指が入り込んでいく。やはり異物感がある。でも、溝口のじゃなくて、悠人の指だと言う事実に。……胸は熱くなってくる。「……痛くない?」「ぅん……大丈夫……もう少しスピード上げても良いよ」「駄目。ゆっく
last updateLast Updated : 2026-10-07
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44恐怖のない快楽

 ガクッ、ガクッ。 腰が震えて、呆然とする。 何、今の。「……ここ、かな」 悠人が狙いを定めたところを緩軽く押すと、また僕は目の前がチカチカしだして、緩く勃っていた自身がムクムクと立ち上がっていく。「……前立腺、見つけた。気持ちいい?」「うん、うんっ……なにこれ、すごいっ……気持ちいいっ」 溝口の時は強く強く押されて苦しかったけれど。 悠人は優しくトン、トン、とノックするように快楽を引き出してくれるようで、安心して身を委ねていられるし、気持ちいい。「あっ、やばいっ。気持ち良すぎて、駄目……怖いっ」 目の前の悠人にしがみつく。「大丈夫。握ってる俺の手を意識して……」 快楽で先ほど握ったばかりの悠人の手を見る。悠人の綺麗な指が、僕の手を優しく撫でていく。 頭から足の指先まで、悠人は今僕のことをずっと考えて行動してくれているんだと知って、胸がいっぱいになってしまった。「なんだかもう、幸せで胸がいっぱいだあ……」「……嬉しい。奏さんがそう思ってくれるなら、俺本当に嬉しい」 ゆっくり顔が近づいてキスされる。 なんだか今日の悠人はかっこいい。好き。好きだって、思う。 だから、大丈夫。 繋がりたい。 上書き、して。「悠人……きて。早く、きて?」「あまり急かさないで……大事に大事に、したいから」 しっかり僕で勃ってくれていることが嬉しい。早く繋がりたくてたまらなくて、悠人がゴムを付けてる時間さえも惜しい。「……入れるよ」「……うん」 見つめ合って。手を繋いで。 ゆっくり、ゆっくり。 ほんとうに、ゆっくり。 痛みは感じなかった。 圧迫感はすごいあるけれど。 見上げると、理性で腰をゆっくり進めてきているのがわかる。真剣な顔で、汗が垂れている。 わ、や
last updateLast Updated : 2026-10-07
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45断片的な記憶

 覆い被さる悠人の首に腕を回しながら快楽を追う。(気持ちいい、気持ち、いい……こんな快楽、知らないっ) αなのに抱いてくれてありがとう。 犯された体を上書きしてくれてありがとう。 僕たちって、他の人たちと比べたらだいぶチグハグなのかも。 悠人の温かい体温に触れているはずなのに、脳裏に溝口が現れる。(い、今は現れなくていいから──)『浅ましい体だな』(やめてよ。今は悠人との時間なのに。出てこないでよ)『出来損ないのα』『犯されるαはΩも同然』『お仕置きが足りないようだな? お前が口に出来るのは〝ごめんなさい〟だけだ!』 浮かび上がる溝口に殴られそうになって、両手で顔を覆う。「……奏さん?」 悠人の声。そうだ。溝口じゃない。 悠人は、止まってくれる。僕の異変に気づいて顔を覗き込んでくれる。「……どうしたの」「う、う……ひっく、ぐすっ……ごめんなさい……僕は出来損ないのΩです……ご奉仕も上手に出来なくてごめんなさい……」「……奏さん、違うよ。俺を見て」「ごめんなさい、ごめんなさい……口でもなんでもします、退職届も書きますから、どうか殴らないで……!」 ぎゅうっと目を閉じる。 殴らないで。罵倒しないで。これ以上ぼくの尊厳を奪わないで。 腕を強く引かれる。上半身を起こされ、抱き止められる。身構えれば「大丈夫、大丈夫」と耳元で優しい声がし、頭を撫でられる。……溝口じゃない。「……悠人?」「……」「悠人、どうしたの。……泣かないで」 悠人が、泣いている。 僕を抱きしめたまま泣いている。 ……僕が溝口に犯されたことが、嫌だった?「ごめんね。初めてじゃなくて。散々犯された体でごめんね」「違う。俺じゃ、救えない……奏さんの苦しみを取り除くことが出来ない……こんなに苦しんでる奏さんを見つめる
last updateLast Updated : 2026-10-08
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46忘れさせて

「奏さん、ちょっといい?」 仰向けからうつ伏せにされる。背後から手を握られて、でも悠人の顔が見えなくなるから少し不安。 でも背後にピタッと悠人がくっついて。頸に熱い息。「……頸、噛んでもいい?」 支配欲は、僕よりも悠人の方が強いのかもしれない。 行為中、溝口に何回も噛まれた頸。 僕はαだから、Ωにはならないけど。 こんな僕を、支配したいと思ってくれるの。出来損ないの僕を、魅力的だと思ってくれるの。「……噛んで。……悠人、頸……噛んでっ」 ガッと。強い力で噛まれる。でも嫌じゃない。体温が上がる。悠人に求められてると気づいた途端、体に快楽が流れ込む。「あ……あ……!」「誰も思い出さないで。俺だけを見て」 そう呟きながら腰を動かして、前立腺を刺激されながら頸をまた噛まれる。 悠人もフラッシュバックした僕に狼狽えたりしたけれど、飲み込みが早い。僕が嫌な記憶に支配されないように、強い多幸感と快楽で押し流そうとしている。「あ……悠人、悠人……っ!」「奏さん。好き……誰にも渡さない。俺のものだ」 ゾクゾクと。頸がビリビリ痺れる。 嬉しい。幸せ。αなのに、噛まれることを望んでいるような。「噛んで……頸、噛んで……!」「望むなら何度でも」 何度も何度も頸を噛まれる。 体がビクビクと痙攣して絶頂する。その度に悠人は腰を止め何度もキスをし、僕の体を気遣ってくれる。「悠人……好き……大好き……」 心も体も悠人のものだよ。 もう誰にも暴かれないように。「奏さん。もっと……もっと俺だけを見て」 βの悠人はまるでαのように僕の頸を噛み続けた。 僕もΩのように乱れて悠人を求め続ける。 好きな人になるだけでこんなにも気持ちが違う。 溝口の時はあんなにも最悪で泣き叫んでいたのに。「忘れさせて……あんなやつ
last updateLast Updated : 2026-10-08
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47戸締りはしっかり

 次に目が覚めると、僕は服を着ていた。ぼんやり部屋を見渡せば、浴室から音が聞こえる。悠人がシャワーを浴びているのだろう。 寝返りを打とうとして……いでで! 腰がとても痛い。 ……抱かれたという事実は夢じゃない。(悠人、かっこよかったな……) 思い出しては、勝手に顔が赤くなったりしてベッドの中で身悶える。「あ、起きたんだ。おはよう」 シャワーを浴びてきた悠人が、こちらに寄って来る。 髪は濡れたままで、野生の男って感じで。……ドキドキして。 目を逸らして布団を頭まで被る。「あ……あれ。どうした? なんか、嫌だった?」「……水も滴るいい男すぎて辛い……」 数秒後。ふふっ、と笑い声が聞こえる。「かっこいいの? 俺。じゃあ、奏さんのおかげだね」「え」「奏さんも、めちゃくちゃ可愛かったよ」 布団越しに頭を撫でられる。 ああもう、メロい男は罪だ。 どんどん抜け出せなくなってしまう。「頸を噛む悠人……本当にαだと思った。僕もΩになった気分だった」 そういえば悠人は苦笑した後「βだよ」と呟く。「奏さんを気持ちよく出来たのならよかった」「そりゃもう。……1人でする時の何十倍も……気持ちよかった、です」 気持ちが通った行為はとても気分がいいものだ。 これからも……悠人と体を重ねていきたいな。 嫌な記憶は思い出さないようにしながら。「奏さん。鍵はしっかり閉めてね。このマンションのセキュリティがしっかりしてるとはいえ、やっぱり心配」「うん。ごめん。気をつける」「でも、それだけ俺に夢中になってたのかと考えると……それもすっごく嬉しい」「もう、いつまで言うの。確かに僕が悪かったけど……ひ、必死だったんだよ」 体の熱を持て余して大変だったのだ。 だから、また来てよ。また、たくさんしようよ。そのために新
last updateLast Updated : 2026-10-09
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48忍び寄る影

 春になったら悠人と旅に出る。 そのためには仕事を始めてしまったら不自由になってしまうと思いまだ復帰はしていない。 マンションの近くにあるスーパーに立ち寄る時も「出来るだけ1人にならないように」と悠人に忠告され大家と出かける機会が増えた。 話し相手にもなるし、重い荷物なら僕が持ち運べるから丁度いいだろう。暇になるよりは全然良い。「芦屋くん、いつもありがとうねえ」 大家からはまたみかんをいただいてしまった。「こんなに?」「芦屋くん、αにしては柔らかい雰囲気だと思ったけれど、最近また優しい雰囲気になったわねえ」「え、そうですか?」 それは多分、悠人の優しさが僕にも染まってきたということだろう。詳細までは言えないから、少し笑って誤魔化した。 * 今日もいつものように大家の荷物持ちをした、スーパーからの帰り道。 マンションの前に突っ立っている男を見つける。「何かしらねえ、あの人……」 大家をその場に残して声をかけてみる。 その男はギョッとこちらをみて……「やっぱαもここにいるのかよ」と文句を言いながら去っていく。 ……その男は過去に悠人にΩの発情期薬を打とうとしていた霧島だった。 Ωを狙っているのだろうか。「嫌ねえ。何もなければ良いのだけれど……」 大家と会話しながら部屋に戻る。 マンションに住む人々には後で注意喚起を送るとして。(悠人には……まだ報告しなくても大丈夫かな) 悠人と霧島が接触してしまう方が嫌だった。霧島も僕の顔を見ていなくなったし、付き纏い行為がなくなればいいのだけれど……。 * マンションは8桁の暗証番号を打ち込まないと入れないようになっていた。 だと
last updateLast Updated : 2026-10-09
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49霧島と溝口

 指定された場所に向かえば、Ωを捕らえている霧島がいた。「約束通りに来たよ。その子を返してもらおうか」「はっ、自分がどうなることかも知らずに……いいぜ、その代わりお前はこっちに来い」 解放されたΩを抱き止め「早くみんなの元へ」と囁く。「ごめんなさい」と謝り続ける彼にそんなことないよと首を振り、霧島を睨む。「目的は何?」「俺はただ山橋を番にすることを邪魔したお前を痛ぶることが出来たらと思ってたんだけどよ〜、俺よりもお前にかなり執着しているαを見つけてよ」 霧島が車の後部座席のドアを開け「乗れよ」と言う。深呼吸し、中に入り込み……体が硬直する。「久しぶりだな、芦屋。……しばらく見ない間にまた雌っぽい顔になったか?」 もう会いたくないと思っていた溝口がいた。 霧島と溝口が手を組んで僕を落とし込めようとしていたのか。 溝口を見てしまったことで一気に過去を思い出し、車から降りようとするも溝口に抱きすくめられ敵わない。「嫌だ! 離して!」 霧島が運転席に回ると急発進して僕をどこかへ連れ去っていく。「暴れるなよ!」 溝口が怒鳴れば僕はすぐさま身が竦み固まってしまう。それだけで満足そうに僕の頭を撫で「調教は意味があったようだ」と笑う。「さあ、お仕置きの時間だ芦屋……。今までどこにいた? 誰かに抱かれたのか? 全部吐いてもらうぞ。答えるのを拒否する度……お前が泣いて拒否した注射を打つ」「……!」 注射器を見せつけられる。 どうして、またこんな目に。 Ωの危機を無視していればよかった? でも、それは。αとして見逃せなかった。 こんなことになるのは嫌だけれど。 Ωが可哀想な目に遭ってしまうくらいなら、まだ僕が被害に遭った方がいい。 だから、大丈夫。 前に薬を打たれても僕はΩにはならなかった。だから、今回も大丈夫。「お前を匿ったのは誰だ?」 早速溝口に
last updateLast Updated : 2026-10-10
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50尋問

「もう一度聞く。お前を匿ったのは誰だ?」 「ふー……っ、ふー……っ」 頭が痛い。視界がくらくらする。 車はずっと走っていて、どこに連れて行かれてるのかは検討もつかない。 それでも名前を出すわけにはいかなかった。睨みつければ「また躾が必要か?」と薬を打たれていく。 「ぅ、ぐ……っ」 「芦屋。見ない間に悪い子になってしまったようだな。芦屋を悪い子に仕込んだのは誰だ? 誰にそんな生意気な目をしても良いと言われた?」 仕込まれてなんかいないよ。 ただ優しく、僕が存在することを肯定してくれて。 愛してくれた人だよ。 天と地の差がある人だよ。 「もしかしたら……お前、アイツと関わりあるのか? 俺の番になる予定だったΩとの仲を邪魔した奴だろ」 車を運転しながら霧島が口を挟む。 「あ? なんだその話は」 「溝口が今打ってる薬あるだろ? 俺も番相手に打とうとしたら……コイツに邪魔されたんだよ」 霧島も僕のことを覚えていたのか。 溝口といい霧島といい、世の中には碌でもないαが蔓延っている。 αの僕が薬を打たれて体調悪くなるだけならまだしも、元Ωだった悠人が薬を打たれてしまった時の恐怖は計り知れないだろう。……未遂で済んだのは不幸中の幸いか。やはり霧島と悠人は接触させない方がいい。 「芦屋は無駄に正義感があるからなあ。駄目だろう? 霧島の番相手にちょっかいかけたら。芦屋はΩになるんだから、Ωに話しかける必要はないんだよ」 溝口に口答えしたところで会話にならないだろう。 目を逸らせばビンタされ「返事をしなさい」と怒鳴られる。 まだ、恐怖でいっぱいになってはいない。まだ、抵抗出来る。……まだ、反抗する。 「生意気な芦屋には……立場をわからせる必要があるな」 走行中の車の中で行為に及ぶつもりか。 ズボンと下着を脱がされ尻穴にローションを注ぎ込まれる。 やめろ。溝口のものを受け入れるための場所じゃない。 傷ついてしまったところを、悠人にこの前やっと上書きしてもらったところなのに。 触るなよ。 無我夢中で暴れるも、僕の力では抵抗敵わずに組み敷かれて溝口が覆い被さってくる。 「久々の感覚だ……どうせ犯されたら雌になるんだ……それが嫌ならせいぜい抵抗しろよ? 芦屋ぁ……」
last updateLast Updated : 2026-10-10
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