LOGIN性別が変わっても。番になる運命は変わらないし、夢も諦めない。 αの芦屋奏(受け)は、Ωの和紙職人、山橋悠人(攻め)に心惹かれて工房を訪れるようになる。 良い雰囲気になる仲、関係を引き裂くように奏は上司のαに監禁され、怪しい注射を打たれΩに性転換させられそうになってしまう。命からがら逃げた先はいつも優しく迎えてくれる工房だった。 一方、悠人は過去に脅威だった元同級生のαと再会したことが引き金になり、βに性転換していた。 番にはなれないけれど、一緒にいたい。 そんなお互いの想いが強く惹き合わさって、奏と悠人は性転換を繰り返す──。
View More物心がついた頃には、僕の両親はいないことに気付いた。形見として残されていたのは、くしゃくしゃに握りしめられた一枚の和紙だけ。
両親の思い出といえば和紙しかないから、丁寧に折りたたんでいつも内ポケットに入れていた。お守りみたいなものだった。 僕……「芦屋さん」 「ん?」 駅までの道。 工房で別れたはずの悠人が追いかけてきた。珍しいなと思いながら「どうしたの」と声をかければ。 悠人は一度深呼吸をしてから「来週、遊びに行きませんか」と言われる。 え。 悠人と。遊びに行く。 本当に? 「あの……俺、芦屋さんがいいなって思っていたのは本当で。番相手として憧れていました。結局俺はβになってしまいましたけど……俺の思い出になってくれませんか」 なんだか色々複雑だけれど。 Ωだった悠人は僕のことを好きだと思ってくれていたということだよね。 βになったら気持ちは変わってしまうのだろうか。 それとも、番えないから。僕の番相手のために身を引こうとしている? ……僕は未だに気持ちの整理がつかずに悠人が好きなままだよ。Ωでもβでも関係ないよ。 僕でも性別が変わったことを不思議に思うのだから、悠人は尚更受け入れ難かったかもしれない。 「……思い出じゃなくても、何回も遊びに行こうよ」 「いいんですか」 「うん。僕も悠人くんともっと仲良くなりたかったから嬉しいな。Ωとかβとか関係なくね」 「……ありがとうございます。あ、じゃあ連絡先……」 出会って二ヶ月で漸くお互いの連絡先を交換する。『山橋 悠人』が登録される。気持ちがほくほくする。悠人もそうだったらいいな。 「どこ行くかはまだ決めてなくて……」 「わかった。帰ったら連絡するね。また来週ね!」 コクリと頷く悠人が本当に嬉しそうだったから。どうにかして期待に応えたいと思ってしまう。今日はいい日だ。早く帰って明日に備えよう。 早く来週にならないかなあ……と思いながら一人暮らしのアパートに辿り着き、鍵を出そうとしたところで……背後から口を塞がれる。 「ん⁉︎ ん──!」 まずい、と思いながらも薬品を吸い込んでしまえば。 段々と瞼は閉じてしまい。 気付いた時には見知らぬ部屋でベッドに大の字に拘束されていた。
「芦屋さん。結局、紙でΩの鍵を作る企画はどうなったんですか?」 工房に戻って。 アクセサリーを作っている姿を見つめていれば、ふと悠人がこちらをみて尋ねてくる。 「あー、あれはナシになった。やっぱり現実味がないって」 「そうですか」 「あと、Ωが勝手につけていいものではない、とか。αの許可がないと鍵はつけられない、とか。……上のものに色々言われたんだけど、よくわからなかったんだよ」 「……要は、αにとってΩは都合のいい道具としか思ってないんです。発情期になったΩがいたら頸を噛むのは本能。αにとって、頸を噛めなくなるようなストレスがかかることはするなってこと」 悠人がアクセサリーを作りながら淡々と言う。 「でも。Ωは頸を噛まれたらそのαと番になっちゃうんだよね? 嫌いな相手と番になることもあるってこと?」 「はい。Ωに拒否権はありません」 「……そんなの、勝手すぎるし酷いよ」 声を振り絞れば、悠人が手を止めてこちらを見る。 「芦屋さんはαなのに、Ωを支配したいと思ったことはないのですか」 「……ないよ。……一応αだけど……とてもフェロモンが薄いんだと思う……」 「さっき霧島を追い払ってくれた時は強い威圧を感じましたけど」 「それはそれ。これはこれ」 悠人がふふっと笑う。その横顔に釘付けになる。綺麗な顔だ。 和紙を作っているときや、アクセサリーを作るこの時間。悠人はとても生き生きとしている。 「今日は本当に助かりました。極力1人で出かけないようにします。でも芦屋さんも、気をつけて」 「僕が気をつけることなんて……」 「喧嘩に弱そう」 「ねえ〜」 「あははっ」 無邪気に笑っている。 今までは警戒されていたのか言葉もぶっきらぼうだったけれど。距離が近くなってから敬語になることってあるんだ。 「……1つ聞いてもいい?」 「はい」 「……男に注射打たれそうになったとき。やめてって必死に言ってたよね。もし……打たれたとして、その後警察に行ったとしても〝合意だった〟ということになるの?」 「……はい。Ωはαに逆らえません」 「……あんなに、やめてって抵抗していたのに? その言葉が無かったことにされるんだ」 「悔しいですけど。襲われたΩのほとんどが最終的には〝合意だ
翌週。 今日も工房へ向かう。この時間になるといつも原料を抱えた悠人がいるのだけれど今日は姿が見えない。あれ? と周りをキョロキョロしていれば遠くから声が聞こえる。 「頼むから、帰ってくれないか」 「散々俺を振り回してくれたな。だから少し付き合えよ」 早足に取り巻く男と距離を取ろうとしている悠人がいる。……付き纏わられているのだろうか。 迷惑そうな顔をしている悠人に構わず男は手を掴み別の場所へ連れて行こうとしている。慌てて悠人は踏ん張っているが、男が恐怖対象なのかあまり抵抗が出来ていない。 「やめ……俺はもうっ」 「番を白紙にさせやがって。だけどな……手に入れたんだ。発情期を引き出す薬だよ! これでお前の性を思い出せ!」 「……! 合意のないものは犯罪だ、俺はもうΩじゃない! やめろ!」 「変わったお前を元に戻してやるって言ってんだ! 大人しくしろ!」 男が注射器を出す。 僕の前では基本気怠げな態度の悠人は、僕が見たことない恐怖の顔でやめてやめてと抵抗している。……只事じゃない。 「……何をしているんだ!」 ビリビリと空気が震える。 僕から放たれたαの威圧。 あまり実用なんてしたことがなかったけれど。今は、使う時だろう。 悪いことをしている自覚はあったのだろう。男は僕の声に一目散に逃げ出して行った。 「悠人くん!」 体を抱えて蹲る悠人のそばに駆け寄り背中を摩る。顔色が悪い。 「大丈夫だよ、変な人はいない。深呼吸しよう。吸って……吐いて……上手」 呼吸が整って。揺れる瞳と目が合う。 「……ありがとう」 素直な言葉に、少し胸が苦しくなる。 「今の人は?」 「……霧島っていう男です。俺を番にしようとしていました」 思考が止まる。番。α。 じゃあ、悠人は。 顔を見れば、苦笑して「でも、出来損なっちゃいました」と力なく言う。 「出来損なう……番には、ならなかったということ?」 「はい」 「……それは、どうしてなのかな」 「噛まれる直前に性転換して、βに」 αとβとΩ。 判別されたら、基本は一生変わらないが、まぐれで変わる人がいると聞く。 悠人がその1人だった。 「中学からの同級生で。何回もしつこく番になれと言われていて。断ったら、勝手に頸噛まれて」 「……そんな」
それからは週に1回、毎回その工房へ向かうことになった。 商品が気になるのだったら通販や直売店に行けばいいと教えてくれたけど、僕はまた、手漉き職人の姿を見に来てしまっていた。 悠人が嫌だというまでは、見続けていたい。 毎週、朝早く来たら重い原料を抱えた悠人が工房から出て来て「また来たんだ」なんて呆れられる。もう一ヶ月も続くとそれが挨拶みたいになっていた。 * 「芦屋くん、来てくれたのにごめんねえ。父さんは通常通りなんだけど、悠人が体調良くなくて……」 今日も工房へ遊びに行けば、悠人の姿はおらずお父さんが謝る。 「確かに最近特に冷え込みますもんね……大丈夫ですか? 僕、何か買って来ましょうか」 「いやいや! 芦屋くんの手を煩わせるわけにはいかないよ。月に一回なるものだからね……」 「え?」 「……Ωの発情期なんだ」 ……そうだった。 手漉き和紙職人の姿に見惚れてしまっていたけれど、彼はΩだった。 そうか。大変な時に来てしまった。 「山下《くだ》ったところに町もあるし、遊びに行ってもいいと思うな」 「はい……」 僕たちはαとΩだから。 会うわけにはいかなかった。 駅の方に戻っていく。 駅前にある小さな店にふらりと立ち寄ると、悠人の工房の和紙が売られてあった。 (……やっぱり、綺麗だよな) 見たことある洋紙もあるけれど。大量生産の紙と、手作りの紙。紙としての用途は同じかもしれないけれど。どうして僕にとっては特別に感じてしまうのだろう。 (そういえば手漉き和紙が出来る工程を眺めるだけ眺めて購入したことないかも) 展示会でもらった紙を一枚。 (改めて購入して……手紙でも書く? ……いや重くない? 週に1回会ってるだけの人に手紙って……悠人くんは嫌々かもしれないし……) 良かれと思っての行動が裏目に出ることを考えてしまう。 (でもこのまま……帰るのもな……いつも貴重なものを見せてもらってるわけだし……ここは感謝を) 何もしないよりはやった方が良い! との結論になりレジに和紙とボールペンを持っていく。 * (なんか……なんか、色々書きたいことあって数枚になっちゃった。重いかな……重いって何? 僕たちそもそも付き合ってるわけじゃないし……てか付き合うって発想何⁉︎) 勝手に一人で悶々と