LOGIN性別が変わっても。番になる運命は変わらないし、夢も諦めない。 αの芦屋奏(受け)は、Ωの和紙職人、山橋悠人(攻め)に心惹かれて工房を訪れるようになる。 良い雰囲気になる仲、関係を引き裂くように奏は上司のαに監禁され、怪しい注射を打たれΩに性転換させられそうになってしまう。命からがら逃げた先はいつも優しく迎えてくれる工房だった。 一方、悠人は過去に脅威だった元同級生のαと再会したことが引き金になり、βに性転換していた。 番にはなれないけれど、一緒にいたい。 そんなお互いの想いが強く惹き合わさって、奏と悠人は性転換を繰り返す──。
View More物心がついた頃には、僕の両親はいないことに気付いた。形見として残されていたのは、くしゃくしゃに握りしめられた一枚の和紙だけ。
両親の思い出といえば和紙しかないから、丁寧に折りたたんでいつも内ポケットに入れていた。お守りみたいなものだった。 僕……「ママ〜、ゆうとくん家行く〜」「またぁ⁉︎ 奏、昨日も遊びに行ったじゃない。ご迷惑になるわよ」「ゆうとくん家に行く〜!」 3歳になった奏は暇さえあれはいつも山橋家に向かうと駄々こねる。生まれたばかりの悠人を1人で世話するのは大変なので私たちもよく家を尋ねてはいるのだが……昨日の今日では悠輔もゆっくり出来ないだろう。「奏、パパと手漉き和紙作ってみないか?」「ゆうとくん家行くもん〜!」 私の提案はあっさり無視され少し打ちのめされる。全然和紙に興味無さそうだ。3歳児の駄々をどうしたものか……と夫婦で困っていれば、インターホンが鳴りなんと悠人を抱えた悠輔が玄関の前にいた。「海都さん、楓さん、ごめんなさい……俺をちょっと1人にさせてくれませんか」 * 芦屋家に悠人が来たことで奏は大喜びだった。山橋家に向かうことではなく悠人に会うことが目的だったのだろう。「ゆうとくん、かわいーねえー」 ベッドの上で静かに眠っている悠人の手をそっと握りながら奏は隣にいる。兄にでもなった気分なのだろうか。 悠輔は悠人を預けたきり外出してしまいどこに向かったのかわからなかった。「あなた……もう一度一緒に暮らさない? 生まれたばかりの子供を育てながら働くのは大変よ。わたしが奏を産んだ時だって……結人さんがよく面倒を見てくれていたもの」 楓がぼそっと私に言う。 芦屋家的には反対することなど何もない。あとは悠輔の気持ち次第なのだが……彼はいつも「大丈夫ですから!」と明るく言って断っていた。 しかしそろそろ限界なのではないだろうか。「結人くんはもういないからな……」 昼間から夕方、そして日が暮れても悠輔が戻ってくる気配は無い。心配に
温かな日差し。 手を握られている感覚。 赤子の泣き声。 そっと目を開けると、悠輔が顔を覗き込んでいる。僕は……?「お疲れ様、結人。赤ちゃん無事に産まれたよ。元気な男の子だ」 隣の泣き声は僕の赤ちゃん――息子だったか。体は動かず、何とか首だけを動かす。おぎゃあおぎゃあと大きな声で泣いては小さな手を彷徨わせている。「悠輔……赤ちゃん、僕の腕に抱かせてくれる……?」「ああ」 悠輔が一度抱えたことでこれまた大きく泣き出し「わ、わー。嫌なのかな⁉︎ ほ、ほら! ママだよ〜」とおどおどしながら手渡される。そうか。僕がママか。 腕の中に感じるずっしりした重み。とても温かい。あんなに泣いていたのに僕が抱くとうとうとと目を閉じて眠っていく。「ママの方が落ち着くのかな」「これからパパが抱いていくんだから」「……そんなこと言わずにさ? もっと俺たちと過ごしていこうよ」 これからも家族3人で。 とても魅力的だった。 答えようとしたけれど、なんだか僕も猛烈に眠くなってしまい瞼を閉じる。「……結人?」「……うん」「結人。……ゆいと、まだ寝るなって」「んー……」 どうしても瞼を開けることが出来ない。腕の中にいる赤ちゃんの温もりを感じながら。意識が遠くなっていく。でも、これは伝えなきゃ。「この子の、名前は……〝悠人〟でお願いね……」 悠輔と結人から。悠人。 素敵な名前でしょ? 妊娠している時に、2人で考えていたんだ。男の子が生まれたら悠人にしようって。「うん、うん、わかった……ちゃんと申請しておく、から…&hel
母親は九条たちに何も告げ口しなかったのは本当のようで、しばらく経っても誰かが家に訪ねてくることはなかった。 母親はただ本当に僕の様子を見に来ただけだった。……そういうものなのだろうか、母というものは。 しかし万が一のためにも「妊娠した」という報告は芦屋家以外には誰にも言わなかった。この期に及んで押しかけられたりでもしたら、尚更逃げるなんて困難だ。 僕たちは幸運に恵まれたのかあの日の一度の出来事で子供を体内に宿した。日が経つにつれて大きくなるお腹。様子を見に来てくれた楓に連れられた奏が不思議そうに膨らんだお腹を見ている。「お腹の中に赤ちゃんがいるんだよ」 伝わるかわからないけど。奏の手を僕のお腹に触れさせると、目をキラキラさせて僕のお腹を撫でていく。奏は2歳半。この中に命が宿っていること。何となくわかるかな。「あ、動いた。……奏くんに反応してるのかも」 絶対元気に、健康に産んでみせるから。今はまだ僕のお腹の中で待っていて。 * 臨月になり、家から病院へ移動し入院することになった。陣痛にかなり苦しみ気が遠くなるも、絶対にこの子を無事に産むという気持ちだけで痛みに耐える。 ……この時、とうとう九条が家を突き止めたらしい。しかし家には悠輔しかおらず、僕は入院中だったためシラを切ることが出来たようだった。悠輔が九条を知っていても、九条は悠輔が僕を連れ出してくれた人だと知らないから出来たことだった。それでも「結人はどこだ」と詰め寄る九条の姿は海都も見つけて追い払ってくれたらしい。 本当に、僕たちは芦屋家に助けられている。いつか恩返し出来たらいいな。「ぐ……、そろそろ、産まれる、のかな?」 痛みと、体の弱さと。けほけほ咳き込んでしまえば骨が折れそうだった。子供だけは守らないと。 両手をお腹に添え、撫でていく。 元気に産ま
「――ぃと……結人!」 日は暮れて部屋の中はすっかり暗くなっていた。体を揺すられる感覚にそっと目を開くと、悠輔がいた。悠輔の服で作った巣。「……遅くなってごめん。発情期治らない感じ?」「うん……抑制剤も飲んだけど……効果ないみたい」「そう……」 服の山を掻き分け上半身を起こす。悠輔は、僕と服の山をまじまじと見ながら「これが、巣作り……」と呟いてポッと顔を赤く染める。「え、どうしたの」「いや……結人が。俺を待ってくれていたんだって思うと。嬉しくなっちゃって」「……ふふ」 両手を広げたら悠輔の大きな体の中にすっぽり埋められる。温かくて力強くて良い匂い。 この町に住んでからも、しばらくは芦屋家にいたから。2人だけの時間というのはお預けだった。やっと、出来る。愛し合う時間。「結人」と呟く悠輔の優しい低音ボイスが耳元で囁かれるだけで、僕の体温は一気に急上昇した。 このまま欲に流されてもいい。 でも。同時に悠輔に頼みたいことがあった。「悠輔……お願いがあるんだ」「なに?」「……僕。子供が欲しいんだ」 目を見て伝えれば、熱を帯びていた彼の瞳は一気に覚醒したように見開く。「何を言って――」と反対されそうになった口を人差し指で塞ぐ。僕の話、聞いてくれる?「……今日、昼間に僕の母さんがこの家を尋ねて来たんだ」「え……住んでる場所がバレたってこと⁉︎」「それはいいんだ。母さん1人で様子を見に来ただけだったし、誰にも言わないって約束してくれたし。ただ……父さんや九条は、まだ僕を探しているみたいで」「……」「捕まっ