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All Chapters of 帰巣本能でαはΩへ還る: Chapter 21 - Chapter 30

91 Chapters

21運命の番(悠人目線)

大人になってから最近、同じ夢を見る。 いつも2人仲良く手を繋いで、歩いていた。 僕より少し年上の男の子はとてもしっかりしていて、2歳の俺が迷子にならないようにしていた。 小さいながらに聡明な男の子をもっと小さい俺が好きになるのは簡単なことで、会うたびに「けっこんしよう」と夢の中の俺は言う。 「結婚よりも、僕は番がいいな」 男の子は微笑む。つがいってなんだ? 「運命の赤い糸みたいなものかな。結婚の契りなんかよりも、もっと強い……絶対に離れない2人」 「じゃーそれになろ」 よくわかってない小さい俺は約束して小指を出す。 「赤い糸になってつがいになってけっこんしてください」 「ふふ、全部混ざってるよ」 おかしそうに笑いながら、男の子は僕と指切りをしてくれる。 ……その男の子は、火事で両親を亡くしてしまい遠くに行ってしまったきり会えていない。 2歳だった俺は成長するにつれて彼の名前も顔も朧げになっていく。 覚えているのは指切りの感覚だけ。 * 「悠人。そろそろ番の相手を見つけたらどうだ」 夢の男の子を思い出そうとしていた時に親父から声をかけられる。突然のことに言葉が出ず「……なんでだよ」と小さな声で尋ねる。 「発情期、苦しそうだから」 「……薬で抑えてるし」 「今はこのままでもいいけど。父さんが死んだあとが心配。1人で生きていけるのか」 「……大丈夫なように作業仕込まれてるじゃん」 「そうじゃなくて、生き方として」 極力αと関わりた
last updateLast Updated : 2026-09-26
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22高鳴る鼓動(悠人目線)

 芦屋に会うつもりはなかった。 霧島に会いたくなかったから来ただけだった。 展示会には様々な紙が展示されている。親父が申し込んでいたこともあってすんなりと通ることが出来た。 あとは目立たない隅に置いて時間が過ぎるのを待つ。 それだけだったのに……1人の男性が俺の和紙を見ている。「触っても、いいですか」 スーツが似合う。キリッとした顔なのに柔らかい口調。何となくαだ、と思った。でも、不思議と威圧は感じない。「どうぞ」と言えば彼は感嘆を漏らしながら触れていく。和紙に初めて触れるようだった。「これでΩの首輪を作れたらなあ……!」 このエリートαが。芦屋だったのか。 芦屋はこの和紙を起用したそうにしていたが上司が拒否していた。 芦屋が気付いていたかはわからないが上司は俺がΩだと見抜いていたようだった。「Ωは劣る」と今まで散々聞いてきた言葉を浴びせられる。 やっぱり、だめか。 親父に仕込まれて磨き上げて来たけれど。Ωは所詮Ω。 親父の工房を引き継いだとしても、Ωなだけで紙の質が下がってしまうなら、いっそ霧島の元へ行ったほうが──「この技術は本物ですよ。彼が丹精込めて作った手漉き和紙です」 ──いつかわかる人が現れるから、それまで頑張れ。 いつも親父に言われていた言葉。 芦屋が、言ってくれた。 俺がΩだとかも関係なく、技術が本物だと言ってくれた。 それだけで、職人として頑張って来た時間が報われた気がした。 上司には変な目で見られたし、居心地悪くなって早々に展示会を後にしてしまったけれど。 工房までの帰り道、ずっと胸が高鳴ってしまっていたのは何故だろう。 らしくもなくスキップをしたくなるような感じで、鼻歌を歌いたくなって。 αが嫌な人なんかじゃない。 俺が出会った霧島というαが嫌な人だっただけで、芦屋はとても良い人だった。
last updateLast Updated : 2026-09-26
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23αとΩとβ(悠人目線)

もう出会うことはないと思っていた芦屋は、休日工房にやって来た。 とてもアクティブな人だった。 俺よりも親父がとても喜んでいた。 親父曰く「24年前に悠人が懐いていた男の子と雰囲気が似ている」と言っていた。 でも俺にはわからなかった。 彼が優しい人だというのはわかるけれど。 それでもしばらく俺は警戒心を解けず芦屋に対してぶっきらぼうな態度になっていた。何があるかわからないから。 芦屋だって、二人きりになったら豹変する時はあるだろう。 しかし親父がいない時も芦屋は裏表がなくひたすら俺に話しかけてくる。和紙にとても興味があるようだった。 意外で、正直嬉しかった。あまり言葉にも表情にも出せなかったけれど。 試作品のアクセサリーを渡せばオーバーに喜んでくれた。 笑顔になると花が咲くようで、魅入ってしまいそうになった。 守ってやりたい、なんて気持ちが芽生えて不思議に思う。 俺はΩで、彼はα。 俺は守ってもらう立場になるはずなのに。どうしてそんな気持ちになるのだろう。 芦屋はαらしくないαだった。 芦屋の上司のような見下しや威圧を感じない。それは結局人柄なのだろうか。 芦屋に初めて会った時に感じた頸の痺れは、今はそこまでなかった。胸の高鳴り具合もなく、寧ろ穏やかな気持ちで芦屋を見つめる。 ドキドキ、じゃない。 安心している。 αといて落ち着いているんだ。俺が。 随分と早とちりになってしまうが、番になりたいと思ってしまった。 しかも出会って2日目だ。芦屋は何も感じていないだろう。俺が勝手に運命を感じている。 親
last updateLast Updated : 2026-09-27
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24反応しない頸(悠人目線)

 医者が言うには「今までΩとして生きてこなかったから」が主な原因となるらしい。発情期はあった。でもそれだけ。αを必要としなかった。 αを必要としない、か。 なんたる皮肉。 やっと俺は、芦屋と番になりたいと思っていたのに。 まさかこんな時にβになってしまうなんて。 これじゃあ、番えないじゃないか。「親父……ごめん。ずっと気にかけてくれてたのに。結局……振り回して、ごめん」「……。発情期の心配とかが無くなったんだ。あとは好きなように生きなさい」 もうずっと好きなように生きている。 しかし霧島に頸を噛まれても彼のものにならなかったのは不幸中の幸いか。 βになったものの、発情期の周期が乱れて一週間寝込んだ。その週は芦屋に出会えなかった。 苦しくて苦しくて、本当に異常がないのか不安になって夕方にもう一度病院に向かおうとしたら芦屋に声をかけられた。まだ帰らずに手紙を書いてくれていたらしい。 芦屋は俺が体調悪いことを知っているのかそのまますぐにいなくなってしまった。 手紙を見てみる。 ……俺に出会ってからの楽しい出来事が増えたことへの感謝が綴られていた。『早く元気になってね』 最後にその言葉を見て。 すぅっと心が楽になっていった。 周期が乱れていたから芦屋にも影響あるかと思ったが、彼の様子は何も変わらずだった。 Ωの発情期ではない。βになったから体調が崩れたんだ。だから芦屋は平気だったのだ。 芦屋はΩからβに変わった俺を見ても体調のことしか気にしていないようだった。 ……大丈夫なのかも。 Ωだから接してくれたわけじゃなくて、βになっても彼は変わらないのかも。 そう思うだけで。心は軽くなって。 病院には向かわずに済んだ。 *  翌週。 俺に執着していた霧島に待ち伏せされΩの薬を打たれそうになって万事休す…
last updateLast Updated : 2026-09-27
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25そして現在(悠人目線)

24年前、この街全体が火事になった。 多くの人が避難したが、中には逃げきれずに亡くなった人もいるらしい。 今はそんな面影すらないが。 この工房では亡くなった人の祈りを込めて、和紙やアクセサリーが作られている。 俺は当時2歳だったから記憶には何も残っていない。親父の話を聞く限り、俺はその頃に仲良かった5歳の男の子に連れられて避難をしていたと言う。 親父はこの工房で働く職人だったが、火事で工房の設立者が亡くなってしまい……急遽引き継いだという。 俺を助けたしっかり者の男の子は、その工房の設立者が両親だった。一帯が焼け野原で、それぞれが生きることに必死だったため男の子は孤児院に引き渡された。その先のことは知らないらしい。 「芦屋くんを一目見た時、その子だと思ったんだよ」 芦屋が帰ったあと、親父は呟く。 「そんなまぐれ、あるわけないだろ」 「賭けてもいい。あの子はまたこの工房へ来る」 親父の言っていた通り、芦屋は毎週工房へ足を通うようになった。何が気に入ったのか、和紙を購入するだけでは満足しないでいつも俺の後ろをついて回っている。 別に、いいんだけど。邪魔されているわけではないからいいんだけど。 物腰柔らかい。親父との会話を盗み聞きすれば29歳らしい。確かに24年前なら彼は5歳になるだろうが……親父は何を確信しているのだろう。 「あれ? 芦屋くんは?」 「今日は……。来てない」 「珍しいね」 来ても来なくても一緒だろ。 いつも元気に「おはようございます!」と駆け足でやって来る人が来ない。 工房の外に出て駅がある方を見るも、誰かが歩いて来る様子もなかった。 *
last updateLast Updated : 2026-09-28
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26満身創痍のα(悠人目線)

今日の朝も、工房の外に出て駅がある方角を向く。しかし人が歩いてくる気配はない。 (……そもそも絶対じゃなかったし) 俺が忘れた頃にふらりとやって来て「手漉き作業見せて!」と頼まれるだろう。俺が嫌だと言えば「お願い〜!」と両手を合わせて懇願する。そんな様子が安易に想像出来る。 苦笑し、工房へ戻る。 ……しかしなんだか身が入らない。 集中しなければならないのに意識は外に向いてばかりだった。 まだ昼にもなっていない。作業を諦めて工房の外に出て、駅の方角を見る。 誰もいない、よな。 (……掃除をしよう) 工房の前の落ち葉を掃いていく。 少し集中している時に。ザクッと足音がした。通行人の邪魔になってしまったか。 「すいません、いまどきま──」 目を見張る。 一ヶ月姿を見せなかった芦屋だ。 でも、元気がない。覇気がない? 少し小さくなった? 「お……おはよ、悠人くん」 ぎこちなく笑って、こちらに手を振る。「おはようございます」と生返事をし……「顔色悪いです」と言う。 「中に入ってください」 「……いや、いいんだ。やっぱり、今日は……。うん。今日は、帰ろうかな」 「え?」 「顔見れてよかった。また……また今度、くるよ。お父さんにもよろしくね」 都心からこの山奥まで来るのはそれなりに時間かかるはずなのに? 不思議に思っていれば、芦屋は俯いて「さよなら」と呟く。そして踵を返して歩いていく。 今度って、いつ。 そう言って、もう来ないつもり? 俺、待ってたんだよ。芦屋さんを待ってたんだよ。 どうして
last updateLast Updated : 2026-09-28
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27高熱

 周りが熱い。視界全てが赤い。 体が焼けてしまう。 でもどうにかして足を止めなかったのは、右手は小さな手と繋いでいたから。「心配しないで、大丈夫だよ。お父さんすぐ迎えに来てくれるよ」 小さな子供はまだ恐怖を感じていないようだった。素直について来てくれる。だから尚更恐ろしかった。 僕が道を間違えればこの子も死ぬ。 小さいながらにそう思った。 工房が燃えている。 左手にいつのまにか握っていた和紙をぎゅうっと握りしめた。 * 周りが騒がしい。「39度? うわ、もうやばい……親父、俺なんか飲めるもの買ってくる」「いや、いい。悠人は芦屋くんのそばにいなさい」 聞きなれた会話。静かになった時、額に冷却シートを貼られる。あまりの冷たさに瞼を開けてしまえば「あ、おきた」と悠人が顔を覗き込む。「おはよ」「……」 けほっ、と言葉にならない。「そうだよね」と悠人は苦笑し「今親父がスポドリとか買いに行ってくれてる」と教えてくれる。「……ごめん」「んーん」 悠人が微笑んでくれるから。 ここにいても大丈夫だと教えてくれてるようだった。 部屋を見渡す。 見たことない部屋。山橋家にいるようだった。「芦屋さん。俺に会いに来てくれたの」 悠人が僕の顔を覗き込みながら静かに尋ねる。「……こんなにぼろぼろになってまで」 手を握られる。僕の手は今とても熱くて、悠人の手が低くて心地良かった。 そうだよ。会いたかったよ。 会いたい一心で、工房に来たんだよ。 そう伝えたかったのだけれど。 口から出るのは吐息ばかりで言葉にならない。悠人を見つめて、ゆっくり瞬きするしか出来ない。「今じゃないよね。今度元気になったら改めて聞くね」
last updateLast Updated : 2026-09-29
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28悪夢

 黒い影。 それは僕に覆い被さって来て、強く体を揺さぶってくる。 ああ、また。犯される。 暴れる体は痛めつけられ、抵抗しなくなったところに薬を打たれる。 いつまで、やるの。 もう帰りたい。 ああ……家、無いんだった。 僕の帰る場所はどこにもない。 走って逃げても黒い影は追いかけてくる。やめて。来ないで。もう十分好きな事やったでしょ。僕の尊厳をこれ以上奪わないで。 手を掴まれる。殴られる。頭を足で地面に踏みつけられて、一気に死にたくなる。 もう、許してよ……。 *「……ッ! はぁっ、はぁっ」 飛び起きる。嫌な汗を掻いている。視界がくらくらして気持ち悪い。体をベッドに横にし目を閉じる。落ち着いて来たところでもう一度目を開ける。 部屋の中は暗くなっていた。薄暗い部屋の隅に、悠人が申し訳程度に縮こまって座っているのが見える。……どうしたのだろう。「……けほっ、悠人くん?」「……? 芦屋さん」 ハッと顔を上げて悠人はこちらに寄ってくる。……でも立ち上がらず、座ったままこちらへ来る。目線はずっと同じくらいだ。「……どうしたの」「あ。うん。……芦屋さんに、悪い影響与えたくなくて」「……え?」「立ったまま近づいたら、さっきとても怯えられちゃって。……熱に浮かされてたから覚えてないかもだけど」「……うそ。悠人くんに怯えてたの?」「……俺が悪い人と重なったんだと思う」 ショックだった。 夢だと思ったものは幻覚で、様子を見に来てくれた悠人を溝口と見間違えたのか。 だから悠人は距離をとって、小さく小さくなって。……申し訳なかった。「……ごめん。悠人くんが怖いんじゃない。……悪夢になるほど、トラウマなことがあって」「……うん」 悠人が返すのはそれだけだった。 どんな
last updateLast Updated : 2026-09-29
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29体の不調

 窓から差し込む日差しに目を覚ます。 夜からあのまま朝まで、悪夢を見ることもなく一気に眠ることが出来たようだった。 ベッドの縁には、そのまま体をうつ伏せにして眠っている悠人がいる。 一日中看病させてしまったか。迷惑をかけてしまったな。「ん……芦屋さん、おはよう。体調はどう?」「おはよう、悠人くん。熱はだいぶ下がっていい感じなんだ。体調は……うっ、」 元気だと答えようとして、急に吐き気を催す。慌てて口を押さえ、そして右腕も痛み出す。……薬を打たれた部分だ。「芦屋さん、大丈夫……?」 悠人が心配そうに話しかけてくれる。 以前Ωだった悠人に、気になったことを尋ねてみる。「……監禁されている間、Ωの発情期用の薬を体に何回も打ち込まれたんだ」「……え。それって、俺が打たれそうになったのと」「同じだと思う」 悠人の顔がどんどん蒼白になっていく。「……なんで」「ビッチングで、Ωになって欲しかったんだって」「……なれるわけない。芦屋さんの心が開いてない状態だから」「でもね。体は屈服させられちゃったんだよね。頸も、何回も噛まれちゃったし」「そんなの……恐怖で支配された行為なんて……」 悠人の目が彷徨い、涙目になる。「ごめん。嫌な思いさせたね」「……芦屋さん。病院行こう」 ゆっくりと見上げられる。 僕がαであると断定が出来ないのだろう。嫌だ。あんなことで僕がΩになってしまうなんて嫌だ。痕がついてある頸が憎たらしい。これがせめて……好きな人のものだったら良かったのに。「行きたくない……αが……αの僕が、病院行って……性転換したなんて……情けなさ過ぎて、嫌だ……」「無理やりの行為だった。そこは医者も尊重してくれる。誰も芦屋さんを笑わないよ」「嫌だ……怖い……知りたくない……」「でもこのまま……本当の性を知らないまま過ごして……知らない間にお腹に命を宿していたら……」「……っ、…………!」
last updateLast Updated : 2026-09-30
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30別れ道

 最近までΩだった悠人は車の免許を持っていなかったので、悠人のお父さんに病院まで送ってもらうことになった。 Ωは運転手になってはならない。 突然の発情期で事故を起こす可能性があるから。 工房がある山奥から、下って少し都会の町に向かう。 医者に体を見せるのが少し屈辱的だった。こんなこと、ないと思っていたから。僕が、性被害に遭うなんて。 服を脱いで、溝口に何発も打たれた右腕を見せると、医者は「とんでもない無理強いを……」と顔を顰めて呟き、悠人も恐ろしかったのか僕の左手をぎゅうっと掴んで離さなかった。 もし僕がΩで、何発も薬を打たれて性行為をされたら。そのまま頸を噛まれて番ルートまっしぐらだっただろう。 血液検査と、尻穴の腫れ具合などを色々診てもらって薬ももらえるようだった。あとは精神安定剤の点滴を少し打ってもらって、性の結果を待つのみ。「悠人くん」「はい」「ここまで付き合ってくれて、ありがとう」「いえ」「朝の僕はやっぱり気が動転していたよね。パニックだったと思う。滑稽だね」「……性被害に遭っているのだから、誰だってそうなりますよ」「そうかなあ」「はい。俺も、何回かこの病院にはお世話になっていて」 それは。その続きは僕が聞いてもいいのだろうか。苦しい話ではないのだろうか。 点滴を受けるため横になっていた首を動かし悠人を見上げる。「αからΩになったらどうしようって取り乱すのもわかります。同じかわからないですけど……赤ちゃん出来たらどうしようって泣き喚きながらここに来たことがあります」「──え」「身籠ってませんでしたけどね」 へにゃりと笑って、ベッドの淵に座る。「それは……辛い出来事だったね」「はい」「僕に話して良かったの」「俺が芦屋さんの弱みを知ってしまったから、俺も一つ打ち明けないとフェアじゃないかなって」「ふはっ、そんなこと気にしなくてもいいのに。そんな辛いこと、わざわざ言わなくてもいいんだ
last updateLast Updated : 2026-09-30
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