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All Chapters of 帰巣本能でαはΩへ還る: Chapter 61 - Chapter 70

91 Chapters

61頸を噛んで(悠人目線)

「悠人……?」  何が起こっているのか把握していないようだった。 俺は安心して、奏を手繰り寄せる。「遅くなって、ごめんなさい」 そう呟けば奏は首を振り、静かに涙を流すだけになった。「来ちゃったんだ……」 奏は俺を見て力なく笑う。 やっぱり来てほしくはなかったようだった。 でも、心は助けを求めていたよ。 だから黒いオーラが俺に見えて、居場所がわかったんだよ。 何度も噛まれたであろうボロボロの頸。そっと手で撫でれば奏はビクビクと震える。「父さんと母さんの和紙、ボロボロになっちゃったぁ……」 無理に引っ張られたのか、和紙はビリビリに引き裂かれてしまっていた。 奏の唯一の両親の形見だったのに。彼にはもう何も無くなってしまった。泣きたいのは奏の方なのに、俺の方が胸が苦しくなって目を閉じる。 どうして、こんな酷いことが出来るのか。「悠人と番に、なりたかったなあ……っ」 ポロ、ポロ。 綺麗に笑いながら、涙を溢していく。 俺もだよ。 そう言葉には出来ず、強く抱きしめる。「ひゅ……けほっ、ごほ……からだが、くるしい……っ」 熱に浮かされたようにぼんやりしている。奏から漂う甘い香り。「……ッ!」 俺はβなのに、赤裸々に露出された頸を噛みたくなってしまって、慌てて自身の腕を噛んで耐える。 何が、起こっている。 奏は本当にΩになってしまったのか。 薬で無理やりに。 Ωになってしまったら、今よりも不自由になってしまう。それだけは、阻止したかったのに。「奏さん、病院、行こう……」「……いやだ、こわい。あいつの番になんか、なりたくない……っ」 奏が俺に縋り付いて来る。 本当にそうなってしまったら。 他の人の番になってしまったら。 奏は、俺は
last updateLast Updated : 2026-10-16
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62俺はあなたのもの(悠人目線)

 都内の病院へ俺と奏は緊急入院。 目を覚ました時は隣に奏も眠っており、警察が何があったのかを手短に聞いて来る。 αがΩを襲う事件は数え切れないほどあったが、αがαを襲うことは異例だったようで警察も頭を抱えていた。しかもαがΩになるように薬を打っていたことが公になり、奏を襲った溝口と霧島は逮捕され罪も重くなると聞いた。(……Ωだったら、そもそも警察沙汰にもならないのに。襲われたのが、αだったから?) 俺が高校生の時霧島に襲われた時は学校内での揉め事で終わってしまっていた。Ωが被害者の場合は事件として扱ってもらえない。(よかった、んだよな……? 奏を襲った2人は逮捕された) 隣で静かに眠っているままの奏を見つめる。 目が覚めた時、俺に微笑んでくれるだろうか。心が死んでしまっていないだろうか。(助けた時の奏からのフェロモン。……βなのに強く感じた。本当にΩになってしまって、溝口に頸を噛まれてしまったら……) 溝口が拒否したとしても、奏にとっては望まない番だったので病院で番を解除することは出来るだろう。しかしその場合、奏は大きなストレスがかかり二度と番を作れなくなる。(霧島に襲われた時、俺は心が死んでいたように長い間過ごしていた。きっと奏さんも。……辛い時期を過ごすことになる) 俺はβとしてそばにいることしか出来ない。どれだけ奏が泣き喚いても隣にいることしか出来ない。(襲われるって。勝手に番にされるって。……そういうことだ) 奏がまだ目を覚まさないことを良いことに。俺は奏に背を向け、声を殺して静かに泣いた。(ごめん、奏さん。今だけ……奏さんの前では俺は泣かないようにするから) 奏に出会ってから。俺は泣き虫になってしまったようだった。それまでは何となく生きていて、何となく過ごしていたから。 奏に出会ってから世界が色付いたようだった。色んな感情を知った。優しいαがいるのだと気付けた。 そんな奏が心無いαに傷つけられるのは許せない。奏がもう立ち上がれないという
last updateLast Updated : 2026-10-16
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63αとΩ(悠人目線)

翌朝の気分は2人揃って酷くブルーで、医者ににこやかに「2人一緒にどうぞ」と通されてしまったことが不思議だった。 性別がわかってしまうのはとてもシビアなことだ。前回奏の診断結果は一緒に聞いたけれど……今回は別の方がいい。 「あの、やっぱ俺はやめておきます」 力無い声で言って立ち上がると目の前の医者は「え?」と素っ頓狂な声を出し「芦屋さんと山橋さんは……付き合っているんですよね?」と聞いて来る。 何を今更。でもだからこそ俺は聞かない方がいいのではないだろうか。だって奏はΩになって、溝口の番になってしまったなんて。……俺が、聞きたくなかった。 しかし医者は「2人に聞いてほしい」と真面目な顔で言ってくる。戸惑っていれば椅子に座っていた奏が俺を見上げて「全てを受け入れよう」と手を握る。 ……怖かった。 俺にはそんな覚悟が出来ていなかった。奏は、もう準備出来ているの。 医者が険しい顔ではなく比較的穏やかだったのも心底不思議だった。 「ではまず。芦屋 奏さん。あなたはαからΩに性転換しています」 「……はい」 奏は一度目を閉じ深呼吸をして、強く頷いた。医者は診断結果の紙を見ながら言葉を続ける。 「そして発情期にαに頸を噛まれた。……ほぼ番になったと言ってもいいでしょう」 俺は膝から崩れ落ちる。 Ωになってしまった。 しかも番になっている。それはもれなく、溝口のものだ。 「しかしΩになりたてだったので完全に番にはなっていない。もう一度発情期が来た時、同じ相手に頸を噛んでもらえたら次は完璧に番になるでしょう」 また奏は溝口に噛まれないといけないのか。しかしこのまま中途半端だと、奏は苦しむことになる。 「……そんなのあんまりだ……またあいつに自ら頸を噛ませにいくな
last updateLast Updated : 2026-10-17
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64なぜαからΩへ?

 溝口と霧島は逮捕された。 2人が手を組んで、違法に薬を入手して性転換させようとしていたことが大きな罪となり、僕たちが生きている間は刑務所からは出てくることはないと警察に説明してもらった。 そうか。 もう頭のおかしいαに怯えることはないんだ。 そして医者には、僕は薬でΩになったのではなく、自然とαからΩになったのだと教えてもらった。 無理やり溝口にΩにされたのではない。 襲われている時に夢を見て、悠人に会いたいと強く願った時。Ωになった。 だから僕たちは番になった。 まさか悠人がβからαになっているとは思わなかったけど。 数日入院し、退院した日。 悠人と電車に乗って工房まで戻っていく。 ゆらゆらと電車に揺られながら街から田舎に変わっていく景色を眺める悠人の横顔を、ぼんやり見つめる。「……そんなに見つめられると穴が空きそう」 悠人がこちらを見て、少し伏せ目になって笑う。「……ふふ、ごめん。ただ、色々不思議なことが多くて。本当に僕たちは番になったのかなって、不思議で」「それは……正直俺も、考えている」 医者には2人とも完全体なαとΩではなかったから中途半端だと言われていた。だから次の発情期にもう一度噛んでもらえたら、正式に番になる。 だから今はお互いの気分がふわふわした状態なのだろう。「僕……最終的にはΩになったけど。どうしてαとして初めは目覚めたのかな」 疑問だった。初めからΩではなかった。悠人も、初めからαではなかった。 悠人は僕をじっと見つめて考えている。口を開き……しかしすぐには紡がれないことから、言葉を選んでいるのだろう。「……当時の環境が影響しているかも」「環境?」 うん、と頷いて。悠人は続きを話す。「奏さんはずっと1人だった。頼れる人がいないから、αになった……とか」「じゃあ……悠人は。頼れるお父さんがいたから、Ωに……?」
last updateLast Updated : 2026-10-17
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65要のキューピッド

「ただいま、親父」「戻りました〜……お父さん、心配おかけしました……」 工房に戻った時。お父さんと大家がいた。長い間、ずっと僕たちの帰りを待ってくれていたのだ。 申し訳なくて、ありがたくて。 深く頭を下げると「芦屋くん!」とお父さんがすっ飛んで僕の肩をガシッと掴む。「……本当に心配したんだよ……!」 こんな僕を。心配してくれる人がいる。悠人に助けられた時とは違う、じんわりと温かくなった胸に自然と涙が溢れてしまえば「よかった、本当によかった」と大家も涙を流していた。 そうか、もう1人じゃない。 頼ることができる人たちがいる。 だからもう、僕は頑張らなくていい。 1人で踏ん張らなくていいから。 この場所へ還って来たんだ。 僕とお父さんと大家で抱き合っている姿を、悠人は少し遠くから見守ってくれていた。 *「芦屋くんがΩになって、悠人がαに……」 3人に戻って落ち着いた頃、テーブルを囲んで番になった経緯を説明していく。まだ完璧に成立したわけでもなく宙ぶらりん状態であることも正直に話していく。「そうか……今までは性別が決まったら一生変わらないものだと思っていたが、この時代はそうでもないのかもな……」 少々混乱しながらも、お父さんから見ても悠人の雰囲気は変わっていたようで妙に納得していた。「悠人がΩになった時に、和紙作りを徹底的に仕込んだことも意味はあったのかもしれないね。どれだけ技術があってもΩという時点で質は下がるものだと言われていたけれど、結果的にαになったのも……悠人に自信がついたのかもしれない」 お父さんが話していく。 展示会で出会った時、僕は初めての和紙に感動していたのに、溝口がよく知りもしないのに見下していたのはそういうことだったのか。 技術に性別は関係ない。 性別は、好きな人と番になるための手段
last updateLast Updated : 2026-10-18
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66虎の子

 お父さんはどんどん山の奥の方へと向かっていく。前に悠人に見せてもらった和紙の原料が育てられている場所よりも、さらに遠く。「親父……どこに向かってるんだ?」 山道に慣れていない僕は既に足がガクガクで、悠人に手を引かれながら歩いていく。悠人やお父さんは足腰が強いのか体が僕のようにへにゃへにゃにはなっていない。これが山に住む人間と都会に住む人間の違いか……。 1人勝手に悔しがっていれば「ここだよ」と少し先でお父さんが立ち止まる。 前に悠人に見せてもらった和紙の原料が育てられている範囲よりも、かなり小さい。でもその場所に、育てられている小さな植物。「芦屋くんに再会しない人生だったら。悠人に教えることもなく父さんが墓場まで持っていくつもりだった」「……これ、」 悠人が植物の元へ駆け足で向かう。屈んで下からまじまじと見上げ、信じられないという表情でお父さんを振り返る。「……火事で全滅したんじゃなかったの」「少しの種と、数本が残っていたんだ。でも他の楮や雁皮のように育てても上手くいかなくてね……24年前から、ずっとこの状態さ」 僕にはその植物が何なのかわからなかった。でも2人の会話で何を指しているのか答えは次第に見つかる。過去に、悠人が教えてくれたから。「……虎の子、ですか」 尋ねる僕に、お父さんは振り返って「そうだよ」と頷く。「中々育たなくて。和紙作り出来る範囲にまでは至らなかったんだ。……すまないね」「いえ。……いえ、そんな。もう、てっきり存在しないものだと思っていたから……」 虎の子。 由来は、虎が我が子を非常に大切に守り育てる習性から来ている。 ずっとずっと。 守って、育ててくれていたんだ。「……虎の子が芦屋くんの手元に戻るなら、育てた甲斐があったよ」 鼻を啜りながら、お父さんは僕に言う。「……僕に、育てることは出来るのでしょうか」「父さんも試行錯誤しながらだったし、悠人もいる。芦屋くんが良
last updateLast Updated : 2026-10-18
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67再・お引越し

 居場所を無くした人のためのマンションには僕は該当しなくなったので、短い期間だったけどそこからまた結局引っ越すことになった。 引越し先はもちろん悠人の家だ。 しかし3人で暮らすことになるし、僕たちもそれなりに若いので夜を……どうする? と2人で考えていたらお父さんが「あ、父さんすぐ近くの別荘に住むから」と申し出てきて驚く。「親父、別荘なんかあるの⁉︎」「へっへーん。実はありました〜。悠人が番を見つけたら暮らすのが実は父さんの老後の夢でした〜」「な、なんだよ。俺、意外と知らされていないこと多いんだけど……」「悠人は、今後は芦屋くんと人生共にするんだから。父さんのことはそれほど気にせずって感じで! あと工房も2人でよろしく。元々芦屋家のものだったし問題ないでしょ! それじゃ!」 と早速別荘に向かってしまい、家に2人きりになる。「……お父さんいなくなると、案外静かだね……」「だな。でも……これで夜の問題とかは無くなった、よな」「もう!」 次の発情期が心待ちだ、なんて。 言葉にはしないけど、どちらも少しそわそわしている。 * しかし待てど暮らせど。一ヶ月経っても、三ヶ月経っても。発情期は訪れなかった。 頸を噛まれてから僕の体は随分と落ち着いてしまったから、Ωとしての機能が眠っているのかもしれない。「まあ、そんなに焦らなくてもいいんじゃない? そわそわ出来る期間は今だけだろうし。不安になる方が精神的には良くないかも。次が来るまで、のんびり待っていようよ」 ベッドにごろんと寝転びながら。悠人は僕の頸を優しく撫でながら囁く。「……うん」「虎の子も、奏さんが育て始めてから心做しか繁殖力強くなってきたみたいだし」「そうかな。悠人のお父さんも愛情持って育ててくれていたと思うけど」「でもやっぱわかるんじゃない? 虎の子が虎の子を育てに来たって」「なにそれ」 笑
last updateLast Updated : 2026-10-19
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68僕のつくりたいもの

 3年の月日が経った。 工房での和紙やアクセサリー作りは悠人に任せて、僕はひたすら虎の子の繁殖に勤んでいた。  虎の子は不思議なことに、着実に繁殖していった。 悠人に結果を見せた時「一度和紙を作ってみよう」という判断になり虎の子の一部の枝を収穫する。 このただの木の枝が、色んな工程を経て和紙になるんだ……木材を抱えて山を下っていく悠人の後を、僕も木材を抱えてついていく。 * 原料から和紙になるまで約10日。 両親の形見だった紙とは違う、新品で真っさらな和紙。「わあ……」 感嘆の声が漏れ、悠人が作り上げた和紙をそっと撫でる。「すごい……綺麗……柔らかそうなのに丈夫で……」(これで、Ωを守る首輪を作れたら) 過去に描いていた夢がふと思い浮かぶ。 ……そうか。僕はまだ諦めきれていないのか。 溝口に襲われていた時、両親の形見の和紙で頸を覆って守った。 和紙に縋ってしまうほど、嫌なαに頸を噛まれることは生きた心地がしないものだった。(やっぱり無いよりはある方がいい。Ωが襲われた時に、少しでも時間を稼げるようなもの)「ねえ悠人。今更かもしれないんだけど。……やっぱり僕、悠人の作った和紙でΩを守る首輪を作りたい」 悠人の目が大きく開く。 出会った当初は「作れるわけない」と言われてしまったけど。 ……いいかな。「……奏さんの夢は強いんだね」 虎の子で作られた和紙を、悠人は撫でる。「……現実的じゃないって思ってた。いくら和紙でも力任せなら破れるから。……でも。虎の子は強度が高い。壊れてしまう前提でも、頸を直接噛めないように。和紙が破けても隠せるように……」 呟きながら、こちらを見る。「奏さんが考えていることを言葉にしてくれたら、俺がその通りに作ってみるよ」 僕と悠人の
last updateLast Updated : 2026-10-19
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69Ωを守る首輪

 何度目かの試作品が完成した。「付けてみて」と言われ試しに僕の首に嵌めてみる。「……付け心地はどう?」「うん……まあ首輪なだけあって付け慣れてない違和感はあるけど」 和紙を織り込んで紐状になったものを重ねて束にして。それを太い一本のベルト状にする。ベルトループも装着すれば見た目は紙には見えない、丈夫な首輪だ。 首を締め付けられてる息苦しさは無い。そして首も重くない。長さも調整出来る。「……いいんじゃないかな⁉︎」「大量生産には向かないけどね。1つ1つに時間がかかるから」「それでも、欲しい人はいると思うな」 鏡の前に立ち首輪を眺める。 ……今、僕の首は和紙に守られている。「じゃあ、壊すよ」「うん」 勿体無いとは思うものの。首輪の役割はここからが本番だ。悠人が僕の首に手を伸ばして、首輪を掴む。そして両手で壊そうと引っ張ってくる。 ……頑張れ、耐えろ。「……中々、壊れないな」「折り込んだことで強度増したんじゃない?」 前回は壊れた時に和紙の繊維が首にキツく絡まってしまい危ない、となったので没になった。細い線になって首が圧迫されないように今回は太い紐状にしたけれど。「……ギブです」「お、おお? 口で噛んでも、鋏でも切れない?」「発情期の時は本能で頸を噛もうとして来るから……αも鋏で切るなんて余裕はないはず」「でも一応……試さないと」 鋏を手にすれば切り込みを入れて来る。だんだんと刃が入ってきて、長い時間をかけて首輪は外れる。「やっぱ壊れるよなあ」「でも鋏を使わないと壊れない。鋏でも数分かかる……時間稼ぎには、有効だと思う」 悠人が言う。「絶対に頸を守れるものではないから、値段も高くはならないよね。小さい子でも手に入る価格がいいな……」「工房に3つ、並ぶくらいの……ひっそり売ってる感じな」 本物の首輪は高いから。 気休め程度に首に付けていられるもの
last updateLast Updated : 2026-10-20
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70拝啓、僕の両親へ

 朝、目が覚める。 ……というか昼だった。 隣を見ると悠人の姿はなかった。 4年ぶりの発情期だった。 それまでも何回も体は重ねていたが、フェロモンでお互いを惹き寄せ合うのは今まで以上に盛り上がった。(……ほんとに、すごかったな) ベッドで寝返りをして、声が枯れていることに気づく。声を出しすぎてしまったか。(悠人、かっこよかったな) 僕を抱いていた悠人を思い出しては、勝手に顔が熱くなる。 悠人は眠ったままの僕をそのままに工房へ向かったのだろう。起こしてくれてもよかったのに。 ……頸が温かい。 心がとても満たされている。 僕たち、やっと番になった。 Ωを守る首輪を完成させてから、発情期が来た。……だから、今まで来なかったのか。達成させたいものがあったから。 夕方になるまで悠人は戻らないだろう。ぼんやりと体を起こし……番になったことを悠人のお父さんと、大家と……両親に報告したいと思った。 両親はもう僕にはいないけれど。 過去に悠人に手紙を書いた便箋を引っ張り出して、誰に送るでもない手紙を書き始める。『拝啓 僕の両親へ──』 *「ただいま……奏さん?」 玄関のドアが開き、ゆっくり悠人が近づいてくる気配。昼から夕方にかけて言葉を選びながら両親に悠人と番になるまでの話を書いていた。「おかえり……へへ。手紙、書いてたんだ」「そうなんだ。誰宛?」「僕の両親」 悠人を見上げれば、少し驚いた顔をしつつも「そっか」と言うだけだった。「番相手は優しくてかっこいい男だって書いてくれた?」「え。案外泣き虫だって書いちゃった」「えー! やめてよ〜!」 戯れ合いながら。隣に寄り添う悠人に手紙の内容を見せる。無言で読んでいた悠人は静かに僕に戻し「いいんじゃないかな
last updateLast Updated : 2026-10-20
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