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All Chapters of 帰巣本能でαはΩへ還る: Chapter 71 - Chapter 80

91 Chapters

71ただただ、無事を祈るだけ(??目線)

「お父さん、お母さん! 僕、ゆうとくんの家に遊びに行ってくる!」 息子の奏は朝食を済ませた後、工房にやってきては元気にそう言って山橋家に向かおうとしている。 山橋家とは古くからの付き合いだった。悠人の父と私は友人同士でもあり、同じ工房で働いていた。 2歳になる悠人を息子は大層可愛がり、時間があるといつも遊びに行っていた。 元気で良いことだ。しかし父である私の手漉き作業を目の前にしても和紙には全く興味を示していない。 まあ、いつかは奏に継いでもらうから。そのうち興味を持ってもらえたらいい。「奏。悠人くんはまだ2歳なんだ。目を離すんじゃないぞ」「うん!」 元気に返事する息子の頭を撫で「行ってこい」と見送る。 * 寒い時期に雨が降らないことによる乾燥で山火事が起こった。炎の海はそのまま町まで下りて焼き尽くしていく。 まだ昼間だというのに黒煙が広がり見上げる空は真っ黒だった。「悠人ーッ! 悠人、どこだーッ!」 火の海に囲まれながら叫んでいる山橋がいた。悠人が息子と近くの公園に出かけると行ったきり帰ってきていないそうだ。 必然に私の息子もそばにはいない。 妻が家から飛び出してくる。「工房にも家にも奏がいない」と泣き崩れる。 ならば公園にいるのかもしれない。 私と妻は炎の中にある公園目掛けて走っていく。 煙を吸い込む。体が焼けてしまいそうだ。「奏」と何度も名前を呼ぶ。 妻の手を引きながら公園を彷徨えば小さな人影が2人見えた。 間違いない。息子と悠人だった。 息子は異常事態だと気付いているのか2歳の悠人の手を引きながらまだ燃えていない町の方へ歩いている。 よかった。無事だった。 ほっとしたのも束の間、息子が歩いている隣の家まで炎は燃え移り瓦礫が今にも崩れ落ちそうだった。
last updateLast Updated : 2026-10-21
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72あの日の夢

 夢を見た。 小さかった僕たちを突き飛ばした大人目線だった。その人は何度も僕の名前である「奏」を叫んでいたので恐らく父だったのだろう。 あの日の火事の詳細は覚えていない。 両親がいなくなったことと、悠人と離れ離れになる辛さから封印した記憶だったから。夢で思い出した、断片的なものしかわからない。 夢の出来事が本当だとしたら、両親は死ぬ最後まで僕を探して。瓦礫の下敷きになるはずだった僕と悠人を突き飛ばして間一髪助けてくれたことになる。 知らなかった。……僕を置いて死んでしまったことを孤児院にいた時はいつも恨んでしまっていたけど。 最後の最後まで、助けてくれていたんだ。 どうして父目線の夢を突然見たのだろう。両親に手紙を出して供養したからだろうか。 眠ってからまだ数時間しか経っておらず、時計を見れば深夜の3時だった。しかし頭の中は両親のことでいっぱいで眠れそうにはなかった。 隣で眠っている悠人を起こさないようにそっとリビングへ向かう。 部屋の電気は付けずに、窓から外を眺める。(24年前、この町が燃えたんだ……) 両親の工房を悠人のお父さんが引き継いで。火事で亡くなった人への祈りを込めて和紙を作っていたから。 僕は自然とその和紙に惹かれたのかな。 ホットミルクを飲みながら両親のことを想う。 子供だった僕たちを庇って、瓦礫の下敷きになった。痛かっただろうな。苦しかっただろうな。煙を吸い込みながら、燃え移った炎に体が焼かれることを想像しながら意識を失っていったのだと想像して……1人静かに泣いた。 今泣いたって、どうしようもないのに。両親に会うことは出来ないのに。顔も思い出せないや。 ひとしきり泣いてから寝室に戻ろうとした時、ドタドタと音がして悠人がリビングにやってきた。その目は泣き腫らしていて「どうしたの」と問えば……「奏さんの両親の夢を見た」と言われる。「え?」「奏さんにそっくりな優しいお父さんだった……お母さんもとっても綺麗で。小さい俺に話しかけてくれて
last updateLast Updated : 2026-10-21
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73愛の結晶

「聞いてもいい? ……悠人のお母さんについて」 あのまま、眠れそうになかった僕たちは深夜にリビングの電気をつけ、ソファーに並んで座る。二杯目のホットミルクを手にしながら、気になっていたことを悠人に尋ねてみる。「うん……俺も会ったことはないんだ。お母さん……と呼ぶには少し違うのかな。男の人だったんだ。でもΩで、病弱だったから。……俺を産んでそのまま……」「そうだったんだ」 βとΩで結婚したということか。「全部親父から聞いた話なんだけど」と呟いてから、悠人は話していく。「俺を産んでくれた人には将来番になる婚約者がいた。でも、親父と恋してこの町に駆け落ちしたんだって」「へぇえ……それは……すごい勇気だね……」「うん。番相手が嫌だったみたい。時代の流れ的にも、αから番を申し込まれたらΩの家系は断れない風潮だったみたいで。逃げてきたんだって」 悠人のお父さんにはそんなドラマがあったんだ。いや、家庭を作った人々にはそれぞれのドラマがあるだろう。僕たちもその1人だ。「でも2人とも一文無しで途方に暮れていたところを、芦屋家の2人が拾ってくれたって。工房で働くことになったって。親父言ってた」 そうだったんだ。そんな出会いだったんだ。世の中の縁って、本当に不思議なものだ。「芦屋家には生まれたばかりの赤ちゃんがいた。奥さんが工房に抱っこして連れてきてくれて、親父たちも少し抱っこさせてもらったようだった」「……それって」「うん。奏さんのことだよ」 悠人が僕を見て微笑む。「もっと早く聞いてもよかったな」「病弱だったもう1人の俺の親は、先が長くないことを悟っていた。だから最後に……子供を産みたいって親父に頼んで。俺が生まれた」 僕はただ頷く。 ホットミルクの入ったコップを見つめたまま悠人は動かない。「もし、産まなかったら生きていたのかな」「……悠人のお父さんに宝物を授けたかったんじゃないかな」 これは僕の想像でしかない。 病弱なら。子
last updateLast Updated : 2026-10-22
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74帰巣本能

 番になってから2年が経つ。 結局、僕たちは子供を授かることはなかった。まあそれも運命だよね。番になるまでもそもそも僕たち4年もかかっているのだし。バース性も変わっていたりとイレギュラーなのだ。 悠人は何も言わなかったけれど、心の中で「ごめんね」と謝る。 僕たちの元に愛の結晶は訪れなかったから。 * 悠人がある日体調を崩す。 かなり重症で、ベッドに横になって苦しく呼吸している悠人の手を握ることしかできなかった。 病院に向かうも原因は不明だった。 何日も高熱に魘されている悠人を見るのが辛い。 このまま熱が下がらなかったらどうしよう……。 しかしそんな僕の心配を余所に、翌日はけろっと元に戻る悠人に驚く。……も、次は僕が体調を崩した。悠人から移ったのだろうか。 ぐわんぐわんする視界の中、悠人が看病してくれている姿が映る。(甘い香り……) 悠人から漂う美味しそうな匂い。なんだろう、と思うも。うとうとと僕は眠っていく。 数日後、僕もけろっと元に戻り工房に向かう。工房に先にいた悠人の首には、和紙で作られた首輪が嵌められている。「あれ。……どうしたの」「うん。……なんか、落ち着かなくて」「落ち着かない?」「……気のせいだと思う。でも……付けてないと不安……外に出てるとαがジロジロとこちらを見ていて……Ωだった時の感覚を、思い出して……」「え」 まさか。 悠人はαからまたΩに戻ったというのか? 体調崩したのも性転換が原因か。……だとしたら。僕が体調崩したのも。 悠人に近づいて首輪が付けられている頸をすんすんと嗅ぐ。……美味しそうな甘い香り。ハッとする。噛みたい、と思ってしまった。「……もしかして、僕たち」「性別戻った……?」 悠人はΩへ。僕はαへ。 それじゃあ。番は? 解消に
last updateLast Updated : 2026-10-22
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75僕たちの最適解

数年ごとに性転換する僕たちは、突然Ωになっても他の人に勝手に頸を噛まれないようにするため、外出時は和紙で作った首輪を常に嵌めながら2人出かけるようになった。お互い番なのに2人とも首輪してるなんて不思議。初めはそんな目で見られることも多かった。でも仕方がない。長い間αとΩとして安定していても、突然性転換はやってくる。時には2人ともβになる、またはΩになるということもあった。2人ともΩでいる場合に、和紙の首輪の存在は大きかった。しかし基本はαとΩだった。その度に僕たちは頸を噛んで番になる。「僕たちって。バース性としてはコロコロ変わるし世間的に見れば外れだったんじゃないかな」今日は新しく越してきた小さい子供に「2人はどうして番なのに首輪をしているの?」と尋ねられてしまった。そばにいたご両親に謝り倒されてしまったが、子供の疑問は事実だ。「なんて答えるのが正解だったんだろう」「正解も何も、俺らがそもそも一般から外れてるんだとしたら、どんな回答も不正解になるんじゃない?」小さなアクセサリーを作りながら。悠人は言う。「……シンプルに襲われないためだよって答えでよかったんじゃないの?」「いやぁ、首輪はΩが付けるものでしょって言われちゃって」「まあ……俺たち、変わってるから。今は俺αだけど、明日はΩの可能性もあるから」そんなことは他の人には一切無い出来事だろう。αとして目
last updateLast Updated : 2026-10-22
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【番外編】1冷遇される世界

番外編【愛の結晶を貴方へ捧げる】   「おい結人、今日もお迎え来てやったぞ。良い加減に機嫌を直したらどうだ」 ドアの向こうでは僕の嫌いな人が怠そうに言い放っている。何が来てやった、だ。僕は望んでいないのに。 僕の家系――東雲家は代々αとしてバース性が目覚める優秀な家系だった。しかしそれも兄の世代まで。 僕――東雲 結人はΩとして目覚めてしまった。家族はΩが存在することが恥ずかしかったようで僕をなるべく家から出させないようにした。 幸か不幸か僕は目覚めるのが遅く高校卒業してからΩになった。αではなくてもβだと思っていたから。家族の僕を見る目が一瞬にして変わってしまったのは仕方ない……のかもしれない。 だってΩは子供を産むことしか出来ないと言われているから。 何をしても劣ると言われているから。 行く予定だった大学も両親が断り、僕は引きこもりのように家に閉じ込められてしまった。 発情期の時が一番辛かった。部屋に鍵がかかっているのは幸いだった。父も兄も「開けろ」と獣のように叫んではドアを開けようとしていて恐ろしかったから。 Ωの僕が厄介だと思ったのか両親は突然αとのお見合いを勝手に進めていた。それが今僕の部屋の前にいる男――九条だった。下の名前は忘れた。興味がなかったから。 九条は初めて会った時に「まあ、顔は合格だね」と突然僕に言い放った。何だよ……と思いながらランチをし、特に会話は盛り上がらなかったな……と思いながら解散しようとすれば「何帰ろうとしてんの? Ωはαのご奉仕をしろよ」とラブホに連れ込まれそうになった。 初対面の男を相手にする気はない! 
last updateLast Updated : 2026-10-23
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【番外編】2偏見の目がない人

 病弱になってしまったとはいえ、たまには体を動かさないと本当に体力は無くなってしまう。 九条の迎えも、両親も兄もいない昼間……僕はこっそり家を抜け出して散歩をする。家政婦は一日中家の掃除や片付けをしているから僕が家を出たことは気づいているはずなのに、知らないフリをしてくれていた。 少し歩いただけでバテてしまった僕は、日当たりのいい公園のベンチに座って少し休むことにする。 日中から遊具で遊んでいる小さな子供たちが可愛らしい。(こども、かわいいなあ……) いつかは、僕も。 好きな人との子を。 ……だから、九条は論外だった。 九条と性行為をすること。九条との子を身籠ること。生まれた先、長い間面倒を見ること。 子供に罪はないが、僕自身が愛していける自信はなかった。だから、将来の子供のためにも番にならないほうがいい。 そう何度も九条に説得していても全く聞く耳持たずだった。「番になったら一生困らないから」とか「顔がいいからって調子乗るな」とか。「何がそんなに不満なんだよ。病弱だからって甘えるなよ。ちょっと俺の性行為の相手すればいいだけじゃん?」 と軽く言われたのが一番堪えた。もう一生会わない、と心に決めた。 子供を見たら気分転換になる、と思ったのに頭の中は九条の事ばかりで憂鬱になるばかりだった。(どこか、誰も僕を知らない世界に行きたいな……) そう願うも、僕がΩで病弱な限り無理な話だろう。遠出なんかしたら発情期起こした時にあっさり襲われてしまいそうだ。(誰か僕を守ってくれる人……九条以外の、優しくて僕をしっかり見てくれる人……) 両親とのお見合いが強引に進められる限り、相手は優秀なαを選ぶので無理そうだ。αは優秀だけれど、その分Ωを見下している人は多い。 Ωはαと番になったら幸せになると言われているけれど。僕には縁のない話だろう。 へら、と薄く笑い……力なく俯いてしまえばズボンにポツリと染みが出来た
last updateLast Updated : 2026-10-23
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【番外編】3ふたりだけの世界

 山橋から貰った傘は雨水をしっかり拭き取って僕の部屋に保管した。玄関の傘立てに置いてしまえば外出したと家族にわかってしまうから。 雨が降る街を部屋の窓から眺めながら、小さい頃に好きだった曲を口遊む。引きこもりになってからは娯楽に没頭しなくなった。ただ1人で部屋の片隅に蹲って「消えてしまいたい」と願っていた。 そんな僕が、口遊んでいる。 心が弾んでいる。 家族や九条以外の人間と出会った。 それも良い人だった。 また会いたい、と願ってしまった。 傘を見つめる。 明日、同じ時間に公園に行ったら。 もう一度出会えるだろうか。   *  「あ、昨日の! ……東雲さん、でしたっけ」「……どうも」 神様が手を差し伸べてくれた。 会いたかった山橋は同じ時間、同じ場所に翌日も来てくれた。本当は天に舞い上がるほど嬉しい出来事だったのに、引きこもりになって表情筋が死んでしまったのか素っ気ないような態度になってしまった。 山橋はニコニコとベンチに座ってる僕の元へ歩み寄ってくる。「風邪は引きませんでしたか?」「おかげさまで。……傘、ありがとうございました」 乾かして綺麗に畳んだ傘を両手で差し出す。山橋は「別に良かったのに」と言いながら受け取ってくれた。「東雲さんが風邪引かなくて良かった! 昨日、結構土砂降りだったのにベンチから全然動こうとしない姿を見て……少し心配になって」「……はは、」 少し人生を投げやりになっていたなんて言ったら。山橋はどんな反応をするだろう。明るくて優しい彼を闇に引き込みたくはないから、笑って誤魔化す。「……昼間ですけど、山橋さんは今休憩中なんですか?」
last updateLast Updated : 2026-10-24
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【番外編】4Ωはモノ扱い

 今日も最近流行りの曲を口遊みながら出かける準備をする。昨日、山橋は「何かある前に」と僕に首輪をくれた。  毎日少しずつ会話をしていく中で、好きじゃないαと番になるかもしれないと溢してしまったからだろう。Ωの頸を守る首輪は安くても8,000円からだった。 19歳が支払うにはそれなりに高いのではないだろうか。それに、僕はお小遣いすら与えられていないのでお金を渡すことも出来ない。 慌てふためく僕に山橋は「東雲さんが好きじゃないαと番になる方が嫌だから」と呟いて僕の首にそっと嵌めていく。「これ、嵌めた人が鍵するようになっているんだ。俺が鍵を持っている限り、他の人は絶対外せないようになってるから安心して」「……嬉しい」 ……絶対、高い。値段が高い。 こんな僕の頸のために山橋は高額を払ってくれたの。「俺はβじゃない……東雲さんを絶対的に守れるわけじゃから」「僕は今、結構幸せかも……前に幸せになる権利は僕にもあるって言ってくれたけど、本当にそうだね」 山橋の指が僕の髪を撫でる。 心地よくてうっとりと目を閉じる。 彼がαだったら……なんて。 もしくは僕がβで健康な体だったら。一緒に生活したかったな。 鏡の前に立つ僕の首には高級な首輪。勝手に番にはされないもの。そっと撫でてれば自然と頬は緩み、家族が誰もいない隙を狙って玄関へ向かう。「結人、ようやく出てきたか」 目の前には九条がいた。慌てて玄関のドアを閉めようとするも力では敵わず腕を掴まれてしまう。「離してっ!」「……結人、何だこれは。ご家族からは結人に金は与えてないと聞いた。……誰からもらった首輪だ?」 ギロ、と睨まれ萎縮する。αの威圧。怖い。ぶるぶる
last updateLast Updated : 2026-10-24
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【番外編】5絶対的な味方

 僕がまた引きこもりになっている間に、両親と九条だけで物事は進められていく。 家族にとって厄介な僕は九条家に引き渡されること。次の発情期に頸を噛んで番になること。何も知らない僕に、食事を運んできてくれた家政婦がこっそり教えてくれた。「どうして僕に教えてくれるの」「……九条と番になることが、結人さんが幸せになるようには見えませんから」 ただそれだけを言って、家政婦はその場を去る。 番になるためには、九条にとって首輪の存在は厄介だ。また今日も威圧で脅されて首輪を付けた相手を尋ねられる。 でも答えるわけにはいかなかった。山橋を危険な目に遭わせられなかった。 昼間から夕方になるまで威圧は続いた。九条が諦めて帰って、家族も寝静まった真夜中。 僕は我慢出来ずに窓から家を抜け出した。靴を玄関から持っていく余裕もなく裸足のまま。威圧の影響は精神を蝕んで寒くもないのにぶるぶる体が震える。 僕が目指すのは、いつもの公園。 真夜中に、山橋がいるわけがない。 わかっている。でもあの家にいるのは限界だった。 好きでもない人と番にさせられる。 その相手は一生僕を罵ってくる最悪な相手。 遠くへ行きたい。 誰も僕を知らない場所へ。 誰もいない公園。 街頭だけの灯り。 僕には行く宛もない。帰りたくない場所に帰るしかない。……何をしているのだろう、僕は。 踵を返そうとし……ベンチに1人、座っている人を見かける。見覚えのある背中。近づいて回り込めば、その人はハッと顔を上げ……僕に微笑む。「やっと来た!」「……山橋さん? 何してるの?」「何って。待ってたんだよ。東雲さんを」 今は昼じゃない。真夜中。 明日も山橋は仕事があるはず。 毎晩、こんな夜遅くまで僕を待ってくれていた…&hellip
last updateLast Updated : 2026-10-25
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