All Chapters of 元夫の結婚式を、私が担当することになりました: Chapter 141 - Chapter 150

170 Chapters

第141話 ロビーでの一手

麗華は押し寄せる質問を避け、紗月の隣へ来た。笑顔のまま、低く言った。「人の結婚式を壊すのは、お得意でしょう。今度は、この4億円分の苦情も、うまく片づけてみせてください」紗月は答える前に、秘書の抱えたファイルを見た。契約書ではなく、宣伝用の提案書だ。被害者へ渡す支払い予定表は、見当たらなかった。「あの方たちに説明する資料は、お持ちではないんですか?」「先に事業の話がまとまれば、解決することです」「合意済みだと、先に知らせておいて?」麗華の表情が硬くなった。近くの新郎が、2人の間に契約書を差し出した。「合意していないなら、なぜこちらへ来いと? 先週も、来週になればと言っていたでしょう」秘書が止めようとすると、紗月が手を上げた。「契約書を取り上げないでください。ご本人が持っておくものです」真帆が、写しを取る準備をした。原本は返すと説明すると、新郎の手から力が抜けた。紗月は受付から、ワイヤレスマイクを受け取った。「ヴェールワンの代表も、今この場にいらっしゃいます。まず、明確にお伝えします。ルミエールが契約を引き継いだという案内は、私たちが合意した内容ではありません」麗華が口を開こうとしたが、先に被害者たちの視線が集まった。「その案内は、訂正してください。残った式を誰が行うのかと、支払ったお金を誰が返すのかも、分けてお答えください」花嫁のひとりが、涙をこらえた。「では、私たちは今日も、そのまま帰るんですか?」紗月は少しマイクを下げた。「ご相談の場所を用意しました。弁護士が、まず契約書と入金の記録を確認します。日程の迫っている方は、式の準備も一緒に確認しましょう」真帆が2階のドアを開けた。すでに律と電話し、相談の時間を調整していた。さらに3人の弁護士についても、支援できる時間を確認している。真帆は順番と待ち時間の目安を書き、配った。「原本は、お預けにならなくて構いません。まずは写しと連絡先をいただきます」協力業者の代表が、紗月を呼んだ。「私たちのよう
last updateLast Updated : 2026-10-20
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第142話 あなたの名前を買わせてください

社長室のドアが閉まると、麗華はファイルを開いた。最初のページを埋めていたのは、全国150か所の提携会場とオンライン会員数だった。「最上位プランに、ルミエールの名前を使わせていただきたいんです。ブランド使用料は5億円。契約時に一括でお支払いします」紗月は大きな数字の並ぶページをめくった。品質管理と契約解除の条項は、ずっと後ろにあった。「社長がすべての現場に足を運ぶ必要はありません。運営はヴェールワン。ルミエールにはブランドとデザインの方向性だけ提供していただければ」「私たちが管理しない現場にも、ルミエールの看板が出るということですね」「そうしないと全国には広がりませんよ。社長お1人が走り回って、何組のお客様を受けられますか?」紗月も、スタッフの出張予定表を思い浮かべた。1人が遠方の現場へ行くだけで、残るチームの週末はたちまち埋まる。この提案に利点がないわけではない。「現場の評価や教育の権限は、どちらが持ちますか?」「それは実務協議で決めればいいでしょう」「基準を満たさない業者には、名前の使用を止められますか?」「販売済みの商品まで止められては困ります。次の契約から調整すればいいじゃありませんか」条項をたどっていた紗月の指が止まった。「その間に発生する苦情には、ブランド提供側も共同で対応すると書かれていますが」「対外的に、一緒に前へ出ていただくということです。名前だけ貸して、一切責任を負わないおつもりではありませんよね?」麗華の語尾に力がこもる。紗月は前のページに戻り、広告案を見た。顧客には、一ノ瀬紗月が総括するウェディングとして紹介される予定だった。「監督していない仕事を、私が総括すると言って販売はできません」「表現は変えればいいでしょう」「表現だけの問題ではありません」紗月は広告に載った自分の写真を指した。「相談の際、お客様に『一ノ瀬さんに会えるんですか』と聞かれたら、何とお答えになりますか?」「ルミエールの総括基準に沿って進めます、とご説明します」「それを聞いて、私が
last updateLast Updated : 2026-10-20
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第143話 背中を支えるぬくもり

麗華は立ち上がり、契約書をバッグにしまった。「ヴェールワンがどれだけの予約枠を押さえているか、ご存じですか? 首都圏の人気時間帯の60%は、うちを通っています。協力する気がないのなら、来月から会場を取るのは難しくなるでしょうね」紗月は打ち合わせの記録にある、提携会場の項目を指した。「その60%に当たる会場の一覧も、送っていただけますか?」麗華は一覧については答えず、来月になればわかると言った。「既存のお客様の予約に、不利益を与えるというお話ですか?」「市場の状況は変わる、ということです」「では、今のお話も記録に残します」麗華の目が、机の上の記録に向いた。それ以上は言わず、背を向ける。ドアが閉まる直前、紗月は付け加えた。「事実と異なる案内を受け取った方々には、訂正した内容を直接送り直してください」返事はなかった。麗華が出ていってから、真帆が入ってきた。「1階で『交渉決裂は残念です』とおっしゃっていました。記者でもなく、被害に遭った方々の前で」「引き受けると言った契約を、うちが撤回したように聞こえないよう案内して。合意していない内容を訂正するんだと」真帆がうなずく。今日は、2回説明すれば済む話ではなかった。紗月は引き出しに保管する写しと、弁護士に送る資料を分けた。ロビーで聞いた招待状の話が、何度も頭に浮かぶ。まだ会場の見つからない顧客の名前を、指でたどった。「お手伝いできる日程から確認します。既存の予約は動かさずに」真帆が先に言った。その言葉に、紗月はカレンダーから手を離した。「うん。今日決められないことは、いつ返事をするのか伝えよう」***蓮司は午後の予定を終えてから訪ねてきた。ノックに紗月が返事をすると、食事の袋を手に入ってくる。「温かいうちに食べよう」「顔を見るだけで帰るって言ってませんでした?」「ご飯も一緒に食べましょうって返したのは、誰だっけ?」紗月は笑いながら資料を片付けた。蓮司は小さなテーブル
last updateLast Updated : 2026-10-21
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第144話 盗まれたデザイン

翌朝、杏奈が会議室の画面にヴェールワンの新しい広告を映した。【ガーデン・シャドウ&ミカドシルク。通常400万円相当のプランを、99万円で限定販売】ガラスの温室の下に置かれた非対称のアーチ。藍色の布を折り重ねる向き。壇の後ろの、背の低い花飾り。どれも見覚えがあった。杏奈は黙って自分のパソコンをつないだ。「これが、うちのデザイン案です」2枚の画像が並んだ。ロゴと文字の位置は違うのに、同じ場所で線が折れている。紗月は元のファイルの作成日を確認した。「公開したことのある画像?」「いいえ。冬のプラン用に、社内検討のために作ったものです。森岡さんたちとも、サンプルを合わせただけで」杏奈は会議室の壁際に置いてあった、小さなサンプルを持ってきた。藍色の生地には、何度も折っては広げた跡が残っていた。「最初は、ひだを詰めすぎたんです。写真を撮ると、人の顔の後ろが線だらけになって。それで、ここを1本減らしました」広告を指す。ひだの抜けた位置まで同じだった。「夜中まで画面を見て、それでもだめで、実際に布を掛け直して作ったのに。あの人たちは、ファイルを1つ持っていけば終わりなんですね」紗月は生地を受け取り、広げた。折り返した角の内側には、杏奈が貼った修正日のシールが残っている。「このサンプルも保管しよう。制作の過程を説明するとき、一緒に使えるように」杏奈は以前の版も、いくつか開いた。初期の案はアーチが低く、布の向きも違った。完成した画像だけでなく、修正を重ねた過程も残っていた。真帆が口を開く。「蒼葉紡績の会場予約の連携で、資料が流出した件がありましたよね。コアリンク関連の資料と重なるファイルがないか、確認したほうがよさそうです」「まず先生に、あの件で確認済みの範囲を聞いて。今回も同じ経路だと、先に言わないようにね」杏奈の目元が赤くなった。「あの画像を作るまで、何度も直したんです。それを値段だけ下げて、自分たちの商品として出すなんて」紗月は元のファイルを別に保存させた。広告画面と投
last updateLast Updated : 2026-10-21
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第145話 見た目だけではわからない

設営業者からの最初の返答は、明快だった。ヴェールワンの公開資料だけでは、安全性は確認できない。杏奈はソフトを起動しかけ、手を止めた。「数値を入れて見せたほうが、わかりやすくないでしょうか?」「わからない値を、勝手に入れてはいけないよ」紗月は資料の空欄を指した。花飾りと長い布を掛けた姿は広告に載っている。だが、それを支える部分の図面はなかった。同じ装飾を使っても、同じ構造になるわけではない。担当者も、電話で言葉を添えた。「元の案に40kgの装飾を載せる条件があったとしても、別の構造物について、こちらで結果を計算することはできません。現場と製作の資料が必要です」真帆は回答に何が必要なのか、業者に改めて尋ねた。製作図面、接合部の情報、実際の設置位置が依頼書に加わった。それを読んだ紗月がうなずく。「ホテル側で実際に確認できる形で送ろう。著作権の対応資料とは、別にまとめて」同じ依頼を、5つのホテルへ送った。すでにヴェールワンへ施工計画書を求めているという返答がいくつかあった。広告用の画像しか届いておらず、資材搬入の計画もまだだというホテルもあった。真帆はホテルごとの回答を並べた。完成済みのパッケージとして売っているのに、設置計画書を受け取ったという返答はない。明日、資材を受け入れる予定のホテルも同じだった。「ここ、搬入は明日ですよ」杏奈が日程を示す。紗月はそのホテルの施設担当者と直接話した。「搬入前に、検討資料が提出されているかご確認をお願いします。私たちに、代わりに設置の可否を判断する権限はありません。ただ、以前の制作物に似た画像が使われているため、懸念点をお伝えしています」電話を終えた紗月は立ち上がった。スタッフたちがこちらを見ていた。「私たちの勝ちだと発表するときじゃない。すでに予約したお客様がいるなら、安全に進められる方法があるのか確認しないと」杏奈は自分の元の図面を見た。そこには、写真からはわからない修正記録がいくつもあった。きれいに見える角度を探したのと同じくらい、設営担当者と詰め直した部分も多
last updateLast Updated : 2026-10-22
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第146話 偽物のほころび

ホテルからの回答には『施工保留』とあった。ヴェールワンが広告に載せた構造物を予定どおり設置するには、まず製作資料と安全性の検討資料をそろえる必要があるという。メールを読んでいた杏奈が尋ねた。「これで、あの広告も下がりますよね?」「それは別に求めないと。施工の保留と、画像の使用は違う問題だから」紗月はホテルごとの回答を真帆に渡した。5か所とも同じ状況ではなかった。資材搬入を延期したところも、予定している挙式の演出変更を求めたところもある。顧客には、それぞれの契約担当者が変更内容を説明しなければならなかった。「うちのお客様には、検討がどこまで進んだのか答えて。ホテルごとに状況が違うから、混同されないように」「はい。担当者の回答と合わせてお送りします」杏奈はルミエールの元のデザイン案と、試作の写真、作業に関わった人の名前を集めた。完成までの修正記録は、いくつものフォルダに散らばっていた。日付をそろえると、初稿から完成形へ変わる過程が見えてきた。「この写真には、試験設置と書きますね。お客様をお迎えした本番に見えてしまいそうです」写真の下に、撮影日と作業の段階を書き入れる。紗月も説明を聞きながらフォルダ名を確認した。完成写真の手前に置かれた試験設置の写真には、杏奈が付けた日付が見えた。真帆が画面をのぞいた。「これを見れば、企画に時間が必要な理由も伝わりますね」「最初から、うまく説明できていたらよかったんですけど」「これからでいいよ」紗月は資料を法律相談用と顧客説明用に分けた。顧客の名前や個人情報は、外に出ないようにする。午後、ヴェールワンへ予約を移したと相談してきた花嫁から電話があった。広告と同じ内容では実施できないと、案内されたという。「キャンセルするなら、返金は後になるそうです。別の内容なら、すぐに進められるって」「変更後の見積もりは、受け取りましたか?」「電話で聞いただけです」紗月は契約書と、提案された変更内容を一緒に用意してもらうよう頼んだ。律が相談を受けられる時間も伝え
last updateLast Updated : 2026-10-22
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第147話 取締役会に立ち込める雲

桐生グループの会議室に上がったヴェールワンの提案書は、最初のページから金額が大きかった。ホテルの空いている挙式枠を独占的に供給すれば、年間10億円の手数料を保証するという。柏原常務が資料を掲げた。「閑散期の空き時間を、売上に変える機会です。今逃せば、ほかのホテルに取られます」蓮司は添付の財務資料を開いた。「保証するという資金が、どこから出るのか確認しましたか?」「投資の誘致と、会員の募集で確保すると聞いています」「投資金が入ったことを示す資料は?」柏原が次のページをめくった。そこにあったのは確約ではなく、資金調達の計画だった。蓮司は書類を取り上げず、待った。「新規契約が入れば、資金が回るということです。事業には先行投資が必要でしょう」「お客様の契約金は、その方の結婚式にも使うお金です。滞っている支払いを先に埋めてしまったら、新しい契約は何で履行するんですか?」誰かのペンが止まった。財務担当者が検討内容を説明する。提出された資料には抜けている項目があり、資本の欠損率を180%と計算した部分も再確認が必要だった。納入業者が支払いの遅れを訴えている手形だけで、1億2,000万円に上るという。蓮司は先方に送った資料請求の一覧を示した。「この項目は、まだ空欄です。正常に支払われることを前提に契約するなら、最低限、回答は必要でしょう」取締役の1人が身を乗り出した。「奥様の会社と競合する相手だから、厳しく見ているのではありませんか?」蓮司は目をそらさなかった。「その利害関係は議事録に残してください。外部の検討意見も取っていただきたい。そのうえで、私の質問には答えてください」「どの質問でしょう?」「10億円を受け取れるという根拠です。妻の話を除けば、内容が変わる資料がありますか?」柏原は提案書を閉じかけ、再び開いた。次のページにも、投資金の入金を確認できる資料はなかった。外部で検討を担当した委員も口を開いた。「実際の支払い能力は確認できていません。既存のお客様の予約
last updateLast Updated : 2026-10-23
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第148話 夫婦のつり合い

「パパ、お豆腐、大きすぎるって言ったじゃん」「味噌汁に入れれば大丈夫だよ」「ぼくの口は、大丈夫じゃない」蓮司はまな板の豆腐を見下ろした。湊が指で大きさを示すので、結局、包丁を持ち直した。「これくらい?」「もうちょっと」「豆腐がなくなりそうだな」湊が笑って、食卓の椅子によじ登った。蓮司は身を乗り出せないよう椅子を少し内側へ寄せ、火を弱めた。紗月が帰ってきたとき、キッチンには味噌汁の匂いが広がっていた。湊は玄関へ走り、母のバッグを持とうとして、すぐに下ろした。「ママのかばん、なんでいつも重いの?」「いろいろ入れているからかな」「パパのみたいに小さくして」蓮司が出てきて、バッグを受け取る。「パパのも重いよ」「じゃあ、2人とも小さくして」紗月は笑いながら手を洗いに行った。戻ると、3人分のご飯が並んでいた。小さな豆腐のいっぱい入った湊の椀を見れば、誰の注文を聞いたのかすぐにわかった。「今日のお豆腐は、食べやすそうだね」「ぼくが言ったんだよ」湊が自慢しても、蓮司は言い返さなかった。代わりに、熱い汁を慌てて飲まないよう、いったんスプーンを置かせた。食べ終えると、蓮司が食器を運び、紗月がテーブルを拭いた。湊は2人の間から自分のスプーンだけをシンクへ入れる。恐竜の本を持ってくると言って、部屋へ走っていった。ふきんをすすぎながら、紗月が尋ねた。「今日の会議は、無事に終わりました?」「うん。提案は受けないことになった」「私のせいで、余計に説明しなければならなくて。大変でしたね」蓮司の手が食器から離れた。「誰かに何か言われた?」「会社では、競合関係だと知られていますから」「それは明らかにして、資料で答えた。君が申し訳なく思うことじゃないよ」紗月はふきんを干して、彼の隣に立った。「わかっています。でも、気にはなるんです」「俺も、君が1人で大きな提案を断ったと聞けば気
last updateLast Updated : 2026-10-23
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第149話 4組の結婚式

木曜の午前、受け付けた契約書を仕分けていた真帆が、4つのファイルを分けて置いた。「この方々は、挙式日が目前です。今週土曜に2組、来週日曜に2組」紗月は契約書より先に日程表を見た。招待状は発送済みで、ゲストの移動も手配されている。新しい会場が見つかっても、同じ時間に準備できるとは限らなかった。「うちで空けられる枠は?」「ゲストハウスは、土曜の午後6時と日曜の午前10時です。来週の日曜は、提携ゲストハウス1か所と、こもれび温室に確認しました」「温室は、まず人数を見て。大勢のゲストを迎えられる場所ではないから」真帆が、小さな家族式を予約していたカップルのファイルを前へ出した。ほかの3組には、その場所を勧めなかった。紗月は4組を一度に説得せず、それぞれに可能な時間を説明した。今週土曜の昼に予定していたカップルは、日曜の午前へ変更できるか、家族へ直接連絡した。すでに高速バスを予約した親戚もいて、電話は長くなった。「日を変えられない場合は、ほかも一緒に探しましょう。必ず、ここで挙げなければならないわけではありません」花嫁は連絡する人を手帳に書いた。「父は日曜の午前のほうがいいそうです。でも、叔父の車は土曜に来ることになっていて」新郎が廊下へ出て電話をした。紗月は少し待つと伝え、可能な時間を紙に書いて渡した。電話口で急いで説明して、日付を間違えないようにするためだった。戻ってきた新郎は、日曜に変更できると言った。ただし、招待状の住所を見て元の会場へ向かう人が出ないよう、1軒ずつ連絡することになった。花嫁が手帳の名前の横へ、2人で分担する印を付ける。紗月は日付の変更を確認し、残る3件のドレスと食事の条件を見た。「装飾は減らしてもいいんです。ただ、来てくださった方を、食事もなしに帰したくなくて」看護師だという花嫁が言った。紗月は会場にある照明や家具を見せた。新しい構造物を作るのではなく、空間が寂しく見えないよう配置を工夫する案だった。「このとおりにできますか?」「確保できた備品で、実現できる案です。花も、今から手配できる種
last updateLast Updated : 2026-10-24
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第150話 深夜の警告

2週にわたる緊急の挙式4件が終わった、日曜の夜。紗月は最後の納品確認書を受け取った。ファイルごとに、表紙の日付も場所も違っていた。最初の週末の2件は支払い記録まで整理できたが、今日終えた2件は業者の返答待ちだった。真帆と杏奈は先に帰った。紗月は各担当者が明日確認する項目だけを残し、書類を片付けた。今日使わなかった花の費用を1件確認し直しているうちに、思ったより遅くなっていた。午後11時、ファクスの受信音が鳴った。次々出てくる紙を見て、紗月は立ち上がった。発信元の番号は空欄だった。写真を印刷したように、片隅が暗い。【一ノ瀬紗月社長。公表された4億円だけを見ていてはいけません】その後ろに、挙式時間と取引先、金額の書かれた表が続いていた。ヴェールワンのロゴはない。元の帳簿の一部を撮って送ったものなのかどうかも、定かではなかった。紗月はペンを置いた。まず受信時刻と枚数を確認する。原本には何も書き込まず、別にコピーを取った。表には見覚えのあるホテルの名前があった。キャンセルされた挙式枠を先に供給してもらったという記載と、担当者の名前も見える。【榊圭吾/グランド・キリュウ・ホテル 元ウェディング事業部統括責任者/優先配分関連 5,000万円】【三枝隆史/藤堂レジャー 東京クラブ/キャンセル枠供給関連 3,000万円】紗月は名前を声に出さなかった。紙に書かれているからといって、実際に支払われたと確認できたわけではない。ただ、詩乃の挙式のキャンセル精算で見た日付に似た項目もあり、捨ててしまうこともできなかった。最後のページの下に、短い文があった。【追加の資料については、改めて連絡します。私の身元を先に明かさないでください。T.O.】紗月はイニシャルの横を、しばらく見つめた。連絡先はない。返事をどこへ送ればいいのかも書いていなかった。ファクスの最下段を見直す。切れた行に、別の日付が半分だけ残っている。詩乃との会話も、一部が欠けただけで別の意味に変えられた。今は、この表の前後に何があるのかさえわからない。ファイル名に受信日を入れ、弁護士へ送る説明に
last updateLast Updated : 2026-10-24
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