夜明け前だった。パク・ソンウンは、いつものようにアラームが鳴るより先に目を覚ました。腕の中では、妻が眠っていた。彼の手の甲に、自分の手を重ねたまま。ソンウンはしばらくの間、妻の顔を見下ろしていた。化粧気のない顔。目元には、うっすらと乾いた涙の跡が残っていた。十五年前、あの人を訪ねていった日のことが蘇った。ミレが、あの家で愛されて育った末娘ではなかったと知った日。一度も間違えたことのなかった自分の目が、間違っていたのだと知った日。あの日以来、彼は妻を見なくなった。妻を見るたびに、自分の汚点が見えたからだ。だが、汚点はミレではなかった。この女は、最初から何ひとつ偽ってはいなかった。ただ、言えなかっただけだ。聞かないことが礼儀とされる家で育った子どもが、何も言わないという方法しか学べなかっただけだった。間違っていたのは、あの日の判断ではなかった。そのあと背を向けた、自分自身の選択だった。数日前のエレベーターの中。見知らぬ犬にかけていた妻の声が蘇った。あんなに優しい声を、自分は最後にいつ聞いただろう。そして、「今日は嫌です」初めて自分の手を掴み、止めた妻の手。そのときになって、ようやく気づいた。自分が背を向けている間に、この女も少しずつ遠ざかっていたのだということに。まだ遅くない。遅くないはずだ。ソンウンは眠っている妻の額に、静かに唇を寄せた。元に戻そう。この女を、本来いた場所へ。そして今度こそ、思う存分愛そう。パク・ソンウンは、選択を間違えたことのない男だった。今回も、間違えるつもりはなかった。ソンウンは妻の肩まで布団を引き上げ、静かにベッドを抜け出した。彼は知らなかった。妻の耳の後ろに残っている温もりが、自分だけのものではなかったことを。ミレが目を覚ましたとき、隣はすでに空いていた。リビングから音が聞こえた。子どもたちの声だった。パク・ソンウンの声も聞こえる。笑い声。ミレはまだぼんやりとしたまま、その音を聞いていた。ただ、温かかった。そして、また眠りに落ちた。次に目を覚ましたとき、時計は九時を指していた。ミレは飛び起きた。髪を適当に整えてリビングへ出ると、ダイニングテーブルにはパク・ソンウンと子どもたちが座っていた。朝食の真っ最中だった。「あら、起こしてくれればよかったの
Last Updated : 2026-10-05 Read more