Home / 恋愛 / 再び妻を求め始めた / Chapter 31 - Chapter 40

All Chapters of 再び妻を求め始めた: Chapter 31 - Chapter 40

74 Chapters

31. 嫉妬

三人の視線が、空中で鋭く交差した。ジニが先に一瞬たじろいだが、すぐに丁寧に頭を下げた。「こんにちは。出張に行かれるところのようですね」「ああ、ユ院長先生。ここに住んでいらしたんですね」ソンウンが余裕のある様子で握手を求めた。ジニとミレは、午前中に一緒に雨に濡れて笑い合ったことが嘘だったかのように、気まずそうに軽く会釈を交わしただけだった。「僕は別の棟に住んでいます。ここは兄の家です」マンゴはミレを見つけると、狂ったように尻尾を振りながら彼女の脚元へ潜り込んだ。「あ……マンゴ」ミレの声が自然と優しくなった。マンゴは前足まで上げて、身体を擦りつけた。まるでずっと昔から知っている、自分の大切な人に会ったかのような喜びようだった。ソンウンの目つきが鋭くなった。「マンゴっていうのか?」「はい」「よく似合ってるな」ソンウンは毛の抜ける動物が嫌いだった。それでも腰をかがめ、マンゴの頭を一度撫でた。「マンゴ、よろしくな」手は犬の頭に置かれていたが、視線は妻に向けられていた。ミレは、あんなに優しい声を出すんだな。たいした光景ではなかった。それなのに、胸の片隅にごく小さな、不快な棘が生えた。ソンウンは、その感情にわざわざ名前をつけようとはしなかった。ただ、マンゴが再びミレの手に頭を擦りつけると、理由もなく妻の腰に手を回したくなった。ジニが沈黙を破り、淡々と言葉を続けた。「兄の家の犬なんですが、脚の具合が悪そうなので、少し預かって24時間の動物病院に連れていくところです」そう言ってから、ジニは心の中でしまったと思った。俺は、なぜこんなことを説明しているんだ?この男に。アン・ミレの夫に。誰にも聞かれていない。問い詰められてもいない。なのに、なぜ何かを弁明し、許しを求めるように、次々と言葉を重ねてしまうのだろう。わかっていた。なぜ自分がこんなふうになるのか。最初からわかっていたからこそ、ジニはそんな自分がひどく無様に思えた。地下駐車場に着くと、ジニはマンゴを後部座席に乗せ、運転席に座ってエンジンをかけた。車を発進させようとした、その瞬間。彼の視線が無意識にサイドミラーへ向かった。遠くで専属運転手がパク・ソンウンの車のトランクにバッグを積んでいた。ミレは夫の車の横にきちんと立ち、見送りを待っていた。何度となく
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

32. ミレってどうですか?

翌日の午後、ワールドベストスキン皮膚科。ジニは一晩中、一睡もできなかった。目を閉じると、サイドミラーが浮かんだ。ミレの腰を抱いていた手。耳の後ろへ髪をかけてやっていた指先。「院長先生、幹細胞リフティングをご予約の患者様がお入りになります」ドアが開き、ジェシカが入ってきた。「こんにちは、院長先生。ミレはラウンジで待ってるそうです」ミレがこの建物の中にいる。その一言だけで、ジニの心臓が勝手に大きく一度跳ねた。「代表院長先生から伺っています。楽に横になってください」ジェシカは施術ベッドに横になり、目を閉じた。ジニは手袋をはめ、カルテどおりに施術を始めた。診察室には機械音だけが低く響いていた。しばらくして、ジェシカが目を閉じたまま、不意に尋ねた。「院長先生、ミレってどうですか?」ジニの手が宙で止まった。「……はい?」「ミレですよ」ジニは乾いた唾を飲み込んだ。医師としての声を取り戻すまでに、数秒かかった。「アン・ミレさんの肌は……本当に生まれつき恵まれていますね。キメも細かくて、弾力もありますし。お手入れもとても丁寧にされています」ジェシカは待っていたかのように相槌を打った。「でしょう? ニューヨークのあの乾燥した冬でも、あの子だけ平気だったんですよ。私たちはみんな肌がカサカサになって大騒ぎだったのに」「そうだったんですね」ジニの口元に、知らず知らず笑みが広がった。クリームを適当に塗っているミレを思い浮かべると、なぜか可愛らしく思えた。「それに、あの子が笑うとね――」「ジェシカさん」ジニは機械をいったん置き、柔らかく言葉を遮った。「ずっとお話しされていると顔の筋肉が動いて、きれいに仕上がりませんよ」冗談のような軽い口調だった。ジェシカは目を閉じたまま、口元を上げた。「はいはい。模範患者になります」ジニの指先が止まった。模範患者。その言葉は、診察室のカーテンの中で。ガラス扉の前で。良才川で雨が降り出す前の朝に。彼とミレだけが交わしていた言葉だった。なのに、この女は知っていた。あ……。ミレが、この友達に俺の話をしたんだ。こんな些細な言葉まで。ジニは何でもないふりをして、再び機械を手に取った。けれど胸の真ん中で、何かがゆっくりと膨らんでいった。友達に打ち明けるほど。何気ない一言まで覚えて
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

33. 誰かを好きでしょ

木曜日の夕方、仕事帰りだった。ユ・ジニはハイパレスのロビーに入ったところで、足を止めた。自分の棟ではなかった。エレベーターの前に立って、ようやく気づいた。46階のボタンを押そうとしていた指先が、宙で止まった。兄の家がある棟なのは確かだった。だが正直に言えば、本当に兄に会うためにここへ来たのか、自分でもわからなかった。三日前のことだった。地下駐車場、サイドミラーに映っていた残像が、今も頭の中を漂っていた。パク・ソンウンの手がミレの腰を抱き寄せていた姿。耳元にこぼれ落ちた後れ毛を、そっと払い上げていた手。そして、ほんの一瞬、強張ったミレの顔。あの日、駐車場を出ながらユ・ジニは思った。認めよう、と。けれど、いざ認めてしまうと、彼にできることは何ひとつなかった。診察室で。昼食を食べている時。あるいは眠りにつく直前の暗闇の中で。あの光景は不意に何度も飛び出してきて、胸ぐらを掴んだ。それでも、何もできなかった。彼女は人妻で、自分はその夫の優しい手が彼女に触れるところを、この目で見てしまったのだから。結局、認めるということは、認める以外には何もしないという、無力な宣言と同じだった。だから、明かりの消えた家に一人で帰るのが嫌だった。彼はエレベーターのボタンを押した。チン――。46階。義姉のキム・スヨンが玄関のドアを開けた。「あら、叔父さん来たの?」義姉はユ・ジニより三、四歳年上だった。大学の先輩でもあった。そのおかげで、この家ではユ・ジニはいつも兄の弟である前に、気心の知れた後輩でいられた。「ギュリ、います?」「ギュリ? いないけど」ユ・ジニが一瞬止まった。「学校が終わってから森の体験学習に行って、数学の家庭教師があって、今はインラインスケートを習いに行ってる。何? ギュリに会いに来たの?」「まあ、ついでに」義姉はユ・ジニをそれとなく上から下まで眺めると、身体を横にずらした。「入って」リビングのソファには、兄のユ・ジンスがノートパソコンを開いたまま座っていた。「来たか」「兄さん」「ギュリに会いに来たんだって?」ユ・ジンスはノートパソコンの画面から目を離さないまま続けた。「小学一年生がどれだけ忙しいか知ってるか? 森の体験学習に数学の家庭教師、今はインラインスケートだ。この時間まで俺たちよりずっと
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

34. 月の箱

ユ・ジンスは再びノートパソコンを開き、ページをめくった。この家で、義姉の勘に勝てた人間は誰もいなかった。ユ・ジニは静かに水の入ったグラスを見つめた。否定しようとした。けれど、唇が動かなかった。否定の言葉が出てこないこと。それ自体が、すでに何より正直な答えだった。義姉は急かすことなく、静かに待ってくれた。そして、低い声で尋ねた。「きれい?」ユ・ジニは答えなかった。「優しい?」相変わらず沈黙したままだった。義姉がふっと、柔らかな笑みをこぼした。「好きなのね」その一言を聞きながら、ユ・ジニは生まれて初めて、自分の内側を覗き込んだ。好きという言葉が、これほど重い感情だとは思ってもみなかった。義姉が席を立った。「果物でも食べなさい。夕飯食べてないんでしょ」「大丈夫です」「座ってて」こういう時、義姉は決して譲らない。ユ・ジニはそれをよく知っていたので、それ以上止めなかった。ノートパソコンを見ていた兄が、それとなく尋ねた。「それで、誰なんだ?」「兄さん」「言ってみろよ」「いないって言ってるじゃないですか」ユ・ジンスは画面に視線を固定したまま、何気なく呟いた。「いるけど、言えない相手ってわけじゃないよな?」ユ・ジニは何も言えなかった。一文字たりとも間違っていなかったからだ。義姉が切ってきた果物の皿を持って戻り、再び席に着いた。義弟の強張った顔を一度見ると、それ以上問い詰めなかった。代わりにフルーツフォークを差し出し、落ち着いた声で言った。「言えないような関係じゃないなら、今度連れてきて。私たちが見てあげるから」ユ・ジニは握っていたフォークを再び置いた。どんな返事も口から出てこなかった。義姉もそれ以上は何も言わなかった。しばらくの間、リビングには濃密な沈黙が漂っていた。ノートパソコンのページをめくる音。きれいに盛りつけられた果物の皿。そして窓の外で、ゆっくりと暮れていく夕焼け。ユ・ジニは徐々に暗くなっていく窓の外を、ぼんやりと見つめた。わかってるくせに、どうしてここに来たんだ。義姉の言うことは、すべて正しかった。兄の家も、姪のギュリも、全部薄っぺらな口実にすぎなかった。正直に言えば、ただこの棟、この建物の空気の近くにいたかっただけだった。ここからさらに二十階近く上った65階。そこにミレ
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

35. 2009年1月

最初に目に入ったのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の入館証だった。色褪せた名札の上に、英語の名前がはっきりと残っていた。MOMA STAFF. AHN MIRAE.その下に記された肩書き、CURATOR ASSISTANT.当時、必死になって準備した著名な作家たちの展覧会の招待状も何枚か混じっていた。余白には、英語と韓国語が入り乱れたメモがびっしりと書き込まれていた。この迷いのない力強い筆跡が、本当に自分のものだったのかと思うほど、ひどく見慣れないものに感じられた。一枚の写真を手に取った。二十四歳か、二十五歳の頃の自分だった。展覧会のオープニングの日、リネンのジャケットを羽織り、短いボブヘアで企画書を手にし、誰かと話をしている姿。彼女は笑っていた。何ひとつ自分を阻むものなどないかのように、屈託なく。ミレはその写真を、とても長い間見つめていた。あの人が……私だったんだ。あんなふうに明るく笑える人が、本当の私だったんだ。いつから消えていったのだろう。結婚してからだったのか。それとも、子どもを産んでからだったのか。もしかすると、それよりずっと前のことだったのかもしれない。ミレは実の父親を覚えていない。母は一度もその人について話してくれなかったし、尋ねないことが、その家での唯一の礼儀だった。一歳になる頃に継父ができ、ミレは当然のように彼を実の父親だと信じて育った。長い間。けれど、思春期の入り口を越えた頃から、すべてが奇妙になった。継父の手が肌に触れる、その触れ方が。自分をじっと見つめる、あの粘つくような視線が。母は傍観した。その代わり、逃がすようにミレの背中を押してアメリカへ送り出した。留学という聞こえのいい名前をつけて。もしかすると、それが母にできる、娘への唯一の逃げ道だったのかもしれない。その頃からだった。自分のものだと信じていたものが、砂粒のように指の間からこぼれ落ちていったのは。父を失った。実の父だと信じていた幻想も、父と呼ぶことのできた存在も。母さえも失った。遠くから時折便りは届いたが、継父の穏やかな庇護の下に留まる彼女は、もうミレの母ではなかった。ニューヨークの冷たいビルの森で、一人で耐えた。そして、それなりに立派に生き残った。美術館でキャリアを積み、流暢な英語でプレゼンテーション
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

36. 耳の後ろの温もり

ユ・ジニが遊歩道脇のベンチに、一人で座っていた。流れる水面を黙って見つめていた。午後の活気に満ちた人波の中で、なぜかその男だけが島のように孤立して見えた。声をかけようか。それとも、気づかないふりをして通り過ぎようか。頭で迷っている間に、足は先に彼のほうへ向かっていた。人の気配を感じたのか、ユ・ジニが顔を上げた。視線が重なった。「出ていらしたんですね」ユ・ジニが先に静かに声をかけた。驚いた様子はなかった。まるでここで彼女を待っていることが当然であるかのような表情だった。ミレは何も言わず、その隣に腰を下ろした。二人は並んで座り、流れる川を見つめた。何の会話も交わされなかった。川は流れ、乾いた風が頬を撫でた。けれど、そばに誰かがいる。ただそれだけで、少し前まで塞がっていた息が、奇跡のように楽になった。ミレは自分の中に満ちてくるこの安堵感が、なぜか少し怖くなった。「顔色がよくないですね」ユ・ジニが水辺に視線を向けたまま、静かに言った。「そうですか?」「はい」ミレは膝の上に置いた両手を、そっと重ねた。「今日はちょっと……変な日ですね」それ以上は説明しなかった。言葉に変えて口にできるような感情ではなかったから。ユ・ジニも深く追及しなかった。ただ黙って、そばにいるだけだった。長い沈黙のあと、ユ・ジニがぽつりと呟いた。「僕もです」ミレが顔を向け、彼を見た。ユ・ジニは相変わらず遠くの水面を見つめていた。整った横顔だった。沈黙の似合う人の顔。その時、突然、川からの風が二人の間を切り裂くように吹き抜けた。ミレの髪が舞い上がり、目の前を覆った。ミレが手を上げ、髪を払いのけようとした、その瞬間だった。ユ・ジニの手のほうが一歩早かった。彼の指先がミレの耳元をかすめ、こぼれ落ちた髪をそっと耳の後ろへかけてやった。あまりにも自然で、ひどく静かな手つきだった。ユ・ジニは、自分が何をしたのか、0.5秒が過ぎてからようやく気づいた。手を引くべきだった。けれど、引くことができなかった。頭のどこかで、四日前の残像が執拗に重なった。地下駐車場のサイドミラー。パク・ソンウンがミレの髪を払い、耳にかけてやっていた、あの手。あの時、自分の心臓を押し潰していた無力感と嫉妬が、今、自分の指先にそのまま染みついていた。無意識
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

37. 豆もやしスープ

ミレがリビングに出ると、ジョンレがキッチンから飛び出してきた。「あら、社長がお帰りになるんですか? 今日帰ってくるって、どうして前もって言ってくださらなかったんですか。大変だわ。今、子どもたちに食べさせようと思ってプルコギしかないのに。社長は出張から帰ってくると、必ずキムチと豆もやしスープを召し上がるのに」「おばさん」「はい?」「昨日、念のため豆もやしを買っておいたんです。冷蔵庫の下の段にあります」ジョンレは目を丸くすると、急いで冷蔵庫の扉を開けた。「あらまあ、本当だわ。奥様のほうが私より気が利きますね」「キムチは?」「キムチなら、いつもありますよ」ジョンレはエプロンを締め直しながらキッチンへ入った。「急いで作らなくちゃ。鍋、どこだったかしら」ガスコンロに火がつく音がした。豆もやしを洗う音。まな板の音。ジョンレが忙しく動き始めると、キッチンはたちまち活気づいた。玄関のドアが開いた。パク・ソンウンがキャリーケースを引いて入ってきた。日本出張の荷物をそのまま持っていた。ジョンレが急いで手を拭きながら出てきた。「お帰りなさいませ、社長。お疲れでしょう」「はい」パク・ソンウンはジャケットを脱ぎながらソファに座った。ミレが向かい側に立った。「お疲れさまでした」「うん」短い会話だった。パク・ソンウンがキャリーケースの内側のファスナーを開けると、小さなショッピングバッグを取り出し、ミレのほうへ差し出した。ヴァン クリーフ&アーペルだった。ミレはショッピングバッグを受け取り、開けた。ネックレスとブレスレットだった。アルハンブラのライン。ネックレスにはダイヤモンドがセッティングされ、ブレスレットはゴールドにマザーオブパールがあしらわれていた。ケースの中に並べられた二つ。値段は想像がついた。「きれいですね。ありがとう」ミレが言った。声は穏やかだった。驚いたわけでも、特別感激したわけでもなかった。この人は、こういうやり方で何かを表現する。言葉の代わりに、物で。その時、ジョンレが豆もやしを洗っていた手を拭きながら顔を覗かせた。「あら、奥様、これ見てください。すごくきれい。これ、前に奥様のお誕生日に買ってくださったものと同じラインじゃないですか? 社長は奥様のお好みを本当によく覚えていらっしゃるんですね。こう
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

38. 鏡の中の瞳

耳の後ろに触れていたソンウンの手が、ゆっくりと下りてきた。首筋を通り、肩を通り、ボディクリームを握っていたミレの手の甲に触れた。ソンウンはそのクリームをそっと取り、ドレッサーの上に置いた。ミレの手が宙で止まった。ソンウンが彼女の後ろへ一歩下がった。鏡の中に、二人の姿が並んで映った。けれどソンウンは、ミレの身体ではなく、目を見ていた。鏡越しに、二人の視線がまっすぐ重なった。その瞬間、ミレの胸がどきりとした。いつだっただろう。この男と、こんなふうに目を合わせたのは。ソンウンが自分から遠ざかる前だった。つまり、もう十五年近く前。誰よりも慣れ親しみ、心安らぐはずの人なのに、いつの間にか世界でいちばん遠くて、いちばん近い人になってしまった夫。いっそ身体を重ねるほうが楽だった。こうして何も言わず、互いの目を見つめることのほうが、ミレにはずっと難しかった。結局、ミレが先に視線を逸らした。その瞬間、ソンウンの手がローブの肩口に触れた。片方の肩から、そしてもう片方の肩から。急ぐことなく、ゆっくりとローブを滑り落とした。柔らかな布が腕を伝って落ちると、クリームを塗ったミレの白い素肌が照明の下に露わになった。ほのかな艶を帯びた肌と、豊かに膨らんだ胸、細くくびれた腰まで。ラ・プレリーのカシミアボディクリームの奥深い香りが、二人の間にほのかに立ちのぼった。ソンウンは黙ったまま見つめていた。ミレはその視線を鏡越しに感じていた。不思議だった。裸を見せることが今さら特別な関係でもなかった。十七年を共に生きてきた夫婦だった。けれど、今日は違った。ソンウンの眼差しのせいだった。長い間ミレが慣れきっていた、自分の欲求を満たすために向けられる男の目ではなかった。ずっと昔。恋人同士だった頃、ミレの小さな表情ひとつさえ見逃すまいと見つめていた、あの男の目だった。ソンウンの両腕が、後ろからミレを包み込んだ。大きな手がミレの胸をいっぱいに包み込んだ。塗ったばかりのクリームの上を、手のひらが柔らかく滑った。いつの間にか、ミレの乳首が硬く尖っていた。すぐ後ろで、ソンウンの呼吸が深くなっていくのが聞こえた。寝室とバスルームの間、ドレッサーの置かれた空間を、二人の息遣いが少しずつ満たしていった。「君がドレッサーでクリームを塗ってる姿、好きなん
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

39. 身体が覚えている愛

ミレが見下ろした。ソンウンもミレを見上げた。誰も笑っていないのに、不思議とあの頃の笑い声が二人の間にあるような気がした。欲望しか残っていなかったここ数年のセックスとは違った。眼差しがあり、記憶があり、互いに夢中だった頃の感情があった。その小さな愛撫ひとつが、十五年という時間を一気に崩した。ソンウンの唇は、さらに下へと降りていった。彼は急がなかった。ミレの脚の間に顔を埋め、長い時間をかけて丁寧に愛撫した。「あ……ソンウンさん……」ミレの手がドレッサーの縁を強く掴んだ。身体は信じられないほど早く反応した。これまで以上に熱く、溢れるほど濡れていく感覚に、ミレ自身が戸惑うほどだった。ソンウンは、その反応さえ見逃さなかった。やがて彼はミレを抱き上げた。ミレは本能的に彼の首に腕を回した。ソンウンはそのままベッドまで歩き、ミレを横たえた。そして彼女の上に身体を重ねた。挿入する瞬間も、ソンウンはミレの目を見ていた。「どう?」低い吐息が唇の間からこぼれた。「いい?」その一言が、不思議なほどミレの心を揺さぶった。あまりにも聞き慣れた言葉なのに、どこか懐かしく、そして見知らぬものに感じられた。昔は、こんな言葉を数え切れないほど交わしていた。よければ、いいと言った。望むことがあれば口にした。目を合わせたまま笑うこともあった。いつからか、すべて消えてしまったものだった。今度はミレも目を逸らさなかった。ソンウンがゆっくりと動き始めた。「あ……あ……」ミレの唇から、抑えることのない喘ぎ声がこぼれた。ソンウンはミレの両手を頭の上へと引き上げた。指の間に自分の指を深く絡ませ、しっかりと握った。動きは次第に深くなっていった。ミレが最も敏感に反応する場所を正確に捉え、力強く奥へと入っていった。身体が覚えていた。十五年が過ぎても。「あ……ソンウンさん……」ミレは絡めた手を強く握りしめた。「すごく……いいです……」絶頂があまりにも早く近づいてきた。けれどミレは、そのまま終わらせたくなかった。身体を返してソンウンをベッドに横たえ、その上に跨った。ソンウンの眼差しが一瞬で変わった。彼はこの姿が好きだった。ミレが上になってリズムを調節するのが好きだった。そして何より、動くたびに揺れる豊かな胸と、細くくびれた腰、引き締
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more

40. 完璧に戻った夜

新婚の頃は、そうだった。ベッドからバスルームへ、バスルームからまたベッドへ。それが当たり前だった夜があった。この男は今日、完全にあの頃へ戻ろうとしていた。主寝室のバスルームの壁一面を占める大きな窓の向こうには、夜の良才川が見下ろせた。闇に沿って続く遊歩道の灯りと、遠くに連なる街の夜景がガラスの上で煌めいていた。言葉はいらなかった。天井から降り注ぐシャワーの下、激しい水流が二人を呑み込んだ。熱い湯が全身を濡らす中、ソンウンの手は再びためらいなく動いた。水音の間に、ミレの荒い喘ぎ声が混じった。身体が覚えているやり方そのままに、ミレもソンウンの首に腕を回し、彼が導く激しい軌道に完全に身を委ねた。すると今度は、ミレが先に動いた。ソンウンの身体をゆっくりと見つめていたミレが、彼の前で身を低くした。それもまた、昔はあまりにも自然なことだった。どちらかが先にしてほしいとねだったり、嫌だと押しのけたりする必要などなかった。互いの好きなことを知っていくのが楽しかったし、自分によって相手の呼吸が乱れる瞬間が好きだった。何よりミレは、ソンウンの喘ぎ声が好きだった。自分の手の動きひとつで、普段あれほど強く冷静な男の呼吸が崩れていくのが好きだった。それは四十を越えた今も消えていない、健康で正直なミレ自身の欲望でもあった。温かな水流の下でミレの愛撫が続くほど、ソンウンの呼吸は急激に乱れていった。「あ……はぁ……」ソンウンの両手が、ミレの濡れた髪を包み込むように撫でた。その声だった。ミレが忘れていた、もうひとつの音。恋人だった頃、自分のせいで我を忘れるほど崩れていたパク・ソンウンの声。十数年ぶりに聞くその喘ぎ声は、不思議なほどセクシーだった。ミレの口元に、自分でも気づかないうちに淡い微笑みが浮かんだ。この人も覚えていた。自分も覚えていた。身体は思っていたより、ずっと多くのことを忘れずにいた。「あ……ミレ……あ……」ソンウンの声が低く掠れた。もう耐えるのが難しいというようにミレの名を呼ぶと、すぐに彼女を立ち上がらせた。そしてそのまま唇を塞いだ。激しく熱いキスが降り注いだ。ミレも避けなかった。ソンウンの首に腕を回し、そのまま受け止めた。熱い湯が二人の顔と肩を伝って流れ落ちた。降り注ぐ水の中で、互いを激しく求める会話が続いた
last updateLast Updated : 2026-10-02
Read more
PREV
1234568
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status