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第21話  消えなかった名前

 高瀬から連絡が来たのは、午後六時を少し過ぎた頃だった。「分かったことがある」 電話越しの声は、いつもより低かった。「地下駐車場に入った車の所有者。五年前の事件当時、俺が一度だけ事情を聞いている」 美咲は思わず姿勢を正した。「どんな人なんですか?」「名前は、黒崎グループの元社員。榊原修一」 聞き慣れない名前だった。「元社員……?」「ああ。事件の少し前に退職している。部署は総務部。黒崎社長とは仕事上の接点があった」 高瀬はそこで一度言葉を切った。「ただ、五年前の捜査では重要人物として扱われなかった」「どうしてですか?」「本人が、事件当日は会社に行っていないと言ったからだ」 美咲の胸に、嫌な感覚が広がった。 事件当日の午後七時五十八分。 黒崎グループ本社の地下駐車場へ入った車。 その車の所有者が、当時の事情聴取で「会社には行っていない」と話していた。「高瀬さん、その人の車だと分かっているんですよね?」「車種とナンバーが一致している。五年前の記録にも残っていた」「じゃあ……嘘をついていたってことですか?」「まだ断定はできない」 高瀬は慎重だった。「車を誰かに貸していた可能性もある。それに、駐車場へ入ったからといって、その人物が殺人に関わっ
last updateآخر تحديث : 2026-10-03
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第22話  消された記録

 翌朝、美咲はいつもより早く目を覚ました。 眠ったはずなのに、頭の中には昨夜のことが残っている。 榊原修一。 相沢直人。 そして、五年前の事件。 ベッドから起き上がると、スマートフォンを手に取った。 昨夜届いたメッセージは、まだ消さずに残してある。『榊原修一には近づかないでください』 ただの脅しなのか。 それとも、本当に榊原に何か知られては困る人物がいるのか。 美咲は画面を閉じた。 そして、高瀬から渡された資料を開いた。 相沢直人の経歴。 黒崎グループ経理部。 在籍期間は八年。 五年前の事件の半年前から、社内の不正な金の流れについて調査していた形跡がある。 そこまでは、これまでに分かっていた。 けれど、美咲は一枚の書類で手を止めた。 相沢の社内異動記録だった。 事件の四か月前。 相沢は経理部から、関連会社の管理部門へ異動する予定になっていた。 しかし、その異動は実施されていない。「どうして……?」 異動予定が取り消された理由は記載されていなかった。 美咲は資料を何度も見直した。 そのとき、蓮の言葉が蘇った。『相沢から、不正についての情報を得
last updateآخر تحديث : 2026-10-04
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第26話 五年前の記憶

翌朝、美咲は昨夜の出来事を何度も思い返していた。 古い資料室で見つけた経営権移行の内部資料。 そして、床に落ちていた一枚の紙。 『その名前を追えば、五年前と同じことになる』 脅しだと考えるのが自然だった。 けれど、美咲が一番気になっていたのは、その言葉そのものではない。 なぜ、今になって警告してきたのか。 自分たちが第三の人物の名前を見つけたことを、誰かが知っている。 つまり、事件についてまだ何かを隠している人間がいる。 「……偶然じゃない」 美咲は小さく呟いた。 そのとき、スマートフォンが震えた。 蓮からだった。 『高瀬さんと話がついた。今日、三人で会いたい』 美咲はすぐに返事を送った。 指定されたのは、駅近くの小さな喫茶店だった。 店に入ると、すでに蓮と高瀬が奥の席に座っていた。 「昨日の資料、持ってきたか?」 高瀬が尋ねる。 「はい」 美咲は鞄からコピーを取り出した。 原本を持ち出すのは危険だと判断し、必要な部分だけを複写してきた。 高瀬は資料を受け取り、第三の人物の名前を確認する。 「……やっぱり、この名前か」 「高瀬さん、知っているんですか?」 「名前だけはな」 高瀬は苦い顔をした。 「五年前の捜査で、一度だけ出てきた。ただ、正式な関係者としては扱われなかった」 「どうしてですか?」
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