遮光カーテンの隙間から、細い光がベッドの端に落ちていた。紗月は馴染みの石けんの香りの中で目を覚ました。怜司の腕は腰ではなく、枕の横に置かれている。一晩中抱いていたかっただろうに、眠ったあと、勝手に引き寄せなかったらしい。寝返りを打つと、怜司はもう起きていた。「いつから見てたの?」「少し前から」「それは監視じゃないの?」彼の顔がこわばった。紗月の口元を見て、ようやく力が抜ける。「ごめん。次からは目を閉じてる」「冗談だよ」紗月は乱れた前髪を払った。眼鏡のない顔は、いつもより幼い。15年間見慣れた顔なのに、関係が変わると、まるで別人のように見えた。怜司が慎重に聞いた。「後悔してる?」すぐには答えなかった。昨夜の選択を後悔してはいない。だからといって、裏切られた気持ちが全部消えたわけでもなかった。「してない。でも、今日から全部大丈夫になったわけじゃないよ」「わかってる」「私が怒ったとき、弁護士みたいに反論しないで」「努力する……いや、しない」言い直す姿に、紗月は少し笑った。怜司の目が、その笑みに長く止まった。手を伸ばす前に、もう一度尋ねる。「抱いてもいい?」「うん」そこで初めて腕の中に引き寄せられた。昨日までの息の詰まる力とは違う。少し動けば抜け出せる抱擁だった。「こうやって抱いてくれるほうが、いいね」つぶやくと、頭の上に顎が触れた。「出ていけないようにつかまえるほうが、安心できると思ってた」「今は?」「出ていっても、戻ってきてくれると信じてみたい」紗月はシャツの裾を軽く握った。指に力を入れれば近づき、ゆるめればそこで止まる。その単純な反応が、昨日までと違っていた。「信じるのは、契約より時間がかかるよ」「それでもやる」しばらく、黙って横になっていた。平穏はまだ見慣れなかったが、居心地は悪くなかった。ベッド脇には、昨日解除した権限の一覧と、紗月の電話が置かれていた。画面を開き、位置共有が切れていることを自分で確かめる。怜司は何を見ているか聞かず、画面へ顔も向けなかった。紗月が確認を終えて置くまで、冷却パックの袋を開けていた。「今日は会社?」「うん。昨日の契約の件で、次の打ち合わせがある」「手首は?」「無理はするなって言われたけど、休めとは言われてない」怜司は『行くな』の代わりに、新しい冷却パックを置いた
Zuletzt aktualisiert : 2026-09-16 Mehr lesen