会議室には、空調の低い音だけが残っていた。 玲司は腕を伸ばせば届く場所にいる。あの瞳を見ていると、七年前に忘れたつもりでいた気持ちまで蘇りそうだった。 彼の手が上がった。頬に触れる寸前で、指先が止まる。 「……触れない約束だったな」 玲司は手を下ろし、半歩退いた。 自分で決めた約束なのだから、ほっとするはずだった。なのに、離れていくのを見た途端、胸が痛んだ。 気づけば、私は彼の上着の袖を掴んでいた。 「……結?」 「私も、どうしたいのか分からないんです」 触れないでと言ったのは私なのに、指を開けなかった。 玲司は少し身を屈め、私が顔を上げるのを待った。シトラスの香りに、さっきまで飲んでいたコーヒーの匂いが混じる。 「……七年間、ずっと君を忘れられなかった」 忘れられなかったのなら、どうしてあの朝、置いていったの。 聞きたいことは山ほどある。それでも今は、返事の代わりに袖を少し引いた。 玲司の視線が私の唇へ落ちる。頬にかかった髪を耳にかけられ、指の腹が耳たぶを掠めた。思わず肩が震える。 その小さな反応に、彼の手が止まった。 恥ずかしくなって俯きかけた時、頬に大きな掌が添えられた。 私は目を閉じた。 唇が重なる。 最初はほんの少し触れただけだった。離れた唇がまた戻ってくる。二度目は少し長く、三度目には角度を変えて、下唇をそっと挟まれた。 「……ん」 声が漏れた途端、玲司が動きを止めた。 唇は離れたのに、彼の吐息はまだ頬に触れている。嫌だったわけじゃない。そのことを伝えたくて、私は袖を握り直した。上質な生地が指の中でくしゃりと皺になる。 彼の喉が小さく動いた。 「……結」 名前を呼ばれただけで、胸が熱くなる。 玲司が再び顔を寄せてきた。今度は私も、ほんの少し背伸びをした。 さっきより深い口づけだった。柔らかな唇も、少し乱れた息も、近すぎて何一つごまかせない。息を継ごうと顔を離した拍子に鼻先が触れ、思わず目を開ける。 いつも冷静な玲司が、苦しそうな顔をしていた。 もう一度、触れてほしい。 そんなことを考えた自分が恥ずかしくて、私は彼の胸に額を伏せた。背中へ回りかけた手が止まる。 「……もう少しだけ」 ようやく口にすると、大きな掌が背中に触れた。遠慮がちなその手
Dernière mise à jour : 2026-10-10 Read More