その言い方が胸に刺さった。陽菜は玲司を責める代わりに、自分で理由を作って納得しようとしている。「忙しいなら仕方ない」と思えば、嫌われたのではないことにできる。七歳の子にそんな逃げ道を作らせてしまったことが、情けなかった。 陽菜は顔を上げず、画用紙を見つめたまま答えた。「そうかな。でも、前は忙しくても一緒にご飯食べてくれたじゃない」「……」 陽菜は色鉛筆を転がし、両手を膝の上でぎゅっと握り合わせた。「陽菜、なんか悪いことしたのかな」 震える小さな声。 私の胸が、ぎゅっと締め付けられた。「悪いことなんてしてないよ。どうしてそう思うの?」「だって、玲司さん、陽菜の顔見なくなった。お話ししても、すぐあっち行っちゃう」 陽菜の瞳に、薄っすらと涙が浮かんでいた。 私は何も言えず、ただ陽菜の頭を撫でた。 玲司が引いた倫理的な距離は、陽菜にとってはただの「拒絶」でしかなかったのだ。◇ その日の夜。 玲司はいつもより少し早くペントハウスへ帰ってきた。 私がキッチンで夕食の準備をしていると、彼はリビングのソファに腰を下ろし、タブレットで資料に目を通し始めた。 ネクタイは少し緩められているが、その表情は硬く、仕事の延長戦のような空気を纏っている。 陽菜は少し離れたダイニングテーブルで宿題のプリントを広げていたが、鉛筆の動きは止まっていた。 彼女の視線は、プリントとソファの玲司の間を行ったり来たりしている。 私は野菜を切る手を止め、蛇口の水を細く絞った。 陽菜が、意を決したように椅子から滑り降りる。 スリッパのパタパタという音が、リビングの分厚い絨毯に吸い込まれていく。 玲司の数歩手前で、陽菜は立ち止まった。 玲司は画面から視線を上げず、ただページをスクロールする指だけを動かしている。「……玲司さん」 陽菜の細い声が、静かな部屋に落ちた。 玲司の指が止まる。 彼はゆっくりと顔を上げ、陽菜を
Last Updated : 2026-10-20 Read more