一億円で買われた私、亡き後の執着は絶望の味すべてを失い、家が崩壊したあの日、私は屋上から身を投げようとする父を、必死で引き止めた。
借金取りが家に押し掛けてきて、末期がんの母を人質にとり、父の借りた1億円の借金を3日以内に返せと迫られたのだ。
私は背に腹は代えられず、この街を裏で支配する今井家の御曹司・今井真司(いまい しんじ)からのプロポーズを受けることにした。
ただし、条件がある。現金で一億円を用意してもらうこと。
電話の向こうで真司は少し黙ったあと、ふっと笑って言った。「わかった。取引成立だ」って。
真司は、父がかつて同盟を結んでいた今井家の跡継ぎだ。
私たちはもう3年も付き合っていたから、私の事情をわかってくれると信じていた。
けれど、結婚から半年もたたないうちに、彼は上田彩乃(うえだ あやの)という女を家に連れて帰ってきたのだ。
私がなにか言うより早く、結婚前に交わした契約書を顔に叩きつけられた。
「自分の立場をわきまえろよ。お前はあの時、1億円で俺に一生を売ったはずだろ?
その金額なら、お前が一生俺の言いなりになるには、十分すぎるくらいだよな?」
私は悔しくて拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込んでも、私はなにも言い返すことができなかった。
そんななか、母の容態が急変し、病院の治療費がどうしても10万円足りなくなってしまった。
真司に電話をかけると、氷のように冷たい声が返ってきたんだ。「そんなにたかるのが楽しいか?」
ちょうどその頃、真司は彩乃に10億円もするネックレスをプレゼントしていた。
彩乃が彼にはじめてを捧げた、そのお祝いだったらしい。
その一方で、看護師が三度も催促に来た。「すみません、治療費の件ですが……」
私は乾いた笑みを浮かべ、答えるより先に、スマホが震えた。