雪と共に消えた「ねね、ねね……」
耳元で囁かれるその名は、初音への愛の証だと信じていた。
蓮は、初音を狂おしいほど愛していた。
彼女との結婚を叶えるため、彼は肌身離さず身につけていた高僧の数珠を彼女に贈った。
大雪の日には、霊峰寺への険しい山道を越え、願掛けのお百度参りまでして、彼女のために安産祈願の御守りを求めた。
つわりで彼女が「酸っぱいもの」を欲した夜は、季節外れの最高級の果物を国中から取り寄せた。
初音は思っていた。彼は全身全霊で私を愛してくれている、と。
この幸せは、永遠に続くのだ、と。
しかし、結婚記念日の夜。
あの日、彼から贈られた数珠の糸が切れ、床に散らばった瞬間、残酷な真実が露わになる。
転がった珠の一つ一つ、その内側に刻まれていたのは、初音の名ではなかった。
【琴音】
それは、十八歳でこの世を去った、彼の初恋の少女の名前。
「ねね」とは、初音の愛称ではなかった。琴音の「ねね」だったのだ。
降り積もる雪が、真実を覆い隠していただけ、雪が溶けた今、二人は、ただの他人に戻る……