もう一度、花のような君を見られない清水夏澄は増田祐介に十年尽くして、ようやく「結婚しよう」という一言を手に入れた。
しかし、結婚式当日、彼は彼女を置き去りにし、長年自分に片思いしていた秘書・今井百合子を助けに行ってしまった。
祐介の身を案じた夏澄は、悲しむ暇もなく、後を追って飛び出した。
現場に駆けつけると、百合子が祐介の資料を守るために彼のライバルに突き落とされ、植物状態になるところを目の当たりにした。
罪悪感に苛まれた祐介は、百合子を医療設備の整った最高の病院に入院させた。
夏澄も祐介の言葉に従い、精神病を患う百合子の母・今井文代の面倒を二年間見続けた。発作が起きるたびに受ける悪意ある侮辱にも耐えながら。
そしてまた文代が発作を起こし、彼女のバッグの中身を、戸籍謄本ごとズタズタに切り裂いてしまうまでは。
疲れ果てた体を引きずり、戸籍謄本の再発行を依頼しに行った彼女は、役所の職員に呼び止められた。
「清水さん、この戸籍謄本は偽物のようですが……現在、あなたの婚姻状況は未婚となっています」