雪に埋もれた愛の囁き天音汐(あまね しお)と諏訪部京弥(すわべ きょうや)は、誰もが羨む若き日の恋人同士だった。一人は大学のマドンナ、一人は大学のプリンス。キャンパス内では知らぬ者のいない、理想のカップルだった。
二人は誓い合った。結婚できる年齢になればすぐに結婚しようと。しかし、愛が最も燃え上がっていたその時、汐は突如として別れを告げ、ある御曹司とともに海外へ去った。
別れの日、京弥は瞳を真っ赤に染め、汐を追って走り続けた。
あれほど誇り高い男が、何度も何度も「別れないでくれ」と縋り付いた。いつか必ず出世してみせるからと。
行かないでくれ、待っていてくれ、他の誰かを愛さないでくれ――そう泣きながら乞うた。
けれど汐は、どこまでも冷酷だった。一言も言葉を残さず、あろうことか、京弥が追走中に車に撥ねられるのを目の当たりにしても、一度も振り返ることはなかった。
その事故は凄惨なもので、京弥は腎臓破裂という重傷を負い、移植手術なしには生きられない体となった。
血まみれで手術台に横たわりながらも、京弥は力を振り絞って汐に電話をかけようとした。
だが、命を削る思いでかけた電話は、すべて無慈悲に拒絶された。
愛が深ければ深いほど、その裏返しの憎しみもまた、深く刻まれる。
あの日を境に、京弥は汐を、骨の髄まで憎むようになった。