愛は氷点下で死んだたった一度、換気のために窓を開けた。それだけのことで、夫の幼馴染が風邪を引いた。
激怒した夫・久我蓮(くが れん)は、妊娠中の久我紬(くが つむぎ)を屋敷の裏手にある業務用冷凍倉庫へ閉じ込めるよう命じた。
「俺の子を腹に宿しているからといって、莉奈(りな)を虐めていいとでも思ったか?
あいつの髪一本でも傷つけてみろ。百倍にして償わせてやる」
紬はガタガタと震えながら、凍りついたコンクリートの床に頭を擦り付けた。「ごめんなさい、謝るから……!これからは莉奈さんの下僕として何でもする。だから、許して……二度と彼女を傷つけたりしないから!」
けれど、蓮は冷酷な瞳で紬を一瞥し、重厚な鉄の扉を閉ざした。「頭を冷やせ。そうすれば、その腐った根性も少しはマシになるだろう」
ガチャリ、と鍵のかかる音が、紬の運命を断ち切った。
それから一週間後。幼馴染の風邪が完治し、蓮はようやく冷凍倉庫の中の紬を思い出した。
「おい、紬。反省したか?今すぐ莉奈に土下座して謝るなら、ここから出してやってもいい」
……だが、彼は知らない。
氷点下の闇の中で、紬の体はとっくに冷たい塊になっていることを。
彼が「跡取り」として宝物のように大切にしていた小さな命と共に、紬の心臓が永遠に止まってしまったことを。