時過ぎて人変わる「先生、志望校を横町大学に変えたいんです」中村花音(なかむらかのん)は受話器を握りしめ、きっぱりとした声で言った。
受話器の向こうから担任の声が聞こえてきた。「花音、その件はもう斉藤先生と相談したの?」
花音は一瞬たじろぎ、唇を噛むと、うそをついた。「はい、相談しました」
電話を切ると、花音はパソコンで志望校変更の手続きを完了させた。
担任の言う斉藤先生は、花音にとって特別な人だった。
中学と高校で数学を教えてくれた先生であり、苦しい生活から救ってくれた恩人でもある。
花音は田舎の小さな村で育った。14歳のとき、大学を卒業したばかりの斉藤拓真(さいとうたくま)と出会った。