八年の約束に、さよなら親友の結婚式で、ブーケをある女の子が横取りしたかと思えば、手を滑らせて私の腕の中に落としてきた。
親友の水沢葵(みずさわ あおい)が、私に向かって祝福するように言った。
「沙耶ちゃん、次の花嫁はあなただよ」
招待客たちは示し合わせたように、一斉に私の八年来の恋人へと視線を向けた。
桐谷グループのCEO、桐谷悠真(きりたに ゆうま)。
けれど彼は何事もないように私の手からブーケを抜き取り、そのまま無造作に私の隣にいた女性へ渡した。
彼の秘書でもある、真田琉衣(さなだ るい)だった。
「先に取ったのは彼女だろ」
彼は私の髪をくしゃりと撫で、優しい声で言った。
「いい子だから、まずは琉衣に返してあげてくれ。俺たちはまた次があるんだから」
スポットライトも、招待客たちの視線も、その花束を追うように琉衣へと集まっていった。
驚きと照れが入り混じった琉衣の顔を見つめながら、私は自分の腹部にそっと手を当て、苦く笑った。
悠真は知らない。
もう次なんて、ないのだ。
八年の約束はすでに期限を迎えたのに、私たちは結局、結婚には辿り着かなかった。
私はもう、海外で大きなビジネス帝国を築いた両親に約束している。
来週にはここを離れ、ヨーロッパへ戻り、家業を継ぐことになっていた。