過去を越えて――南城の記憶御影誠一郎(みかげ せいいちろう)の「思い人」が帰ってきたと知った時、そしてその彼女と誠一郎がオフィスで親しげにしているところを見た瞬間、私は離婚を決意した。
代わりに過ぎない存在なら、本物が戻ってきた時点で身を引くべきだ。
その日、真白(ましろ)を幼稚園に迎えに行き、そのまま誠一郎の会社を訪れた。
オフィスの中に入る前に、既に妙な音が聞こえてきた。
扉越しに響く甘く誘惑するような声が囁く。
「誠一郎、帰ってきたわ……」
それが月島麗華(つきしま れいか)の声だとすぐに分かった。
そう、彼にとって永遠の「思い人」。