偽りの花束、灰に帰す愛「枝織、あなたは本当にこの契約書にサインするの?
よく考えなさい。一度サインしたら、あなたは国外にいるこのALS(筋萎縮性側索硬化症)患者さんの専属医になるのよ。七日後にはすぐ出発で、この数年間は帰国できない」
先輩である宮本綾香(みやもと あやか)は、理解に苦しむというように和泉枝織(いずみ しおり)を見つめ、その瞳には失望が満ちていた。
「それに、たった今聞いたわ。成景がALSと診断されたって。あなたはこの分野のトップクラスの人材であり、何より彼の妻でしょう。こんな時に彼のそばにいないで、国外へ行くなんて。少し薄情すぎるとは思わない?」
綾香の鋭い視線が枝織の心臓に突き刺さった。
全身が麻痺するほど痛かった。だが、枝織は唇を歪め、嘲りに満ちた笑みを浮かべた。
そして、枝織はきっぱりと契約書に署名し、綾香に別れを告げて家に戻った。