記憶喪失のふりで暴いた家族の残酷な嘘息子の成瀬陽翔(なるせ はると)の誕生日を祝うために向かう途中、私は交通事故に遭った。
目が覚めると、病床を囲む家族の顔が見えた。私は少し悪戯心を起こして、冗談めかしてこう言った。
「すみません、あなたはどちら様ですか?」
笑いをこらえながら、彼らがこの「記憶喪失」の私をどう慰めてくれるのか様子を窺った。
母の白川百合子(しらかわ ゆりこ)や夫の成瀬涼介(なるせ りょうすけ)が心配そうに私の手を握ってくれるだろうか?それとも陽翔が「ママ!」と泣き叫んで飛びついてくるのか?
しかし、予想は裏切られた。彼らは一瞬呆気にとられた後、あろうことか一様に安堵のため息をついたのだ。
母が真っ先に口を開いた。その声には、まるで肩の荷が下りたかのような安堵が滲んでいた。
「忘れてしまったのなら、そのほうがいいわ。実はね、あなたは我が家の養女で、彩華こそが本当の娘なのよ」
涼介も私を指差し、陽翔に向かって言い放った。「陽翔、これからは彼女を『おばさん』と呼ぶんだぞ」
あまりの衝撃に言葉を失っていると、私が命を懸けて守った息子が偽の母である白川彩華(しらかわ あやか)の懐に飛び込んでいった。
「ママ!今日ね、外で一日中遊んだんだよ。すごく会いたかった!」
そうか。この記憶喪失は彼らにとって渡りに船だった。
それなら、こんな偽りだらけの生活などいっそ捨ててしまえばいい。