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78.二人のチューニング

Penulis: 神木セイユ
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-15 11:00:00

 酒場のステージ裏に米や芋を置く倉庫がある。

 その貯蔵庫の壁の厚さが、わたしたちには都合が良かった。

 狐弦器のチューニングには数十分かかる。弾く時は自分の音感だけで合わせなきゃならない。開放弦の音を正確に覚えてないと出来ない作業。一音一音丁寧に。重音を合わせて微調節。更に微調節。

 真っ直ぐに弦を見つめて弓を弾く。

 その瞳は記憶を取り戻しても変わってない。

「セロ」

「……」

 ダメか。音を鳴らしてる最中は……。

「なんだ ? 」

「……あ」

 わたしに向けられた視線に、つい動揺してしまう。

「あの……記憶が戻って……なにか変わった ? 」

「変化か……」

 一度狐弦器を椅子にかけると、積まれた麻袋に座る。

「そうだな……。前は過去を思い出そうとすると……こう、霧がかかったように思考が止まってた。今は……鮮やかだ。スッキリしてる」

「鮮やか……かぁ」

「例えばこの芋の入った籠。キャメルでは蒸した芋をシロップで食べるんだが、女たちは太る事を気にして食べなかった。

 狐弦器を弾けたのは元からだ。モモナにいた頃……生まれた時から肌身離さず持ってたが、キャメルに来てからは一段と練習をする事に」

「キャメルに来てから ? その……伯母さんは何も言わなかったのね」

「最初はした。無理に取り上げて捨てようとした。そして客を取れと……」

「練習場所に困らなかった……って話 ? 」

「いいや。部屋に来た男に俺は何ももてなす気は無かった。しかし、文句を言われる訳にはいかない」

 そうか。

 最
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