秋風、骨を刺す柳井悦美(やない よしみ)は妊娠8か月目にして、深刻な交通事故に遭った。
子宮が破裂し、子どもは胎内で死亡した。
加害者である女性ドライバー樋口凛音(ひぐち りお)は病院に押しかけ、硬貨に両替した数百万円の現金を袋ごと彼女に投げつけた。
「あのガキは、死ぬべき運命だったよ。この金を持ってとっとと消えなさい。たとえ裁判に訴えたところで、これ以上の賠償は絶対に手に入らないわ」
悦美は狂った獣のように、体の痛みも顧みず凛音に飛びかかり、嗄れ声で怒鳴った。
「必ず訴えてやる!その命で償わせてやるわ!」
しかし、裁判当日、悦美の夫である川野時雨(かわの しぐれ)が法廷で精神鑑定書を提出した。
そして、悦美が被害妄想を患っており、故意に凛音の車に飛び込んで子どもを死なせたのだと証言した。
悦美は証人席に立つ夫を見て、雷に打たれたように愕然とした。