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芥川龍之介の『羅生門』では、極限状態における人間の侮り合いが鮮烈に描かれています。飢えた下人と老婆の対峙から始まる物語は、互いを虫けらのように見下す心理が、生き延びるための正当化装置となる過程を克明に追っています。
面白いのは、最初は「鬼のような老婆」と侮っていた下人が、自分の行為を正当化するために「誰もがそうする」と考える転換点。このわずか十数ページの短編に、人間が他者を貶めることで自己を相対的に高めようとする危うい心理メカニズムが凝縮されています。雨に煙る羅生門の情景と相まって、読後も長く心に残る作品です。
『罪と罰』の世界に初めて触れた時、主人公のラスコーリニコフの内面に渦巻く侮りの感情がどれほど深いものか、胸を締め付けられました。彼が「非凡人」理論に縛られ、自分を特別視するあまり他人を見下す心理描写は、読むたびに新たな発見があります。
特に印象的なのは、老婆殺害の場面で「あんな虱のような人間を」と吐き捨てる台詞。この侮りがやがて自己嫌悪へと転じ、救済への道を歩む過程は、人間の精神の奥行きをえぐり出すようです。ドストエフスキーが描く侮りの連鎖は、現代のSNS社会における誹謗中傷問題にも通じる、普遍的なテーマと言えるでしょう。
『アラビアン・ナイト』の一編「嫉妬深い兄と弟の物語」では、身分違いの恋を侮れた代償が壮大な運命の逆転を招きます。裕福な商人の兄が貧しい弟を嘲弄する場面から始まり、最後には立場が完全に逆転するという、勧善懲悪的な構成が痛快です。
この物語の面白さは、単なる道徳訓話にとどまらないところ。兄の侮りが弟の奮起を促し、結果として双方の成長につながるという、侮りを成長の契機に変える逆説的な展開にあります。千年以上読み継がれてきただけあって、人間心理の本質を突いたエピソードと言えるでしょう。