頭に浮かぶのは『NANA』だ。二人のナナが交差するその物語は、
駆け落ちそのものを直截に描くというより、駆け落ちに至る感情の地図を非常に現代的に示している。僕はこの作品を読むたびに、衝動と孤独、経済的不安、そして「今すぐ
逃げたい」という欲望がどれだけ現代の恋愛を駆動するかを実感する。
登場人物の選択はしばしば衝動的で、伝統的な結婚や家族観とは違う道を選ぶ過程が描かれている。
逃避行と呼べるほど劇的な場面ばかりではないが、共同生活や即断の結婚、関係の崩壊が社会的なプレッシャーとどう衝突するかが細やかに描かれている。SNSやメディアの存在がまだ今ほど強くなかった時代の物語だけれど、感情の根っこは同じで、現代の駆け落ちを考えるうえで示唆に富んでいると感じる。物語の痛さとリアリティが、駆け落ちを単なるロマンではなく現実的な選択肢として読ませる作品だ。