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取材現場で監督に制作秘話を尋ねるとき、僕が大切にしていることがいくつかある。
まず、入口は軽やかに、でも敬意を忘れないようにしている。具体的には事前に作品と制作背景を丁寧に調べて、既知の出来事や誤解されやすい点を整理しておく。例えば『千と千尋の神隠し』のように監督の創作手法やスタジオの流儀が強く影響する作品では、単にゴシップを求める質問よりも「どの場面で特に苦労したか」「カット割りや演出で狙った効果は何か」といった、技術や意図に寄り添う問いが実りやすい。
次に境界線の確認だ。制作秘話には個人のプライバシーや契約上の制約(NDAや権利関係)に触れるものが多い。録音や公開範囲について事前に合意を取り、オフレコにするかどうかを明確にする。監督が感情的になりやすい話題(スタッフの人間関係、制作中のトラブル、精神状態に関する推測など)には踏み込みすぎず、相手の反応を見て深掘りの度合いを調整する。
最後に、語り手としての責任を自覚すること。面白い裏話は読者を惹きつけるが、断片だけを取り上げて人物像を一方的に作り替えることは避けたい。取材後は要点を整理し、必要なら確認をとる。監督の言葉が作品理解を深める手がかりになるなら、その文脈を丁寧につなげて伝える。こうして信頼が生まれれば、次のインタビューでさらに深い話を引き出せるようになると実感している。
経験から言わせてもらうと、最初の5分で勝負が決まることが多い。軽い雑談で場を和ませつつ、目的を明確に伝えると監督も話しやすくなる。制作秘話を掘るなら、まずは公開可能かどうかを確認するのが鉄則だ。たとえば『新世紀エヴァンゲリオン』のように作品の背景や制作者の個人的事情が取りざたされやすい場合、過剰にセンセーショナルな切り口は避けるべきだと感じる。
具体的なテクニックとしては、オープンクエスチョンを混ぜること。単純なイエス/ノーで終わらない質問—「その決断のきっかけは?」「その場面で最も議論になった点は何か?」—を投げると、監督自身の思考プロセスや価値観が出やすい。加えて、第三者の功績やチーム全体への配慮を忘れないこと。裏話のなかには特定の個人を責めるように聞こえるものもあるので、必ず文脈を補足する。
また、技術的な制約や編集の事情を尋ねる際は、専門用語を必要以上に使わずに説明を促すと良い。インタビュアー側が分かりやすく伝えられれば、読者にも届きやすくなるからだ。最後に、公開前に重要な引用だけでも確認を取るか、少なくとも誤解を招かないよう配慮する。取材は情報を取る行為ではなく、対話であると考えている。
振り返ると、取材相手の立場を第一に考える習慣が最も役立った。自身の好奇心だけで踏み込むと、制作秘話は歪んで伝わりやすい。作品固有の問題や未公開の契約事項に触れる前に、「それは話しても大丈夫か」を一言で確認するだけで、以後のやり取りがずっとスムーズになる。
取材の実務面では時間管理と方向付けが重要だ。限られた時間で核心に迫るには、導入→深堀り→まとめ、という流れを意識する。導入では軽めの技術的質問を投げ、反応を見てから感情的・個人的な背景に移る。例えば『The Last of Us』の映像化過程のように権利や俳優の事情が絡む話題は、慎重にかつ敬意を持って聞くことが求められる。
取材後の扱いにも責任があると感じる。引用は正確に、文脈は忠実に伝える。もし誤解を招きそうな表現があれば、こちらから説明を添えるか、必要に応じて補足を入れることで、監督の意図を損なわずに読者に届けられる。こうした配慮が信頼を築き、次の取材チャンスにつながると考えている。