読み返すたびに、作品の中で最も胸を締めつけられるのは
ウェルテルの理想化だ。彼は相手の欠点や現実の重さを美化した幻想に置き換え、感情が透明なヴェールのように世界を覆っていく描写が繊細に積み重ねられている。
手紙体の長い独白を通して、感情の高まりと急降下がそのまま行間に表れる。僕はその連続する気分の振幅に、自分がまるで揺れる葉っぱになったような居心地の悪さを覚える。ラブオブジェクトに対する全肯定が次第に自己消耗へと変わる過程を、作者は逃げ道を与えずに見せる。こうした理想化と現実の乖離が、読後に残る切実さの核だと私は考えている。