細部にこだわると世界が生まれる、というのは本当にその通りだと感じる。まずは色と素材から攻めるのが自分流で、'若きヴェルテルの悩み'に描かれる人物像なら、自然染料の柔らかい色合いを基調にするのが鍵だ。淡い藍や
芥子色、生成りのリネンを選んで、華美すぎないけれど存在感のある組み合わせにする。
次にシルエット。18世紀後半の田園風情を出すには、タイトすぎないコートや腰の位置がやや高めのブリーチを選び、ウエストコートは短めでボタンを隠すように着ると雰囲気が出る。布の重なりで季節感を出すことを忘れないでほしい。
小物はストーリーを語る部分だから手を抜かない。インク瓶と羽根ペン、古びた手帳、金属の懐中時計(チェーンは短め)や革の手袋は効果抜群。真鍮ボタンや刺繍を起点に、使い込んだ風合いを足していくと生きた再現になる。最後に、着心地と可動性を大事にして、動いたときに絵になるように調整する。そうすると、単なる服装再現が人物表現へと昇華する。