耳に残る断片が積み重なっていくと、物語の裏側まで見えてくる瞬間がある。『
ブラックリスト』の音楽はまさにそんな働きをするから、多くのサウンドトラック好きが深く惹かれる。単に不安をあおるだけでなく、キャラクターの内面や状況の濃淡を音で描き分ける技巧が光っているからだ。ジェームズ・S・レヴァインによるスコアは、低音のうねりと細やかなハーモニクス、そして電子的なテクスチャーをブレンドしており、映像と一体化した瞬間に強い記憶を残す。
僕はサウンドトラックを聴くとき、まず主題(モチーフ)の扱い方を見る。『ブラックリスト』ではレッドに結びつく短いフレーズや、緊迫場面で微妙に変容するリズムが何度も繰り返され、聞き手の期待や恐怖を巧みに操作する。これが効果的だと評価される理由は二つあって、一つは物語進行と同期した「再認性」、もう一つは単独で聴いても情景を想起させる「自立性」だ。映画音楽の名作、例えば『ブレードランナー』のように、スコア自体が世界観を補強するタイプの作品に近い感触がある。
さらにサントラ愛好者は音の質感やアレンジの妙にも敏感だ。生楽器と電子音のバランス、リバーブの深さ、ダイナミクスの幅が場面の説得力に直結する。エピソードごとに選ばれる使いどころの巧みさや、未発表トラックの存在、シーン編集に合わせたフェードやカットの使い方まで細かく議論されるのをよく見かける。僕にとって『ブラックリスト』の魅力は、ただのBGMを超えてドラマの神経系を担っている点で、聴き返すたびに新しい発見がある。