ピアノ初心者が抱きやすい壁を三つに分けて考えてみると、速さの壁、正確さの壁、そして音楽性の壁が見えてきます。『ラ・カンパネラ』は技術的に要求が高い曲なので、それを一度に全部解決しようとすると心が折れやすい。私がまず勧めるのは、曲全体を一気に弾こうとせずに“機能ごとに分解”することです。右手のトレモロ的な跳躍パッセージ、左手の伴奏形、オクターブやトリル、レガートを保ちながらの大きな跳躍――これらを個別に取り出して練習すると効率がぐっと上がります。
個別練習の具体的な進め方としては、まずテンポを極端に落として正確さを確保します。メトロノームは必須で、四分音符→八分→三十二分音符と細かく刻んでいくと効果的です。右手の高速連続音は、指使いを紙に書いて決めたらまず片手だけでゆっくり、次に左手だけを合わせる、最後に両
手合わせという順序で。跳躍が多い箇所は“目標点”(着地の鍵)を決めてそこへ手を導く練習を繰り返します。指の独立性やスピードは『ハノン』や『ツェルニー』の短い練習曲で補強すると安定しますが、量より質。毎回5分でも良いので集中して行うのが肝心です。
リズム変化やアクセント練習も忘れないでください。速いパッセージは均一に弾くのが難しいので、リズムを変えて(長短を交互にする、二分割して弾くなど)身体にパターンを刷り込むと、通常速度に戻したときに正確性が格段に上がります。跳躍で落ち着かないときは、腕・手首の回旋や肩の力みをチェックして、必要なら肩を軽く下げる、手首を柔らかく使うといった物理的な工夫を入れます。ページをめくるように指を滑らせる“フィンガリング設計”は、楽譜に必ず書き込んでおくことをおすすめします。
曲の音楽性については、速く弾けることと音楽的に聴かせられることは別問題です。小さなフレーズごとに歌うように弾く練習を入れ、強弱のデザインを先に考えてから速度を出す。録音して自分の演奏を聞くと、思いがけない弱点が見つかります。時間配分としては、ウォームアップ(指と手首の軽い運動)5〜10分、テクニック強化15分、曲の分割練習20〜30分、仕上げに通しで数分という構成がバランス良いです。継続は力なりで、焦らず小さな勝利を積み重ねることが一番。私も何度も躓きましたが、分解して練ることでだんだんと見違えるようになります。