名前の背後にある語源の話を聞くと、作者が言葉と個人的体験を巧みに混ぜ合わせているのが伝わってくる。作者は
マルゴの名を選ぶ際、まず音の持つ力を重視したと語っていて、短くて覚えやすく、それでいて微妙に外れた印象を与える点が決め手になったと説明している。加えてフランス語圏の女性名『Marguerite(マーグリット)』やラテン語の 'margarita'(真珠)という語源が示す「希少さ」や「光」をキャラクター性に結びつける意図があったという。物語内で彼女が放つ孤独感や芯の強さを、名前そのものが暗示するように設計したと聞くと、納得がいく部分が多い。
また、作者は家族史と古典的な文学・舞台芸術からの断片的なインスピレーションも明かしている。幼少期の知人の名前や、ある舞台女優の佇まいが記憶に残っていて、それらが断片化してマルゴという人物像を形作ったという話だ。単純に「響きが良いから」という理由だけでなく、実在の人物や美術的イメージから抽出した性格要素――たとえば繊細さと大胆さが同時に存在するような矛盾した魅力――を名前に託したと説明している。
個人的には、その説明を聞いてからマルゴが登場するシーンを見る目が変わった。名前がキャラクターを裏切らないように、作者は語感、語源、個人的記憶という三つの層を同時に意識していたんだろう。だからこそ『マルゴ』という短い音の中に、物語全体の微妙なずれやテーマが凝縮されているように感じられるのだと思う。