古い文学作品に触れると、隠れた慾望や密やかな訪問が人間関係の核になることが多いと感じる。僕がまず勧めたいのは、谷崎潤一郎の小説『鍵』だ。二人の中年が日記を通して互いの本音や欲望を露にしていく構成は、直接的な描写よりも心理の綾が主題になっていて、“
夜這い”的な密かな接近や秘密の共有がどのように関係を壊し、あるいは歪めるかを静かに見せる。僕はこの作品の持つ不穏な親密さが好きで、読んだ後にはしばらく登場人物たちの視線が頭から離れなかった。
映画としてのアプローチが見たいなら、谷崎のモチーフを下敷きにした海外の映画『The Key』も参照にしてほしい。原作の心理を映像化するときにどこを強調するかで印象が大きく変わるのが面白い。日記や告白というメカニズムを通じて、直接的な行為そのものよりも、それを取り巻く秘密と観察の側面が際立つ点に注目してほしい。
全体として、暴力的でも猥褻でもない“密やかな侵入”や秘密の共有をテーマにした作品を探しているなら、『鍵』は入口としてとても示唆に富んでいると僕は思う。文学が持つ陰翳のつけ方を楽しんでほしい。