考えてみると、映画化の際に監督が最も意識すべきは
麝香揚羽の「感覚的な密度」だと思う。
視覚と音の重なり、匂いや湿度まで伝わってくるような空気感をどれだけ画面に落とし込めるかで、原作が持つ魅力の多くが決まる。ここで言う空気感は単なる背景美術ではなく、キャラクターの行動や小さな仕草、カットの長さ、音楽の入り方といった総合的な演出で作られるものだ。私はこうした細部が積み重なって世界観が生きてくるのを何度も経験してきた。
さらに、物語のテンポ配分も肝心だ。説明的なモノローグに頼らず、映像で示すことを優先することで映画としての強度が増すはずだ。特に象徴的な場面や回想の挿入は、観客に余韻を残すようにカットを選ぶこと。参考にしているのは監督の演出で大胆に間を取った作品、たとえば'千と千尋の神隠し'のように巧みに空間と沈黙を扱う手法だ。
総じて、私は監督が「感覚の再現」「登場人物の内部に寄り添うカメラ」「音と間の設計」を重視すれば、麝香揚羽は映画として成功すると考えている。これらが揃えば、原作の繊細さと力強さの両方を映画で表現できるはずだ。