あなたの冷たさに、愛は霞んで新婚間もない頃、夫の賀川雅文(かがわ まさふみ)に緊急派遣の命令が下り、国境なき医師として戦地へ向かった。
結婚したばかりで離れて暮らすことに耐えられず、私は仕事を捨て、彼に付き添って戦地へ赴いた。
けれど半年が過ぎても、夫は私を戦闘が続く危険な駐在地に住まわせたまま。
私は何度も命を落としかけたというのに、彼の教え子である女子学生は、いつの間にか安全なエリアにある家族向け宿舎へ移されていた。
怒りで頭に血がのぼり、その場で帰国すると言い出した私を、雅文は慌てて抱きとめ、必死になだめた。
「彼女は俺の教え子なんだ。もし何かあれば、周囲から責められる。だから、まずは君に我慢してもらうしかなかった。家族用宿舎はいま増設中なんだ。来月には、君の入居資格を申請するから」
私は結局、彼の立場を思ってその言葉を受け入れ、戦地に残った。
だが、思いがけずウイルスに感染し、家族枠で優先接種を申請しようとしたとき、告げられたのは残酷な事実だった。
「システム上、賀川様のご家族として登録されているのは谷口静香(たにぐち しずか)様という方です。あなたは本当に、賀川様の奥様ですか?」
その瞬間、全身の血の気が引いた。
谷口静香――それは、雅文のあの教え子の名前だった。
すべてに絶望した私は、兄に電話をかけた。
「兄さん、迎えに来て。それから――離婚協議書も一通、持ってきて」