漫画版を追いかけて気づいたことがいくつかある。まずは全体のテンポ感が原作(小説やウェブ版)とだいぶ違って感じられる点が目立つ。『
日陰者でもやり直していいですか』の原作は場面描写や登場人物の内面にじっくり時間を割くタイプだったと思うが、漫画ではページ制約と読みやすさを優先して出来事がコンパクトにまとめられている。その結果、細かい心理描写はコマ割りや表情、背景描写で代替されることが多く、原作を読んだときに抱いた「あの場面の微妙な揺れ」が視覚的に端的に伝わる一方で、詳しい理由づけや補足が省略されることがある。
対人関係やキャラクター描写の差も大きい。原作だと長い独白や回想で人物像が深く掘り下げられていたところを、漫画はセリフと表情、仕草で見せるため、印象が強くなる場面と薄くなる場面がはっきり分かれる。とくに主人公の葛藤や成長の過程は、漫画だと短いコマで象徴的に表現される傾向があるから、細かい心の動きが読み手に委ねられる部分が増える。私はこの変化を好意的に受け取ることもあれば、原作の丁寧さが恋しくなることもある。さらに、サブキャラの扱いが変わることが多く、出番が減ってしまう人物がいる反面、漫画オリジナルのシーンや表情カットが加わってキャラの魅力が強化されるケースもある。
絵柄や演出の違いが作品全体のトーンに与える影響も無視できない。作者や作画担当の画力と演出センスによって、シーンの重さやユーモアの度合いが変わるため、原作で受けた印象とは別の感情が湧くことがある。暴力表現や性的描写、暗い描写の抑制・強調も媒体ごとの編集方針で左右されがちで、これによって物語の受け取り方が変化することがある点には注意が必要だ。個人的には、原作の細かさを補完するために漫画版で加えられたビジュアル演出や短い追加エピソードは楽しめたが、原作の説明過多と感じていた部分がすっきり整理されている反面、背景設定や伏線の詳細を読み飛ばしがちになってしまう懸念も感じた。
総じて言うと、漫画版は視覚情報で感情や関係性を直感的に伝えることに長けており、原作は内面描写や設定の丁寧さに価値がある。どちらが優れているかではなく、違う媒体ならではの魅力を持っていると捉えると楽しみ方が広がる。両方を追って比べると新たな発見があって、作品全体の見え方が深まるのが面白いところだ。