翻訳の現場では、台詞の前置き表現をどう処理するかでキャラクター像が大きく変わることがよくある。
老婆心ながら、という日本語は直訳すると不自然になりがちなので、文脈と話者の性格に応じて柔軟に選ぶのがいちばんだと考えている。
表現の選択肢は大きく三つに分けられる。まず文字どおりの意味を残したい場合は『for what it’s worth,』や『if I may say so,』のような英語表現が使える。短めで中立的だから字幕向けだし、年配の人物が慎ましく言うニュアンスはだいたい伝わる。次に、話し手が親しみを込めて心配している場合は『I don’t mean to pry, but…』や『I hope you don’t mind me saying this,』のように少しカジュアルで感情の色を出す選択肢が有効だ。逆にぶっきらぼうで皮肉めいた調子なら『Not that I care, but…』のようにロックな言い回しで性格を強調することもある。
字幕では行数と表示時間の制約があるため、冗長な前置きは削る判断も必要だ。とくに会話が早く進む場面では、『余計なお世話かもしれないけど』を『just saying,』や『heads-up:』など短縮して落とし込むとリズムを保てる。たとえば『千と千尋の神隠し』のような場面で年配の登場人物が心配を示すなら、丁寧寄りの英語を選んで場の温度を保つのが自分の好みだ。結局は、誰が言っているのか、どの程度の距離感なのか、字幕のスペースはどれくらいあるのかを天秤にかけて最終決定する。短くても的確な選択が、キャラクターの奥行きを英語圏の視聴者に伝えてくれると思うし、そこが字幕制作の面白さでもある。