愛の深さと儚さ
周防院徹(すおう いんてつ)の行方不明だった初恋の相手が見つかった。
警察からの電話を受けた院徹は血相を変え、上着も手に取らずにオフィスを飛び出した。
新しい提携について商談中だった取引先は呆気に取られ、思わず安濃静月(あんのう しずき)に視線を向けた。
「大丈夫です。続けましょう」静月は院徹を追っていた視線を戻し、上品な笑みを浮かべ、院徹が言いかけた言葉を淀みなく引き継いだ。
「新しいプロジェクトへの投資の件について……」
一時間後、静月は自ら取引先を見送った。
オフィスに戻り、スマートフォンを手に取って確認するが、院徹からのメッセージは一件もなかった。
静月が院徹に電話をかけると、数回の呼び出し音の後、繋がった電話から聞こえてきたのは若い女性の声だった。