もう、バカにされない
結婚式の当日、彼氏の小野真一(おの しんいち)は私を式場の外に追い出させ、幼なじみの手を握って中へ入っていった。
私はレッドカーペットに座り込み、ブーケの花びらが地面に散乱した。でも、彼の視線は一瞬も私に向かわなかった。
「入江麻子(いりえ あさこ)の子供には父親が必要なんだ。子供が落ち着いたら、お前と結婚する」
周りの誰もが、私が大人しくあと一ヶ月待つと信じ切っていた。
何しろ、私はこの結婚式を七年も待ち続けてきたから。
しかしその夜、私は誰にも予想できないことをした。
親が取り決めた見合い結婚を受け入れ、すぐに海外へ旅立った。
三年後、実家に寄るために帰国した。
夫の長森勝巳(ながもり かつみ)は今や国際企業の社長になっていた。重要な会議が入ったため、彼は私に先に国内支社へ行くように言い、部下に接待を任せた。
なんと、その部下は三年ぶりに再会する真一だった。
彼は一目で私の薬指に光るダイヤの指輪に目を留めた。
「これは長森社長が奥さんのために一億円で落としたあのピンクダイヤの偽物じゃないか?数年会わないうちに、そんなに虚栄心が強くなったのか。
そんなにわがままも大概にしろ、戻ってこい。麻子の子供もそろそろ学校に上がる年だ。ちょうどお前が食事の世話をしてやれ」
私は何も言わず、そっと指輪を撫でた。
これが勝巳がくれた数多い宝石の中で、一番安いものだということを彼には知らない。