情が深まるとき、愛は離れて
あらゆる手を使ってまで私と結婚した夫、高梨辰哉(たかなし たつや)は、その2年後に、新しく囲った女を家に連れ込んだ。
玄関でその女の長い髪をそっと撫でながら、私の方を見て笑う。
「薫、お前も見学してみたらどうだ?ロボットみたいな表情じゃなくて、可愛い笑い方を覚えたほうがいいぞ」
昔は、私の髪を撫でるのが好きだと言ってくれた。触れていると、どんな悩みも忘れられる、と。
なるほど。別に誰でもよかったんだ。
それに気づいた瞬間、どうでもよくなった。
引き出しから用意しておいた離婚届を取り出し、淡々と差し出す。
「サインして。席を譲ってあげるわ」
残された時間は少ない。これ以上、この男に時間を費やしたくない。