叶わなかった夢、偽りの愛
まさか、生まれ変わっても、また間違った人を愛してしまった。
前世では、婚約者だった斉藤健一(さいとう けんいち)を選んだ。
けれど彼は、私の知らないところで偽物の令嬢、松本葵(まつもと あおい)と3年間も不倫し、子供までいた。
挙句の果てには、彼女のために私の両足を轢き、首席ダンサーの座まで奪った。
生まれ変わって、私は叔父の斉藤彰(さいとう あきら)と結婚することを選んだ。
これでもう前世の運命から逃れ、夢を実現できると思っていた。
しかし、首席ダンサーの選考を前に、またしても私は交通事故に遭ってしまった。
彰はそれを知り、街の大物たちを敵に回すことも厭わず、自ら葵を刑務所送りにした。
私は深く感動し、生まれ変わってからの選択は正しかったのだと勘違いした。
5年後、彰と息子の会話を聞くまでは――
「パパ、葵おばさんが言ってたんだけど、パパがママに示談書にサインさせるために、ママと結婚したんだって。
もう葵おばさんが戻ってきたんだから、ママと離婚してくれない?葵おばさんにママになってほしいんだ」
彰はその言葉を聞き、私の信頼の眼差しを思い出した。そして、首を横に振って言った。
「そんなことしないよ。葵の証拠を隠滅し、新しい身分を与えて罪から逃れさせた時点で、もうすでにお前のお母さんには申し訳ないことをしたと思ってる。だから、一生かけて償うつもりだ。
彼女は、いつまでも俺の妻だ。これから、お母さんの前でそんなことは言うなよ。彼女が悲しむぞ」
体の痛みよりも、今、心が痛くて、痛くて......
結局、5年間の結婚生活は陰謀だったのだ。
彰が愛していたのは、ずっと葵だけだった。私があんなに苦労して産んだ息子でさえも。
もういい。彰なんていらない。
息子もいらない。