白いバラが届いた日、私は賢妻を卒業する
十五歳の誕生日、父は姿を見せなかった。代わりに、不倫相手へ九百九十九本もの白いバラを贈っていた。
それを知ったことで、母と父は激しく言い争い、その場で離婚協議書を作成し、署名を交わした。
誕生日は完全に台無しになり、あの白いバラは、私――七瀬来未(ななせ くるみ)の中で結婚というものに落とす、拭い去れないトラウマとなった。
だからこそ、結婚する日、夫である加賀宗介(かが そうすけ)に、私はこう告げた。
「もし離婚したくなったら、白いバラを贈ってくれればいいから」
宗介は私を抱き寄せ、穏やかな声で言った。「心配はいらない。うちに、これから白いバラが現れることはないよ」
五年後。宗介の会社の祝賀パーティーで、私は会場に飾られた花束の中に、白いバラが一本混じっているのを見つけた。宗介は即座に、会場装飾を担当した研修生を激しく叱責し、その場で会社を辞めさせた。
その日、私は、宗介と結婚した選択は間違っていなかったのだと、心から思った。
ところが半年後、私の誕生日を迎えて初めて、あのとき追い出された研修生が、夫の秘書へと昇進していることを知った。
秘書となった小湊萌々香(こみなと ももか)は、私のもとへ直々に、大きく美しい白いバラの花束を届けに来た。
私はすぐに夫へ電話をかけ、問い詰めた。だが、宗介の返答はそれだけだった。
「萌々香に悪気はない。そんな水を差すようなことを言うな」
私は呆然とし、そのまま電話を切った。
やはり、母は間違っていなかった。白いバラは、離婚協議書と並んでこそ、美しく映えるものなのだ。