二人のやり取りと姿を眺めていた黒曜が、笑った。
「なんだ、紅。もう尻に敷かれてんのか」
楽しそうに笑う黒曜を、紅がじっとりと睨んでいる。
「確かに蒼は可愛いよなぁ。素直だし正直だし、霊力は多いし、美味いし」
最後の一言に、紅が黒曜を威嚇する。
「何より希少な|蒼玉《せいぎょく》だ。そりゃぁ、蛇々も狙いにくるわなぁ」
紅の肩が小さく震えた。
「黒曜、蒼は……」
「さっさと番になっちまえよ、紅。手放す気がなくて守りてぇなら、それが一番手っ取り早いぜ」紅の言葉を遮って、黒曜が断言した。
「瑞穂国の統治者、黒曜が立ち合ってやる。まずは名前の契りから済ませろ。今、やれ」
くいっと指さされて、紅が言葉に詰まった。
(蒼玉って、何だろう。さっき、黒曜様が言っていた僕の価値に関係あるのかな。希少って、なんでだろう)
わからないことだらけだが、蒼が何より気になったのは、紅が躊躇していることだった。
(僕と番になりたいって言ってくれたのは紅様なのに、気持ちが変わっちゃったのかな)
怖くなって、思わず紅の袖を引いた。
紅が一瞬、蒼に向けた目を、黒曜に移した。「番になる許可が欲しいから来てもらったのは、確かなんだけど。まだ蒼に、蒼自身の価値を話せていないんだ。蒼玉についても、それがこの国でどんな扱いを受けるかも。だから、今すぐって訳には」
紅の目が憂いて見えた。
蒼玉は、もしかしたらあまり良い扱いをされないのかもしれない。「そんなもんは、番になってから話せばいいだろ。お前ぇんトコに餌として売られたんなら、蒼には帰る場所もねぇんだろ。この国で生きるしかねぇんなら、紅の番が一番、安全だろ」
「黒曜、言い方……」「大丈夫です、紅様」蒼は紅の袖を再度、引いた。
「黒曜様の指摘は正しいです。僕はもう現世に生きる場所がありません。瑞穂国で生きるなら、紅様の隣が良いです。番になっても、僕は後悔しませ
蒼愛の霊能は紅優が思っていたより完成度が高かったらしい。 現時点では、得意な火と水の力を伸ばす方向で訓練が始まった。 霊能の訓練を本格的に始めたかった蒼愛としては、嬉しい。 初めこそ戸惑った顔で驚いていた紅優だったが、蒼愛の霊能が伸びるのを、徐々に喜んでくれるようになった。「蒼愛は覚えが早いし、器用だね。思考も体も柔軟性があって、やっぱり術者向きだよ。霊力量も順調に増えているし、風と土の練習を初めても、いいかもしれないね」 訓練三日目、炎を円にしたり紐のように伸ばしたりする練習をする蒼愛を眺めて、紅優が呟いた。「水は? 水はまだ、炎ほど上手く扱えないよ」 紅優が顎を擦りながら考えている。「昨日、教えたばかりだけど。水の壁、作れる?」 炎を消して、蒼愛は水の壁を目の前に展開した。 得意ではない属性の土より、水で結界を作った方がいいとアドバイスされて、練習していた。「いいね。その水で自分を、ぐるっと囲える?」 言われた通りに、蒼愛は水の壁を球体にして自分を包み込んだ。「上手だね。中から外に向かって、水の飛沫を飛ばして攻撃するのも良いと思うよ」 紅優が指を弾く仕草をする。 蒼愛は首を捻った。「水は、癒しや守りの力にしたいから、攻撃をのせるイメージがうまく湧かないかも」『四人の魔法使い』の本の中で、水の魔法使いは、傷を治したり解毒したりして仲間を癒していた。 紅優が納得したように頷いた。「イメージが湧かなかったり、蒼愛が納得できない力は無理に使わない方がいいね。きっと強い術にはならない」 蒼愛は水の結界を解いて、紅優に駆け寄った。「折角、紅優が提案してくれたのに、ごめん」 紅優が微笑んで、蒼愛の頭を撫でた。「それでいいんだよ。蒼愛が嫌だと思ったりできないと思う事、正直に教えてくれる方が俺は嬉しい。誤魔化さないで本音を教えてくれて、嬉しいよ」 本当に嬉しそうな顔をしている紅優を見上げて、照れ臭くなった。
昼食を終えた蒼愛は庭に降りた。 縁側に座る紅優に向かい合って立つ。「まずは、霊力を放出する練習をしよう。体の外に弾き出す感覚なんだけど、出来そう?」 自分の体を見回しながら、蒼愛は頷いた。「多分、出来ると思う」 自分の内側に流れる霊力を感じながら、腹に力を入れて、外側に弾き出す。 強い圧が蒼愛を中心に円状に放出した。地面に砂埃が舞った。「うん、良いね。霊力も練られていて滑らかだ。もしかして、練習してた?」「紅優の妖力と僕の霊力を混ぜたらもっと強い力になるかなって思って。このやり方が正しいかは、わからないんだけど」 部屋で一人の時などに、実は練習していた。 照れくさくて、小さく俯く。 紅優が微笑んだ。「大丈夫、ちゃんと混ざってるし、よく練られてる。これからも続けようね。蒼愛が言ったように妖力と霊力が混ざっていたほうが強くなるし、霊元に集中する程、霊力が練られて更に強度を増す」「わかった」 紅優が蒼愛の胸に手を当てた。「次は閉じる練習。霊力が流れ出る一方にならないように、留めるんだ。霊元が枯れると人は死んでしまうから、開きっぱなしにしないようにね。自分を内側に隠すようにイメージして」 蒼は言われた通りにイメージを始めた。 霊力が霊元に戻って、閉じていく。自分が消えていくような気がした。「そうそう、そんな感じ。霊元を閉じれば気配を消せる。蒼愛の多すぎる霊力は、妖怪にすぐに見つかるけど、こんな風に閉じれば、自分を隠せる。身を守るのに、大事だよ」 霊力の気配を消せれば、蛇々の時のような襲撃を受けても、逃げられるし身を隠せる。(僕が僕を守ることが、紅優の安心にも繋がるんだ。自分をちゃんと守らなきゃ) そう思ったら、気合が入った。「わかった。ちゃんと覚える」 蒼愛の顔を眺める紅優が満足そうに頷いた。「蒼愛は覚えが良いね。真面目で一生懸命な性格が、こういうところで活きるよね」「真面目とかではないけど、夢中になると
蒼愛と紅優は、テーブルに掛け直した。 目の前の白玉クリームぜんざいに、さっきまでの憂いが吹き飛んだ。 ソフトクリームと餡子を同時に頬張る。なんて贅沢な食べ方だろうと思った。「蒼愛は、美味しいもの食べてる時、良い顔するよね」 今日は紅優も一緒にデザートを食べている。 食べないと死ぬわけではないから、嗜好品のようだが、人間と同じように食べるのも嫌いではないらしい。 甘味が好きらしいというのを、最近知った。「二人で並んで甘いもの食べるの、嬉しいなって、思って」 もっと紅優の好きな食べ物を知りたいと思った。 紅優が蒼愛の口元に舌を這わした。「美味しいね」 艶っぽい笑みを向けられて、ドキリとする。「折角、美味しいぜんざいで蒼愛の気持ちが落ち着いたのに、また話しの続きをしなきゃいけないんだけど、聞ける?」 ぜんざいで落ち着いたのではなく、紅優の言葉と手の温もりで落ち着いたのだが。(紅優は時々、そういう勘違いする。僕が一番嬉しいのは紅優に触れてもらった時って、どうしたら伝わるんだろう) もどかしく思いながら、蒼愛は紅優の手を握った。「もう、大丈夫。僕は紅優が磨いてくれた宝石だから。胸を張って神様に会えるよ。その為に必要なお話は、ちゃんと聞く」 紅優に頭を撫でられた。 いつものような優しくゆっくりな手つきではなく、わしゃわしゃされた感じだ。「番になってから、いや、その前もだったけど、蒼愛がどんどん可愛くなって、辛い」「え? 辛いの?」 驚いたら、またわしゃわしゃされた。 一通り、わしゃわしゃした後に、髪を手櫛で直された。 紅優に髪に触れてもらうのは、やっぱり嬉しいと感じる。「えっと、どこまで話したっけ。水ノ神様の話だっけ」「うん。宝石の人間は、神様の力を受け継ぐ者って言われて、神様に仕えたりするって」「あぁ、そうそう、そうなんだよね。|側仕《そばつかえ》なら、まだいいんだけどさ。優秀だったり、そうでなくても神
今日のお昼はオムライスだった。 ケチャップで狐を書いてみたかったのに、出来上がったのはよくわからない何かだった。「今日はデザートがあるよ。白玉クリームぜんざい。蒼愛が好きな餡子系にしたよ」 思わず紅優を見上げる。 きっと目がキラキラしていると自分でもわかった。 紅優が嬉しそうに笑んだ。 自分が和菓子が好きだと知ったのも、紅優の屋敷に来てからだ。 一日一個のお願いで「お菓子が食べてみたい」とお願いしてから、三時のおやつを出してくれるようになった。 それからは時々、食事の後にもデザートが付くようになった。「蒼愛は、どれが好き? って聞いても、全部美味しいです、としか言わなかったから。本当に好きなお菓子を見付けるの、苦労したんだよ」 紅優が困った顔で語る。 蒼愛はオムライスを飲み込んだ。(だって、本当に全部、美味しかったから。お菓子なんて、初めて食べたから) チョコレートなんて、甘すぎて口の中がおかしくなるんじゃないかと思った。 「餡子系のお菓子食べてる時の蒼愛は目がキラキラして顔があからさまに感動してたから、わかりやすかったけどね」 頬をツンツン突かれて、恥ずかしくなる。(それくらい、僕を見ててくれたんだ。紅優って、やっぱり優しい。それに僕よりずっと大人だ) 千年も生きている妖狐なのだから、大人どころの話ではないが。 きっと、蒼愛だけではない。 今まで喰ってきた子供たちも、それぞれをちゃんと見て覚えているんだろう。(なんでも先回りしてくれて、僕が快適に過ごせるように整えてくれて。家事だって……) さっきの子狐を思い出して、蒼愛は顔をあげた。「この家の家事は、紅優の妖術で回してるの? さっき、子狐が洗濯物干してるの、見付けた」「そうだよ。あの子は俺の分身みたいなもの。妖力を固めてるだけだから、話したりはしないけどね」 蒼愛は、少しだけ考えた。(家事とかしたら、体力付くんじ
紅優《こうゆう》と番になって一週間くらいが過ぎた。 初めて体を繋げてから、紅優の妖力がたくさん流れ込んできた。 キスや口淫だけだった時より、ずっと濃い。 最初は体が火照った感じがして落ち着かなかったが、ようやく慣れてきた。(毎晩だから、慣れたのかな。それとも毎晩だから、火照ってたのかな) 番になった日から、紅優は毎晩、蒼愛《そうあ》を離さない。 (嬉しいけど、体がキツい。エッチって、体力必要なんだ) 紅優に抱かれるまで性的な行為の経験がなかったから、知らなかった。(だって、紅優は色々、おっきぃから……) 閨の紅優を思い出したら、顔が熱くなった。「う、運動しよう! 体力付けよう!」 一人で叫んで、蒼愛は部屋を飛び出した。 廊下に出ると、目の前を子狐が横切った。「え? 今の、小さい妖狐?」 明らかに紅優の気配だ。 追いかけると、子狐が洗濯場から籠を持って庭に飛び出した。 こっそりと後を追いかける。 小さな妖狐が、庭の物干し竿に洗濯物を干し始めた。(もしかして、あの子、紅優の妖術かな。この家の家事って、こんな風に回してたんだ。今まで全然気が付かなかった) 家の中に常に紅優の気配を感じるのは、結界のせいだと思っていた。 子狐の姿を視認したのは、今日が初めてだ。(番になって、紅優の妖力がたくさん混ざったから、わかるようになったのかな?) 体が火照る以外に、これといった変化は感じていなかったが。紅優の妖力は蒼愛が思っているよりも体に馴染んできているのかもしれない。「あ、蒼愛。昼餉の準備、できたよ」 屋内に戻ると、紅優が声をかけてくれた。 何となく、ぼんやりと紅優を見上げる。(違和感とかはないけど。紅優は普通に僕を蒼愛って呼ぶ) 蒼愛も紅優と呼んでいるからお互い様だし、番になったら一文字だった頃の名前は呼べなくなるらしいから、当然の変化なのだろう
気が付いたら布団の上で、蒼愛は紅優に口付けられていた。 体がフワフワして、頭がぼんやりして、とても気持ちがいい。 紅優の妖力の中に包まれ続けているようだった。 仰向けで横たわる蒼愛に跨って、紅優が自分の股間を押し付けた。「んっ……、ぁ、ぁん」 頭はぼんやりしているのに、肌の感覚は敏感で、いつもの愛撫でもビクビクと腰が浮いた。「ぁ……、蒼愛、可愛い、蒼愛……」 まるで譫言のように名を呼んで、紅優が蒼愛の首に舌を這わせる。 這う舌が胸の突起を舐め上げる頃には既に尖って、熱が快楽を押し上げる。「んぁ! ぁ、はぁ……、もう、ほしい、こうゆぅ……」 潤んだ視界の中の紅優が余裕なく笑んだ。「本当は、もっとゆっくり慣らして、するつもりだったけど、ダメだね……」 熱い吐息が耳に掛かる。 体が震えて、それだけで達してしまいそうだった。「蒼愛の、飲ませて。咥えるよ」 足を開いて、紅優が蒼愛の股間に顔を埋めた。「やぁ! ダメ、ムリ、イっちゃっ、……ぁ!」 唇が触れるだけで、熱い舌が這うだけで、腹に溜まった快楽が吹き出しそうになる。「いいよ、出して。いっぱい、飲みたい」 紅優の舌が蒼愛の男根を這い舐める。 先を強く何度も吸われて、蒼愛はあっけなく絶頂した。 口の中の白濁を飲み込むと、紅優がうっとりと顔を上げた。「ぁぁ、美味しい……。蒼愛の霊力はまるで命だ。甘くて、蕩けそう……」 紅優が蒼愛の腕を引いて起き上がらせた。「今度は蒼愛の番だよ。咥えて」 座ったままの紅優が、自分の男根に蒼愛の顔を近づける。 蒼愛は四つん這いになって、紅優の男根を咥え込んだ。