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1 始まりの挨拶

Author: けいこ
last update Last Updated: 2025-06-25 09:22:58

お茶の準備が整い、私は再度2階に上がって1部屋ずつ扉を叩いてみんなを呼んだ。

みんなすぐに降りてきてくれ、1階のダイニングテーブルに全員が揃った。

初めての顔合わせにみんな少しかしこまっている。それはそうだろう、初めての時はいつだって緊張するものだ。

まず私は、ひとりひとりの目の前に置いたケーキと飲み物を自由に食べてほしいと伝えた。

これからはここで、このメンバーで一緒に食事をすることになる。今までは、3人で暮らしているといっても、食事はバラバラですることが多かったし、会話もあまり無く、家族の団らんとは無縁だった。

だけど、こんな賑やかな雰囲気で食卓を囲めるならきっと楽しいだろう。

「皆さん。食べながらリラックスして聞いてくださいね。今日は遠いところから我が家へ来てくれて、本当にありがとうございます。数ある選択肢の中からここを選んでもらえてすごく嬉しいです。皆さんの新しいスタートを私も精一杯サポートできたらと思っているので、今日からどうぞよろしくお願いします。では、これから一緒に暮らすみんなに自己紹介をお願いしたいと思います」

私自身もまだ緊張が解けなくて、どうしても固い挨拶になってしまう。少し肩の力を抜き、私は続けた。

「あっ、まず最初は私から……しますね。私はここの大家の三井結菜です。趣味は、いろいろありますが、特に料理とガーデニングです。これから皆さんの食事は、毎日私が作りますから、美味しく食べてもらえるように頑張ります。今日からは、私が皆さんの親代わりになりたいと思ってますので、遠慮はせずに困ったことや相談、質問、何でも言って下さいね。よろしくお願いします。あと……」

席にはお義母さんも座っているから、旦那のことをどう紹介しようか迷った。

「えっと……私の主人は、今、仕事なのでここにはいないんですが、三井 健太(みつい けんた)と言います。丸菱百貨店の時計売場にいます。彼とも仲良くして何でも話してくださいね。よろしくお願いします」

旦那の紹介……かなり雑に済ませてしまった。

私は、次にお義母さんに自己紹介を促した。

「あ、ええっと……」

お義母さんも、かなり緊張しているようだ。
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