シャルロッテ・オーランドルフ辺境伯令嬢は兄と共に辺境伯騎士団に所属していた。 軍の規律を守り、日々鍛錬に励みながら隊長にまで上りつめた男勝り。 対して兄の親友であるアルフレッド・カレフスキー公爵は、たびたび辺境伯領を訪ねて来ては彼女に構ってきて匂いを嗅いでくる変態公爵だった。 しかしどうやらアルフレッドと距離が近いのは自分だけではないらしい。 その日から気持ちが晴れないシャルロッテは、アルフレッドと関わらない為に隣国との軍事演習に行く事を父に申請する。 事実を知ったアルフレッドが国王陛下の生誕祭で取った行動とは? 堅物女騎士が匂いフェチの変態公爵に快楽で堕とされる、ただただ甘いだけの恋愛ファンタジーです。
View More国王陛下の生誕祭に来ていたはずなのに。
兄の親友とこんな事になるなんて、想像もしていなかった。
室内には互いの肌と肌がぶつかり合う音、甘い嬌声、淫らな水音が響き渡る。
大きなガラス窓には自分の蕩けきった顔が映し出され、口からはだらしなく涎を垂れ流し、彼から与えられる快楽に溺れ切っている自分がいた。 甘い吐息と彼の囁きで脳内はすでに思考を停止してしまっている。 そんな私に対しておかまいなしに彼からの底なしの愛が刻まれていく。 「もう、私から離れるなんて、言わない?」「は、ぁ、ぁうっ……いわな、ぃぃ……あっ、あぁっ」
「絶対だよ……離れるなんて、許さない……!」
彼に腰を摑まれながら激しく打ち付けられ、責め立てられて、もはや懇願するしかなかった。「あ、あ、あぁっフレド、さまぁ……なんか、キちゃうっ…………おかしく、なる、からっ……もう、ゆるして、あぁぁっ!!」
「シャーリー……シャーリー…………私の可愛い人、愛してるっ…………全部受け止めて…………~~~っ!」
その後まもなく意識を手放した私は、深い眠りに落ちていったのだった。
~・~・~・~・~・~
国王陛下の生誕祭より1か月前。
――――オーランドルフ城内・修練場――――
「いいぞ、シャルロッテ!そのまま斬り込んでこい!」
「や――!!」 ――――ガギィィィィィインッッ―――― 修練場に剣と剣のぶつかり合う音が響き渡った。ここ、オーランドルフ辺境伯領には独立した騎士団がある。
長として束ねるのは私の父であるオーランドルフ辺境伯、兄のリヒャルトが第一騎士団隊長を務め、娘である私シャルロッテが第二騎士団の隊長を務めていた。今日は久しぶりにお兄様が休みで手合わせをしてくれると仰ってくれたので、オレンジブラウンの長い髪は高く結い上げ、相手をしてもらいながら汗を流していた。
お兄様も私と同じくオレンジブラウンの短い髪で、女性としては背が高い私より一回りも背が高く、胸板が厚い。 見るからに強靭な肉体を持った男性といった感じだ。 そして私たちの周りをオーランドルフ騎士団の面々が、固唾を飲んで見守っている。 この修練場ではよく見る日常……私たちの手合わせの剣圧や気迫に入り込める騎士はなかなかいない。 「今の斬撃はなかなかのスピードだったぞ……っ!」「お兄様こそ……少し反応が鈍ったのではなくて?」
剣と剣を合わせながら会話をしていると、修練場に漂う緊張感をいとも簡単に壊していく声が響き渡る。「はいはい、その辺で終わりにしてお茶にしよう」
アイスブルーの瞳、その瞳と同じ色のゆったりとした髪をなびかせた美しい男性、お兄様の親友であるアルフレッド・カレフスキー公爵だ。 「アルフレッド……せっかくいいところなのに止めてくれるなよ」「そうですわ。お兄様との手合わせが私の楽しみでもありますのに、水を差さないでください」
私たちは心底迷惑そうに声の主に答える。「カレフスキー公爵閣下、あのお2人を止めてくださってありがとうございます。我々では間に入る事など到底出来ずにただ見ているだけしか出来ませんので……」
「レンドン副隊長も大変だね、あんな兄妹が部隊の隊長に君臨していたら誰も止められないだろうに」
「察していただき、言葉もありません」
「……という訳で2人とも、そろそろ終わりにして休憩にしようではないか」
「「……………………」」
レンドン副隊長の気持ちも分からないわけではないけれど、せっかく今日はお兄様がお休みで朝から稽古をつけてくれると言ってくれたのに。そう思うと私はなかなか納得できずに、剣を離す事が出来ずにいた。
すると業を煮やした閣下が私のもとに足早にやってきて、私の両脇を抱えてお兄様から引き離し、そのまま修練場の剣置き場へと連れて行かれてしまう。
「な、何をするのです!一人で歩けますので下ろしてくださいっ」「目を離すとまた剣を握り始めるのだろう?さあ、剣を置いて……」
そうしないと下ろさないと言わんばかりに両脇を抱えられているので「分かりました」と言うと、ようやく下ろしてもらえた。 「お前も過保護だなぁ。いくら俺の妹だからってそこまでする必要はないんだぞ」「リヒャルト、シャルルは女性なのだから、もう少し丁寧に扱わないと……」
「私にそのような気遣いは無用です。オーランドルフ騎士団の隊長たるもの、そのように繊細に扱われるのは――――っぐ」
私が騎士たる者はと語り始めると、カレフスキー公爵は私の頭の上に自身の顎を乗せ、思い切り体重をかけてくるので話が止まってしまう。これでは頭が下がってきて話せないわ。
分かっていてやっているのね……。 「閣下……重いのですが!」「ふふっ、この程度で重いと言っているようでは、まだまだだね」
挑発とも取れる言葉をかけられ、思わず対抗意識を燃やしてしまった私は、閣下の重さにどこまで耐えられるかという実にくだらない勝負を受けてしまったのだった。 「それにしても……修練後のいい匂いがする」 頭上から気味の悪い言葉が聞こえてくるけれど、これはいつもの事で、この公爵閣下は人の匂いが好きな匂いフェチなところがあるのだ。 私が初めてカレフスキー公爵と言葉を交わした時、成り行きで使っていたタオルを貸したところ、とてもいい匂いがすると感激していたのだった。それ以来私の匂いがとても好きだと言い出し、何かにつけて距離が近い。
彼が23歳の時に閣下のお父上が亡くなって公爵位を継いでから、この辺境伯領の我が城によくやって来るようになった。若くして爵位を継いだので何かと大変な事も多いようで、色々とお父様やお兄様と仕事の話をしたり、我が家が相談に乗る事も多々あったようだ。
時にはお兄様と手合わせをしている姿を見る事もあるのだけれど、閣下の見た目だけは本当に美しいから流れる汗にまで城の侍女達がうっとりしているのを見た事がある。あんなに澄ました顔をしている人物が、実は匂いフェチな事を彼女達は知っているのかしら。
彼を見る侍女達の表情が恍惚としていて、きっと知っても構わないくらいの勢いだなと呆れたのを覚えている。本当に頻繁に我が城に来るものだから、私とも自然と話すようになったのだ。
かれこれ3年ほどの付き合いともなると距離が近くなるのは必然なのだけれど、修練後にスキンシップをしながら私の匂いを堪能する姿はもはやペットや何かと勘違いされているような感じもするし、女性とは思われていないのだろうなと感じるほどに近くて……。
先ほどみたいに「シャルルは女性なのだから」なんて言われるとは思っていなかった。 予想外の言葉に少し顔に熱が集まってくる。 あまり男性に免疫のない私にとっては、この距離の近さは慣れないし、閣下が見た目だけはいいものだから本当に止めてもらいたい。さっさといい匂いの妻でももらって落ち着けばいいものを――――
閣下が見知らぬ女性と2人でいて、匂いを嗅いでいるところを想像する……すると少し胸にモヤがかかったような気がした。きっとお兄様との手合わせを止められて、閣下の好きにやられているからイライラしているだけね。
いつまでも頭に顔が乗って匂いを嗅がれている状態に私の方が耐えられなくなって、彼の顎をグイッと押しのける。なんと言っても閣下はお兄様よりも背が高いので、私など彼から見たら子供のように見えるのだろう。
「いつまで乗せているのですか。そして嗅がないでください。こういう事は婚約者でも作って、その方にするべきです。閣下は距離が近すぎます」「うーん、そろそろ閣下じゃなくてアルフレッドと呼んでほしいのだけど」
その発言にドキリとしてしまい、彼の目を何故か見られない。幼い頃からお父様やお兄様に憧れて騎士になる事を夢見て生きてきた私にとって、男性との交流には全く興味がなく、名前を呼び合う仲の男友達すらいなかった。
騎士団の中にそれなりに仲のいい男性もいるけれど、身分の違いから遠巻きにされて友達のような関係になる事はなかったし、私が女性としては大きい事もあって女性扱いされた記憶もない。
それなのにこのカレフスキー公爵は、そんな私との距離をいとも簡単に詰めてくるのがちょっとどころではなく苦手だった。この人の前ではいつもペースが乱される……そしてそんな私にお兄様が衝撃の言葉を発する。
「ははっ、確かにアルフレッドは他人と距離感が近いかもしれない。誤解する人間もいるから止めておけよ」
「ふむ、そうだな。その辺は考える必要があるかもしれない。そうだ、リヒャルト、君のお父上にも相談があるのだけど……」
…………距離が近いとは思っていたけど、薄々そういう人なのかなと思ってはいたけど、やっぱりそうなの? 3年ほどの付き合いがあるから、こんな事をしている女性は私だけかと思い込んでいた……私の勘違いだったとは。もともと軽い雰囲気がある人だから女性経験が豊富なんだろうなと思ってはいたけれど、お兄様の言葉を聞いて妙に衝撃を受けている自分がいる。
は、恥ずかしい……自分が特別だと思い込んでいたなんて。 他の女性にもそういう感じの閣下を想像すると、何とも言えないモヤが心にかかって2人の話に入っていく事が出来ない。 「分かった、父上は執務室にいるから来てくれ」「ありがとう。邪魔したねシャルル、また来るよ」
そう言って私の頭にポンッと手を置いて、颯爽と去って行ってしまう――――やっぱり子供枠よね。 あんなに美しい人だもの、女性が放っておくはずがない。このくらいのスキンシップは彼の中では当然なんだ。
私は自分が自意識過剰だった事がとても恥ずかしくて堪らなくなり、閣下の後ろ姿から目を逸らして急いで自室へと戻っていったのだった。「んっ、あぅ…………んっ……」 普段の彼女からは想像もつかないくらいの甘い声……刺激されて主張するかのように私の下半身はすっかり勃ち上がってしまう。 苦しいほどに窮屈になっているソレを我慢出来ずにズボンから引き出した。 意図せず彼女の目の前に突き出してしまい、ドクドクと脈打つ熱塊にシャーリーが釘付けになっているのが分かる。 「シャーリー、君のせいでこんなになってしまった……責任を取ってくれる?」 上から見下ろすような形になりながら、彼女への想いで痛いほどに硬くなったソレをシャーリーに見せつけた。 このまま彼女のさくらんぼのような瑞々しい唇をこじ開けて、口に入れてしまいたい衝動が襲ってくる。 ダメだ、初めてなのだから乱暴にしてはいけない。ありったけの理性をかき集めて必死にこらえ、体位を変えようと提案した。 剣をふるっている時の彼女は何も恐れるものなどないといった感じなのに、私の大きくなった昂りを目にした時はさすがに不安で瞳がゆれていたので、まずは安心させてあげなければと考える。 ずっとソファで行為にふけっていたので、ここなら騎乗位の方が入れやすいかもしれないと思い、私の上に跨る体位にさせて、彼女を安心させる為に目を見て愛を囁いた。 「大丈夫だよ、ゆっくりでいいから……シャーリー、君の全てを愛してる」 紛れもない私の本心。 君と結ばれる日をどれだけ夢に見たか。 早く中に入りたいけれど、入れてしまえばもう止まることは出来ないだろうな、と思う自分がいる。 私の言葉を聞いて意を決したシャーリーは、ゆっくりと腰を下ろしてきた。 彼女の蜜口から溢れる愛液がくちゅりと水音を立てた時、私の背中がゾクリとして体が震えだす。 早く欲しい、早く……呼吸が荒くなっていくのが分かる…………獣じゃないのだからと必死に自分に言い聞かせていると、彼女の方から私の口を塞ぐように性急な口づけをしてきたのだった。 「んっんん、ふっ……ん……」 口が塞がっている為、くぐもった声しかだせずに与えられる快楽に耐える時間が続く…………キスをしながら彼女からの匂いに包まれた私は、最高に幸せ者だった。 その間も私の男根が彼女の中に侵入するたび、あまりの気持ち良さに体はビクビクと震えてしまう。 まるで彼女に犯されているようだ……気を抜いたら持っていかれそうになる。 そん
私のプロポーズにシャルルは照れた顔をしながら目を泳がせている。 そして、「…………私だって、好きでもない男性にベタベタ触らせたりしませんよ」と言ってくる彼女の顔をまじまじと見た。 本当に?それは私が好きだから触らせてくれていたという事? 「それじゃあ………………」 距離が近くても全く気にしていない様子だったから、兄のようにしか思われていないのだと思っていた。 自分の都合の良い夢なのではと思い、恐る恐る聞き返してしまう。 「よろしくお願いいたします」 シャルルが頭を下げてプロポーズを了承してくれたのを見て、私の中でプツンと何かが弾けた。 もう躊躇する必要はない、彼女の全てを私のものにしていいのだ……彼女の存在を確かめるように激しいキスの雨をふらせた。 シャルル、やっと君を私のものに――――もう誰にも触れさせはしない。 遠征にだって行かせるものか。 唇が柔らかく、唾液は甘い蜜のようだ。 余すところなく食らいついていると、私の下半身が反応していくのが分かる。 すっかし主張してしまっているその怒張に彼女が気付いたので、シャルルの手を私のソレにあてがい、私がどれほど彼女を求めていたかを伝えた。 「シャルル、君だけだよ……私のココをこんな風にしてしまうのは。君の匂いを嗅いだだけでも反応してしまうくらいなのに」 するとシャルルは何を思ったのか、私の硬くなったソレを握ったりさすったりして可愛がり始めたのだ。 何が起こったのか分からず、戸惑いながらも好きな女性からの愛撫に体が喜んでいく。 「あ、くっ…………シャルル……ダメだよ……っ」 ダメだなんて言いながらも、愛する女性に触られて喜ばない男などいない。 私の下半身は彼女の手に押し付けるように動いていた。 「ん、アルフレッド様……気持ちいい?」 「ああ……ッ君の手で触られているかと思うと堪らない……」 いつも剣を握っているシャルルの手が私の男根をやわやわと触って、私を気持ち良くさせようと動いている事が余計に私を興奮させていく。 でもこれ以上彼女に触られたら、とてもじゃないけど理性を保てないと思った私は、そろそろ自分が彼女を気持ち良くさせる事で頭の中を切り替えようとした。 しかし何を思ったのか、シャルルはおもむろにズボンの中に手を滑り込ませてきて、直接触れてきたのだ。 「
私の肩に手を置いて踊り始めると、ずっと昔から2人で踊る運命だったのではと思えるほどに私たちの息はピッタリで、会場中からため息が漏れる。 シャルルの動きは洗練されていて、本当に素晴らしい。 そして何よりとてもいい匂いがする……こんな夜会の時にも香水はつけてこないのが彼女らしいと言えばらしいけれど、私には好感度しかなかった。 今すぐに抱きしめて彼女の匂いを堪能したい。 ダンスの最中も体がピッタリとくっついているので、堪らない気持ちにさせられる――――好きな女性と触れ合って理性を保てる男などいるのだろうか? 彼女の温もりが私の体温を押し上げ、ただ踊っているだけなのに気持ちが高揚していく。 そんな私の気持ちなど全く気付いていないシャルルは、先ほどの男とのダンスを終わらせた事への感謝を述べてきた。 「先ほどは助かりました、あ、ありがとうございます」 あの男とまだダンスを踊りたかったと言われなくてホッとしたが、ファーストダンスを奪われてしまったという残念な気持ちが頭をかすめていく。 「一番最初のダンスは私が踊りたかったのに……何で挨拶に来てくれなかったの?」 「え、でも女性に囲まれて近づけるような雰囲気ではなかったので、不可抗力ではないでしょうか」 「……それで他の男と踊ってしまうの?」 先に踊られてしまった恨み節が止まらない私をシャルルはどう思っているのだろうか……せっかく今日は格好良くプロポーズを決めようと考えていたのに、そう思うとさらに残念な気持ちが襲ってきてしまって、年甲斐もなくいじけたような形になってしまう。 そんな私に追い打ちをかけるかのように彼女が”閣下”と呼んでくるので、これ以上シャルルとの距離を感じたくなかった私はアルフレッドと呼んでほしいと懇願する。 私のお願いにとても言いにくそうに 「…………ア、アルフレッド、様……」と呼ぶ彼女の可愛さたるや。 その時の頬を赤く染めながら何とか私の名前を言う顔が天使すぎて、愛おしくて……今すぐプロポーズしたいという気持ちに駆られた私は、彼女の耳元でサロンに移動しようと囁いた。 リヒャルトの許可も得てサロンに移動すると、鍵を閉めて邪魔が入らないようにする。 こんな大事な夜に誰かに邪魔をされたら、その人物を無事に帰してあげられる気がしない……いや、物騒な考えは止めておこう、自分の失
オーランドルフ辺境伯家の兄妹2人との出会いから約3年経ち、シャルルが21歳になったある日、いつものようにオーランドルフ城に来ていた私は、シャルルとリヒャルトの手合わせを眺めながら、いつ彼女に結婚を申し込もうかと頭を悩ませていた。 すっかり仲良くなっていたし、もう彼女も年ごろで、いつ縁談が来てもおかしくはない年齢だ。 リヒャルトと同じく兄としてしか見られていないような気がして、突然他の男がやってきて横から掻っ攫われてしまうのは耐えられないし、自分の中で焦燥感が増していく。 騎士団に所属する彼女は全く男性の影がなさそうで、恐らく初めてだろうから恋愛事にも疎い感じがして、あまり甘い雰囲気を出すと逃げられてしまいそうな感じがする―――― 変態と言われる事は何とも思わないけれど、逃げられるのは嫌だ。 モヤモヤと色々と考えていたけれど、その間も二人の手合わせがなかなか終わらないので、私が止める事にしたのだった。 「はいはい、その辺で終わりにしてお茶にしよう」 二人とも手合わせを止められて不本意な顔でこちらを見つめてくる……シャルルはそんな顔すらも可愛くて困る。 思わず触れたくなって、彼女の両脇を抱えてリヒャルトから引き離した。 「な、何をするのです!一人で歩けますので下ろしてください」 「目を離すとまた剣を握り始めるのだろう?さあ、剣を置いて……」 ジタバタしている姿も可愛すぎるな……鍛錬後の汗が混じったいい匂いがして堪らない気持ちになってくるのを必死で堪える。 彼女の匂いは私の雄の部分を刺激してくるので、あまり近付き過ぎるのは危険だった。 今もシャルルから発してくるいい匂いに、私の下半身が反応してしまいそうになっている。 彼女と出会ったあの夏の日にもらったタオル、あれの匂いを嗅ぐたびに何度自分を慰めたか分からない。 洗うと匂いがなくなってしまうと思っていたけど、洗った後も彼女からもらったタオルというだけで興奮出来るのだから、もはや私はシャルルに反応してしまっているのだという事に気付いてしまう。 女性と出来る限り関わらないようにしていた私が、こんなに一人の女性に欲情する日がくるなんて自分自身に驚きを隠せなかった。 きっとシャルルは、私のそんな気持ちなど全く気付いていないのだろう。 いつもは凛とした姿勢でほとんど表情が崩れない綺麗なこの
今まで気付かれる事もなかったのに、どうして今日に限って⁈ どうする、不審者だと思われたのではないか? 私は普段感情の起伏をあまり表に出さない人間なのに、この時ばかりは慌ててしまったのを今でも覚えている。 「……失礼、見学に来たのですか?」 その女性は私が騎士団に入りたくて覗いていたと思ったのか、私の顔を見上げながら聞いてきた。 どう見ても見学に来たような身なりではないと思うのだけれど、あえて突っ込まずに話を続ける事にしたのだった。 それにしても近くで見るシャルロッテ嬢は私にとっては随分小柄に感じ、それでいて真っすぐに見つめてくるぱっちりとしたブラウンの瞳がとても澄んでいて、吸い込まれてしまいそうになる。 口紅など何も塗っていないみずみずしいピンクの唇は、鍛錬した後でまだ荒い呼吸や汗によってますます血色が良く、食べてしまいたいほどに魅力的で目のやり場に困る。 何より彼女からは香水の鼻がもげそうな匂いが全くしてこない。 むしろ鍛錬後の汗の混じったいい匂いが風によって運ばれてきて、本当に吸い寄せられてしまいそうだった。 思わず抱きしめてしまいたい衝動に駆られながらも、何とか抑える。 「……私は君のお兄様に用があって来ていたんだ」 「お兄様に?それならここではなくて…………あ、汗が」 そう言ってシャルル嬢は、自身の持っていたタオルを私に渡そうとしてくれた。 「あ、ありがとう」 夏の暑さとさっき慌てていた事もあって汗だくだった事に気付いていなかった私は、彼女が機転を利かせてくれた事に感謝し、そのタオルを借りて汗を拭く事にした。 しかしその瞬間、借りたタオルから今まで感じた事のない頭の先まで癒されるような良い匂いを感じてしまうのだった。 これはもしかして……彼女の匂いがしみついたタオルなのか? タオルで顔を拭きながらそのタオルに顔を埋めると、何とも言えない幸福な匂いがしてきて手放せなくなってしまう。 「大丈夫、ですか?」 あまりにもタオルから顔を上げられない私を心配したのか、彼女が近くに寄ってきて顔を覗き込んできた。 それ以上近寄られると本当にマズい―――― 「あ、ああ…………大丈夫、です。このタオルは洗って返すから、持ち帰らせてもらうね」 「そんな、気を使わなくても大丈夫
私はカレフスキー公爵家の嫡男として生まれ、アルフレッドと名付けられた。 カレフスキー公爵家は王族公爵で父上は今の国王陛下の弟であり、従って私にも王族の血が流れている。 父上はとても美しくて儚げで、そしてあまり体が強くはなかった。それもあって王位継承権争いとは無縁で、公爵位を賜って母上とゆっくり生きる道を選んだようだ。 母上もそんな父上をサポートしながら家族二人三脚で生活する日々……両親から愛情を注がれ、我々家族は幸せだったし、爵位などいらないから父上には末永く元気でいてほしかったのだけれど、その願いも虚しく私が23歳の時に儚い命を散らして旅立っていってしまう。 父上が亡くなって母上は抜け殻のようになってしまい、私には沢山の公爵家当主としての仕事がやってきた。 母上が健やかに生活できる為にも公爵家をしっかりと継いでいかなければと、右も左も分からないのに仕事に追われ、疲弊しきっている時に声をかけてくれたのが、リヒャルトだった。 彼はオーランドルフ辺境伯の令息であり、とても屈強でありながら朗らかな人格がにじみ出ているような風貌なので、友人も多い。 彼とは深く付き合っていたわけではないにしても長い付き合いだった事もあり、いつも疲れた顔をしている私を気遣って声をかけてくれたというわけだ。 オーランドルフ辺境伯はとても優秀で有名だった事もあり、色々と相談出来れば助かるという気持ちもあって、リヒャルトに頼んで辺境伯領を訪ねる事になった。 実際に辺境伯と話をしてみると、本当に博識で様々な事を教えてくれた。 そこにリヒャルトも加わると話がどんどん弾み、久しぶりに心のモヤが晴れていくような感覚を取り戻していく。 「こんなに充実した時間は久しぶりだ……今日は招待してくれてありがとう、リヒャルト」 帰り際にリヒャルトとオーランドルフ城内を歩きながら感謝の気持ちを伝えてみる。 「困った時はお互い様なんだから気にするな!最近ずっと辛気臭い顔してたからな~~今はスッキリしてる」 リヒャルトにも分かるくらい表情が変わったという事か……何だかその事実が突然恥ずかしく感じてしまい、ふと外に目を向けてしまう。 この城は……いや、この辺境伯領は本当にいい匂いがする。 私は人より少しばかり鼻が効くので、匂いに敏感だ。 女性の香水の匂いなんかは鼻が取れて
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