独身、童貞、実家暮らし、そして包茎。男としてのダメ要素が4つも揃ってしまっている俺。
元いじめられっ子の会社員として昼夜逆転生活をしているが故に生まれてしまった「退屈」という感情をなんとかしようと始めたのが「妄想」だ。これなら誰にも邪魔されず、文句も言われることも無い。そして、迷惑を掛ける事も無い。正直言って何よりも自由な世界だと思った。
そんな俺の妄想は、湖とくねくねとした峠道のある山の近くの風光明媚な街を舞台に始まる。
さて、そろそろ俺が自由に思い浮かべた妄想の世界に皆さんを誘おう。
夜勤族の妄想物語 1.「私の秘密-赤鬼-」
佐行 院
仕事に追われ1日1日が過ぎてゆき、一般では「花金」と呼ばれる週末。明日からの土日という楽しい2日間をどう過ごそうか、それとも今夜どう楽しもうかを沢山の人たちが考えているこの時間帯、開いている店と言えば飲み屋やコンビニ、そして最近増えてきた24時間営業のスーパーぐらい。他には夜勤で働く人たちがいる工場などがちらほらとあり建物から明かりが漏れている場所がほとんどなく電灯の明かりが優しく照らされる夜の街で独身の冴えない眼鏡女子の会社員、赤江 渚(あかえ なぎさ)は家路を急いでいた。
毎日朝の9時から出社しての8時間勤務、1時間休憩を含め18時が定時での退勤なのだがそういう訳にも行かない、金曜日は特になのだが帰り際に上司の取口(とりぐち)部長から必ずと言って良いほど呼び止められて書類を押し付けられ毎日の様に残業が加算されすぎており毎月60時間以上の計算となりため息の日々。正直三六協定はどこへやら・・・。 ある週の金曜日、毎度の様に帰り際の渚を取口が呼び止めた。取口「渚ちゃーん、今週も頼むよ、うちのチーム書類が立て込んでいるから進めておかないとね。」
渚「はーい・・・。」正直言ってしまうと原因は取口による書類の記入ミスや漏れによるものなのだが、本人は早々と定時に上がり気の合う仲間と逃げる様に近くの繁華街へ呑みに行ってしまう。今週に至っては残業はタイムカードを切ってから行うようにとも言いだした。何て卑怯な奴なんだと、やはりブラック企業の従業員の扱いは酷いなと身をもって学んだ今日この頃。
そんな中、最近巷で噂になっている事があった。特に地元の暴走族や走り屋を中心になのだが『赤いエボⅢに見つかると警察に捕まる』との事だ。通称『赤鬼』。毎週金曜日の夜に県内の暴走族や走り屋のスポットとなっている山に4WD車1台で行っては暴走行為、走り屋行為をしている奴らを一掃しているらしい。正体は未だ不明で年齢や性別など諸々全てが分かっていない。一部の人間には『赤鬼は警察の人間だ』とも言われている。 会社でもその噂で持ちきりだった。丁度よく今日は金曜日。取口「皆聞いたか、先週の金曜日にまた『赤鬼』が出たらしいぞ。今夜も出るかもな。」
女性「怖い、今夜は私も早く家に帰ろう。」 渚「何言ってんの、今日も残業でしょ・・・。」 女性「噂なんだけどさ、『赤鬼』って本当はとっても綺麗な女子なんだって。あんたとはかけ離れているね。」 渚「何馬鹿なこと言ってんの、早く仕事終わらせようよ、帰ってドラマ見たいもん。」その頃警察署長の宇治(うじ)に連絡が入った。M山に暴走族と走り屋の集団が今夜集まろうとしているらしい。走り屋の集団には住民に迷惑を掛ける人間達のチームと掛けない人間達のチームに分かれていて今夜集まるのは迷惑を掛けない方のチームらしい。このチームのリーダーはかなり真面目で休日はボランティア活動に勤しみ警察にも協力的だ。
しかし問題は暴走族の方だ、近所での暴走行為、騒音によるトラブル、暴力沙汰と迷惑のオンパレードだ。対策を練る必要があると思い宇治は走り屋チームのリーダーである阿久津(あくつ)に連絡を入れ救済を求めた。阿久津「そうですか、僕たちに出来る事なら何でも仰ってください。」
宇治「助かりますよ、あなたがいてくれてよかった。さてと・・・。」 阿久津「どうしたんですか?」 宇治「いや、何でもないです。では、ご協力をお願いします。」押し付けられた書類を21時頃に済ませ渚は自宅に着いてすぐに衣服を着替えメイクを直し愛車に乗り込み隣町の山へと向かう。自分には似合わないなと思いながら学生の頃から憧れていたこの車に今自分が乗っていると思うとぞくぞくする。エンジンを付けようとした時に電話が鳴った。
渚「・・・分かりました。お任せください。」
愛車は赤いエボⅢ、そう、実は渚が通称『赤鬼』なのだ。先程の電話は宇治からの物で協力を求めてきた。阿久津のチームと協力して暴走族を止めておいて欲しい、山の反対側の出口でパトカーを集めて防衛線を張っておくからとの事だった。
山頂で阿久津のチームを見つけ車を止めると阿久津が近づいて来た。出来るだけ顔を見られたくないので窓を少しだけ開けて目だけを出した。度入りのカラコンを使用しているのでよくある事なのだが・・・。阿久津「初めまして、地元で走り屋のチームをしてます阿久津と言います・・・、外人さん?!英語喋れるかな・・・。Nice to mee…」
渚「日本語で大丈夫、初めまして、『ナギ』と呼んでください。」『ナギ』って・・・、自分でもセンスのないネーミングだと思いながらため息をついた。普段とは違いクールなキャラを保っていた。
阿久津「今夜の作戦は聞いてますか?」
渚「山の向こう側の出入口にパトカーで防衛線を張ってるから私たちで暴走族を追い込む・・・、ですよね?」 阿久津「その通り、そして後ろからも数台警察の人たちが俺たちに紛れて追いかけて来るから挟み撃ちにしていく作戦だ。宇治署長に言って一応障害物として廃車になっている車を数台置かせて貰っているからうまく避けて欲しい。」 渚「私たち避けれるかしら。」 阿久津「ナギさんはそこまで下手じゃないでしょ。」 渚「それはお互い様でしょ。」 阿久津「ははは、この無線機を付けておいて欲しい、話せると助かる。それと暴走族が来るまでは目立たないように車にこの黒いカバーをしておいて。」渚は言われた通りにカバーをして車の陰で息をひそめていた。しばらくしてけたたましい排気音(エキゾースト)を轟かせ暴走族のバイク集団が現れた。車線なんてお構いなしだと言わんばかりに横一線に広がっている。彼らは阿久津や渚の車に気付くことなく向こう側の出入口に向かって山道を降りていった。
走り屋たちはカバーを取り静かに車を走らせた、排気音を少しでも出すと作戦がバレてしまう。 数か所のコーナーというコーナーをドリフトでクリアしていく。ガードレールに取り付けられたライトで道路が明るく照らされていたため本当はいけないのだがヘッドライトを切ってでも走れる状態だったので暴走族のバイクには簡単に近づけた。暴走族「んだぁ、こいつらぁ!!」
暴走族「ざけんじゃねぇ、撒くぞごるぁ!!」暴走族がスピードを上げる。山の中腹に差し掛かる。無線機から阿久津の声がした。
阿久津「ナギ、そろそろ障害物の廃車が見えてくるから上手く避けてくれ。」
渚「了解・・・。」そこから数キロ走ったところにある廃車に数台のバイクが引っかかっていた。後ろから追いかけてきた警官が暴走族を逮捕していき、バイクをトラックの荷台に乗せていく。
そして最終コーナーを回り阿久津と渚の前にはバイクが2台・・・、多分総長クラスだろう。出入口に差し掛かりパトカーや交通機動隊の白バイで張られた防衛線で2台を止めようとしたので暴走族は引き返して逃げようとした。そこを阿久津と渚が息をピッタリと合わせ車を横に向け通せんぼうをする、諦めてバイクを乗り捨てた暴走族は横から逃げようとしたが駐車場付近の茂みに落ちて警察の用意した深めのマットに落ち込んで逮捕された。暴走族「こん畜生!!!」
暴走族「覚えてろ!!!」パトカーに押し込まれる暴走族を横目に宇治が渚と阿久津に近づいてお礼を言おうとしたが車は2台とも消えていた。電話を掛けたが2人共繋がらなかった上に走り屋たちの無線機にも反応がない。
宇治「まぁ、いいか。」
新人警官「よろしいのですか?」 宇治「ああ、君もいずれは分かるだろうさ。撤収だ、帰って呑むぞ!!!」月曜の朝まで2人を見た者はいなかったという・・・。
月夜が照らす海を背景にただスキール音が響き渡っていた・・・。-80 王女の力と騒動- 妹達を加えた三つ巴の三姉妹が「お供え物(2日目のカレー)」に夢中になっている中、その光景に見入って未だ感動が冷めていないサラマンダーは目をうるうるとさせて思わず素が出てしまっていた。エリュー「おらぁ500年程生ぎでぎだが・・・、んな貴重な光景見る事出来だんは初めでだ。」好美「あんたその訛り・・・、何処の出身なの。」 好美がこれからエリューと王宮やコノミーマートでちゃんと会話や仕事が出来るか不安になっている中、瞬時に冷静に戻ったエリューは恐る恐る姉妹に質問した。エリュー「あの・・・、御三方は頻繁に会われているのですか?」トゥーチ「いや・・・、俺達3人が揃ったのは久々なんじゃねぇの?」 次女はカレーに夢中だった妹を軽く注意しながら思い出した。セリー「トゥーチ、はしたないですわよ。そんなに頬張って神らしくない、お姉様それにしてもこうやって私達姉妹が揃って食事するのは15年振りでしょうね。」クォーツ「ほう(おう)・・・、ほうはっはは(そうだったか)?」セリー「お姉様まで!!皆様、申し訳ございません。」 やけに腰の低い次女の横で好美の胸中では別の問題が発覚しかけていた、誰も次女と三女までが天界から降下して来る事を予想していたはずがない。 儀式を行ったエリューすら分からなかったのだ、ニコフや好美は勿論、カレーを用意した光本人までも。という事は・・・。好美「ニコフさん・・・、まずくないですか?」ニコフ「好美さん・・・、正直言って私も同感です。」 妹達の出現により、いつも通りの量だけが用意されていたカレーがいつもの倍の勢いで減っていく様子を見て2人は顔を蒼白させていた。そう、全然足らないのだ。 好美はさり気なく鍋の中を見てより一層顔を蒼白させた、当初たっぷりのカレーで満たされていた鍋の底が見え始めている。不意に思い出したのだが、このダルラン家のカレーは王と王女も後ほど食べる物でもあった。 時間は午前1:30、正直言って光が起きている様には思えない。念の為、『念話』を飛ばそうとしたその時・・・。女性「お・・・、お姉ちゃんが3人もいる・・・!!」 噂をすれば影というやつか、厨房の出入口にお馴染みの部屋着姿をしたペプリ王女の姿が。初めての光景に震えが止まらずにいる、そんな王女に当然の様に三女が突っかかった。トゥーチ「おう
-79 お供えと三つ巴- 同級生3人が昔を懐かしみ、美味い料理と昔話、そして悪戯を肴にワインを酌み交わしたその夜の事だった。街の中心地に聳え立つ高層ビルのオーナーである倉下好美は王宮での夜勤に備え準備していた。 好美が相も変わらず弁当を作り忘れていたので恒例と言った様子で余り物を詰めた弁当をデルアが手渡す、夜間の営業に影響しなければ良いのだが。 今日は火曜日だ、という事は恒例の「あの日」なのだ。ナルリス・ダルランの妻、ダルラン光からいつもの香り高き「お供え物(2日目のカレー)」を受け取ると大切に『アイテムボックス』へ入れ、早速夜勤へと向かった。 王宮へ到着し、挨拶を交わした好美には以前から気になっている事が1点。好美「ニコフさん、鍋って誰が光さんに返しているんですか?」ニコフ「申し訳ないのですが、私も存じ上げないのです。私達の休みの曜日に返却されているのでしょう。」 すると、光ご本人から『念話』が。光(念話)「その鍋ね、ここだけの話だけどいつも最後に食べてるエラノダさんがお忍びで返しに来てんのよ。」好美(念話)「エラノダさんって、王様の?!」光(念話)「うん、いくらあたしが取りに行くって言っても聞かなくて。これ、ニコフさんには聞こえてない様にしているから内緒ね。」 『念話』で話していた間、見た目ではずっと沈黙していた好美の様子を心配そうに将軍長が伺っていた。ニコフ「どうかされましたか?『念話』か何かで?」 好美は咄嗟に胡麻化した。好美「ちょっと、エリューの事で。店と言うか企業秘密なのでお気になさらず。」ニコフ「オーナーさんも大変ですね、お察しいたします。」 すると、聞き慣れた声が控室に響き渡った。「コノミーマート」のナイトマネージャーを兼任するサラマンダー、エリュー本人だ。エリュー「おはようございます。」好美「おはようございます。」 好美は挨拶の後、即座に空気を読む様にとエリューに『念話』を飛ばした。ニコフ「おはようございます、丁度今貴女の話をしていたのですよ。」エリュー「好美ちゃん、えっと・・・、もしかしたら昨日の話?」好美「そうそう、昨日皆で余った唐揚げを馬鹿食いした話・・・。」エリュー「ああ・・・、揚げすぎちゃったあれね。本当にごめんなさい。」好美「いえいえ、美味しかったからいいのよ。」 そう言った会話を交わ
-78 過去の悪戯と新たな悪戯- 2人が遠い昔の思い出に浸りながらハンバーグを味わっている場面を遠くから見ている者がいた、同級生でサブシェフのロリューだ。 有する資格や知識をフル活用すべくサブシェフとソムリエを兼任していたケンタウロスは、特別料理に合う赤ワインを選んで2人の下へと運んで行った。 その様子はレストランのサブシェフとしてと言うより、ただただ同級生の1人として。ロリュー「おいおい、俺を忘れていたりして無いだろうな。ほら、ぴったりなワインを持って来たぞ。」 3人分持参してきたグラスを1本ずつ、上客であるかつての同級生とオーナーシェフに手渡してワインを注いでいく。 ロラーシュはロリューからワインボトルを受け取ると、サブシェフにグラスを手渡してワインを注いだ。ロラーシュ「何を言う、ここにはお前にも会いに来ているに決まっているだろうが。」ナルリス「ほらよ、お前も食えよ。」 吸血鬼は小皿に小さく切ったハンバーグを乗せると、デミグラスソースを少しかけてケンタウロスに手渡した。 ロリューはハンバーグを1口食べると昔を懐かしむ様に噛みしめていた、実は例のカフェでロラーシュが食べた最初の煮込みハンバーグはナルリスとロリューの合作であった。 勿論、大臣はロリューにも感謝していた。ロリューもナルリスと共にロラーシュの為、カフェの店主に頭を下げていた。 2人に非常に感謝していた大臣は涙ぐみながらハンバーグを味わっていた、2人に救われたミスリス・リザードはそれから真面目に働き今でもダンラルタ国王であるデカルトの下で大臣職を務めている。ナルリス「何泣いてんだよ、再会に乾杯しようぜ。」 ワインで満たされたグラスを改めて手渡し、3人での乾杯を促した。 少し顔を赤らめながら3人は学生時代を思い出していた、そんな3人の座るテーブル席に店の副店長が近づいて来た。貸切にしているが故に暇になってしまったのだろうか。 そう思っていると、副店長は空いていた席に座った。どうやら3人の思い出話に興味を持ったらしい、手にはチーズが数切れ乗った皿が。真希子「やけに楽しそうにしているじゃないか、私にも思い出話をきかせておくれな。」ナルリス「そうですね・・・、今もそうですが私達は3人共悪戯が大好きでした。」 魔学校時代、同じゼミに所属していた3人は教授の所有する乗用車の運転
-77 思い出に浸る- ナルリスはいちレストランのオーナーシェフとしての対応をしっかりしようとしたが、相手は同級生で昔からの友人だからと制止した。どちらかと言うと久々の再会を懐かしんで欲しいというのが本望だとの事。 この日予約してきた上客にとって目の前の吸血鬼は特別な存在であった、ただのシェフではなく「命の恩人」といったところか、今でも上客はナルリスに感謝していた。 それが故に硬くならずにフランクにして欲しいと言った。上客「あの時の料理、また食べに来たぜ。」ナルリス「他にも料理はあるのに、いつもあれだな。」 メニューを見る事無く、いつも同じ料理と赤ワインを頼む上客は他の物を頼む気はさらさら無かった。いつも同じものを頼み「あの日」を懐かしむ、ナルリスの店に来るのは乗客にとって特別な意味を持っていた。ナルリス「待ってろ、いつもの美味いやつ作って来てやるからな。」上客「ああ・・・。」 この上客に出す料理は、普段のメニューには載せていない特別な物で2人の思い出の味だ。この料理に救われた、この料理があったから頑張れる。そして、今がある。 ナルリスは調理場に戻ると、ハンバーグを焼き色が付く程度まで焼いた後にデミグラスソースの入った土鍋で煮込み出した。 店中に普段から広がっているデミグラスソースの香りが濃くなってきた、上客はいつもこれは料理の出来上がりが近づくサインだと語っていた。 熱々の土鍋で提供するが故の鍋敷きをミーレンが什器と共に持って来た、これもいつもの事なので上客は慣れているかのようにテーブルの真ん中を空けている。 何故か2人分の小皿を一緒に持って来る、これもいつもの事。ただ不自然なこの行動は2人の関係を知るミーレンの心遣いからだった。 土鍋の中でデミグラスソースがぐつぐつと湧き始める、いよいよだと感じたナルリスは鍋掴みを手にはめて提供の準備に取り掛かった。と言ってもまだ提供はしない、チーズをハンバーグの上に乗せてオーブンで焼くのがこの料理の最終工程。 チーズが溶けたら完成、提供へと移る。熱々となった土鍋を両手でしっかりと掴み上客の下へと運んで行く。 ナルリスも上客も自然と柔らかな笑顔がこぼれていた、2人にとっての思い出の味。またこれもいつも通り、デミグラスソースの香りと共に蘇る当時の思い出に浸る。 この客が来る時は他の客は誰1人来な
-76 吸血鬼も知らない味の秘密- 女子高生の人魚の一言でやっと元気を取り戻した吸血鬼、どうやら間違えて手渡してしまった料理が普段から辛い物が好きな2人の胃袋をぐっと掴んだ様だ。 息を吹き返したかのようにオーナーシェフが数時間もの間座り込んでいたパイプ椅子からやっと腰を持ち上げたのを見たサブシェフは安堵の表情を見せた。 因みに2人は魔学校時代からの同期だったりしたので気軽に何でも話せる仲であった。ロリュー「ナルちゃん、もう大丈夫?」ナルリス「悪かった・・・、何とかな。すまんが、水を飲んで来て良いか?」 ナルリスの台詞を予期していたのか、ロリューの手には水の入ったグラスが。ナルリスはグラスを受け取ると一気に煽った。ナルリス「サンキュー。よし・・、やるか・・・。」 予約が入っている上客の来店に向けて提供する料理の準備を確認した、寸胴の中のフォン・ド・ヴォーとデミグラスソースが減って・・・、いないどころか増えている。おかしい、この2つはこの店の味の決め手で門外不出にしているし隠し味は誰にも言っていない。 ナルリスは恐る恐る味見してみると自分が作った物と全くもって一緒で驚いていた、ただ大量の寸胴鍋が不自然に散らばっていたのが気になったが今はそれどころじゃない。 調理場に復帰していたオーナーシェフを見かけた副店長の真希子が、散らばっていた寸胴を全て『アイテムボックス』に押し込んで目線を低く保ちながら近づいてきた。真希子「ああ・・・、ナル君ちょっといい?」ナルリス「真希子さん・・・、そんな体勢でどうされました?」真希子「フォンとデミグラスなんだけどね・・・。ごめんなさい、ランチで無くなりかけてたから私が『複製』したのよ。気を悪くしちゃったかな・・・。」ナルリス「いえいえ・・・、私の方こそ申し訳ありません。助かりましたよ、作るの結構時間がかかるのでもし無くなっていたら予約に間に合わないかと。ありがとうございます。」真希子「それを聞いて安心したよ、ブイヨンはいつも通りで大丈夫かい?」 実は以前、たまたま真希子が賄い用に持って来たブイヨンの香りに誘われ一口啜った際にその味に惚れこんだらしく、それ以来ブイヨンだけは真希子に任せていたのだ。 どれだけナルリスが頭を下げて頼み込んでも頑なに真希子が製法を教えないので、この店の料理全てが真希子無しでは成り立
-75 吸血鬼の失敗- ダンラルタ王国にあるサービスエリアで女子高生達が屋台での買い食いを楽しんでいた同刻、ネフェテルサ王国の街はずれにあるレストランの調理場の端っこでオーナーシェフである吸血鬼(ヴァンパイア)のナルリス・グラム・ダルランは・・・、悪戯に失敗して落胆していた!!ナルリス「どうしよう・・・、やらかしてしまったぁぁぁぁぁぁぁ!!」 実は先日、嫁の光に「少し変わっていてビールに合う豚肉料理を考えて欲しい」と頼まれて仕掛けておいたあの「豚ロースの生姜焼き風豚キムチ」をガルナスとメラの弁当に入れる予定だった「少し生姜多めの生姜焼き」と間違えて入れてしまったのだ。 2人共生姜味が好きな事を覚えていたのできっと白飯を空っぽにして帰って来るだろうと期待しながら仕掛けていたのだが、朝早くからの弁当作りで寝ぼけていた為タッパーを間違えてしまっていたらしい。 因みに事件が発覚したのは昼間、その日非番だった光は好美に「昼呑みしないか」と誘われていたので好美所有のビルの屋上に行った際、ナルリスの豚料理(焼く前)のタッパーを持参していた。しかし、いざ焼いた時にお世辞にも「少し変わっている」とは言えない「結構普通な感じのする生姜焼きの香り」がしたので光から「本当にこれなの?」と確認の『念話』があったのだ。 どう考えてもビールより白飯が欲しくなる香りと味だったが故に、違和感を覚えた光からの連絡を受けたナルリスはすぐさま魔力保冷庫内を見て初めて自らの間違いに気付いたのだった。 それから数時間後、今現在に至る。この時オーナーシェフはもう1つ思い出した事があった。ナルリス「大丈夫だ、きっと大丈夫なはずだ。確か2人共辛い物が大好物だったはず・・・!!」 普段からガルナスが家であらゆる料理に一味唐辛子をかけて食べていた事を思い出した、魔学校にも「マイタバスコ」を持参して食堂の料理にもかけている事を聞いている。 友人の人魚(マーメイド)で、今日一緒の弁当を持参して行ったメラも「マイ辣油」を持ち歩く程の辛い物好きだったはず・・・。 その上に、メラの辣油は一般的な赤い蓋の物ではなく黒い蓋の辛さがより一層強い物・・・。 吸血鬼はこの2点を思い出して何とか自分を安心させようとしていた、しかし落胆が酷過ぎてずっとパイプ椅子に座りこんで動かないでいる。 ナルリスの様子をずっとチ