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伊藤あまね
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Novels by 伊藤あまね

異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました

異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました

動物好きの大学生・楓(かえで)は、ある日突風に巻き込まれて異世界に召喚され、そこで神子として半獣と交わって禍の病を癒す力を得て治癒しろと言われる。性体験のない楓の相手に、松葉(まつば)・常盤(ときわ)という男が宛がわれ、三人での行為により治癒力を得てそれぞれに惹かれていく。しかし、新たな病が発生し―――― 古の日本風の世界で獣人と繰り広げる三角関係BL!
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Chapter: *終
 ある妖力を持ちて暮らす半獣の世界で、禍の病という恐ろしい病が流行っていた。世界の熱源や動力の素となる妖力を喪失させるその病は、どんな妖術による治療も、薬も効かず、ただただ人々が弱り、集落が荒れ果てていくのを見ているしかなかったほどだ。 しかしそれをある時、異世界からやってきた神子と呼ばれる青年が、最大の妖力を持つふたりの若い半獣と交じり合うことで治癒の力を発揮し、病を治していったと言う。 神子は病の素となる瘴気の根源も解決し、世界に平穏をもたらした。 そして――――「楓さまよぉ、今宵こそは俺と風呂に入ろうぜ。診察で疲れた体を癒してやるよ」「いいえ、楓さま。今宵は私と過ごしましょう。良い香が手に入ったのです」 一日の終わり、診療所の仕事と薬屋の仕事を終えて屋敷に戻り、一日の報告と共に夕餉を取っていると、日課のように行われる松葉と常盤の楓の取り合いが始まる。「常盤、お前は一日診療所で一緒にいるんだから、遠慮しやがれよ」「一日ご一緒したからこそ、最後までお世話するのが筋でしょう」「そう言って、閨までついて行くんだろうがよ」「それはあなたもそうでしょう、松葉。それに、あなたは閨でまた楓さまに無理をさせかねません」 ぴしゃりとそう常盤に言われ、松葉はバツが悪そうにぐっと黙り込む。先日、楓のマッサージと称して体に触れたことでセックスに発展して疲れ果てさせたことを言われたからだ。その翌日に楓は仕事がままならないほどだったため、その苦言とも言える。「常盤だって、隙あらば楓さまの閨に忍び込んで、世話のついでだって言って、あれやこれやするじゃねえか」「お世話の一環ですからいいんです」「ずる賢いぞ、腹黒狐!」「あなたが短絡的すぎるんです、単純狸」 またしても夕餉の席で一触即発な空気になりかけた所を、当の楓が、「松葉、常盤」と、名を呼んだことでぴたりと収まる。ふたりは立ち上がりかけていた体勢を改め、すごすごと腰を下ろし、再び夕餉を取り始めた。その様はしゅんと耳と尻尾を垂れて愛らしくさえ見える。
Last Updated: 2025-10-21
Chapter: *二十九ノ二
「今度は同時にシてやるよ、楓さま」「極楽へ、共に参りましょう、楓さま」 そう、ふたりがいざなうように囁くと、ぐっと後孔に松葉の肉棒が貫かれ、|隘路《あいろ》を押し拓いていく。強く胎の中まで責められ、ナカを圧迫されていく楓が身を弓なりに反らすと、ぐっと腹の上から常盤が触れ、更に花芯を握りしめてきた。「ッあぁう! あ、あぁッ!」「ああ、善いな……すげぇ締る……」「同時に攻められるの、お好きですものね、楓さまは……」「ッは、カハッ……ッは、ああ……あ、ああぅ……」 強い刺激と急激な刺激を同時に与えられ、呼吸が止まりそうになる。はくはくと酸素を求めるように口を開ける楓に、常盤がさらに握りしめている屹立を扱いて快感を加え始めた。先程吐き出した精液のせいで滑りが良く、更なる快感が施されあられのない声を上げる。「あぁッ! とき、わぁ……やめ、あ、ン、ンぅ! ンぅ! お腹、さわら、なぁ……ッ!」「ここに、松葉がいるんですよ、楓さま……わかりますか?」 あお向ける腹をグッと押され、そこにある熱の存在をわからされ、言い知れない恥ずかしさと快感に声が漏れる。「あぁう! ッあ、ンぅ!」「ほら、こっちでも俺を感じてくんな、楓さま。常盤に触られてきゅうきゅうしてくるぜ」「ンぅ、ン、ンあぁ、ンぅッ! まつ、ばぁ……あ、ああ、っや、あぁう」 ぐっと体と体の距離がなくなり、松葉と繋がり合った箇所が熱く溶けていく。屹立を扱かれつつ常盤には唇を塞がれて吸われ、そちらもとろかされていく。「ああ、もう限界だ……気をやりそうだ……」 松葉からの熱が一層硬度を増し、ナカで重圧感を誇示していく。「楓さま、私も、精を注いでようございますか……」 楓がうなずくより先に、常盤の長い剛直が挿し込まれ、ぐっと喉奥まで貫いていく。 息ができないほどの熱に上も下も貫かれ、苦しい。意識も視界もぼやけて|朦朧《もうろう》とするのに、拒む気になれない。寧ろ、もっと彼らの熱が欲しくてたまらないのだ。 もっと欲しい、
Last Updated: 2025-10-20
Chapter: *二十九 神事ではない交わりを
 神事ではないと意識するだけで、触れられるすべてが熱くなっていくのが不思議でならない。しかもそれはただ熱を持つだけでなく、そこからじんわりと甘く痺れていくのだ。「っは、あ、ン……ああッ、ンぅ、ッんん」「随分と|艶《つや》っぽい声が出るようになったなぁ、楓さま……聞いてるだけで疼いてくるぜ」「ッは、ンぅ!」「ここをこうすりゃ……もっと啼いてくれるか?」 なぶられ赤く染まる胸元に、松葉が軽く歯を立てられ、楓は悲鳴を上げる。鋭くも甘味がある痛みが、じんと腰に響き、疼く。疼きはやがて腰の奥で熱を待ち受ける秘所を刺激し、楓を甘く啼かせた。 松葉の激しい愛撫に啼いていると、その口に常盤の唇が重なり塞がれる。幾度となく交わしてきた口付けの中でも、今宵の物は飛びぬけて濃密に感じられる。 長く絡み合う口付けのあと、そっと唇を離すと、交わる吐息までも互いに甘く熱い。向かい合う瞳がいつになくとろけて見えるのも、きっと互いの想いを知った上での交わりだからだろう。「愛らしい私の神子様……私にもその可愛らしい御声を聞かせて頂けませんか?」 艶めかしく囁く常盤の声にも、楓の肌は泡立ち震える。松葉が雄々しく猛る声色であるならば、常盤は身震いするほどの美声なのだ。 そんな声に捕らえられ、楓は一層四肢の力が抜けていく。身を預けるようにしなだれかかる楓を、ふたりはそっと布団に横たえた。 横たわる楓の口元から胸元にかけて常盤が捕らえ愛撫し、下肢を松葉が舌を這わせていく。胸元も後孔も、複数の箇所を同時に攻め立てられ与えられる快感が、これまでのどのセックスよりも激しい。「あ、ンぅ……ッく、あ、ンぅ、で、出う……出ちゃ……あ、ああッ」「ああ、遠慮なく気をやっちまいな、楓さま……もっともっと気持ち良くしてやるよ」「楓さまのお顔も、御声も、全て愛しいです……さあもっと啼いてくださいませ」「あ、ああッ! ッや、あ、ああ、ンぅ、ン、ンぅぅ……ッ!!」 松葉がきつく屹立の根元を握りしめていたせいで、射精することなく楓は極まってしまった。体を打ち上げられた魚のように
Last Updated: 2025-10-19
Chapter: *二十八ノ二
「何故……何故そのような悲しいことを仰るのですか……楓さまは、我々がお嫌いになられましたか?」「常盤……? 何言ってるの、そんなわけないじゃない!」 真実を確認するために述べたに過ぎないのに、まさか泣かれるだなんて思っていなかった楓は、慌てた様子で松葉に同意を求めようと振り返る。 しかし振り返った先の松葉の顔も同様に、ぐしゃぐしゃに涙にぬれて歪んでいた。それはまるで打ち捨てられた子どものように心許ない顔をしている。「……松葉? なん、で……」「なんでもなにもねえよ……楓さまが俺らを嫌いでこの世界から出ていくってのが、悲しくねえわけねえだろ」「そんなことない! そんなことないよ、松葉、常盤!」「じゃあ何でそんなことを言うんだよ!」「共に過ごした日々は無になると言うのですか?!」 腕に抱かれ、泣き叫ばれて、自分は何か思い違いをしているのではないかと楓は気付き始める。しかしそれをそうではないかと確信してしまうには、まだ言葉が足りない。いま食い違う解釈をしている事柄を、落ち着いて、涙を拭いて照らし合わせなければならないのだから。 楓はそれをゆっくりと紡ぎ出し、言葉にして問う。「じゃあ、僕は……神子様の御役目が終わっても、この世界にいて、二人と一緒にいてもいいの?」 一番といたかったことを言葉にし、差し出すと、二人は泣き笑いをしてうなずき、それぞれに答える。しかし言葉より先に、背後で尻尾が大きく揺れていることが、何よりも雄弁にその答えを表していた。「当たり前だろ、楓さま。俺が心からまぐわいてぇ、愛しい相手はあんただけだ」「当然です、楓さま。私が心よりお慕いするのは、あなた様だけです」 自分はどうなのだ、と言葉と視線を差し向けられ、楓はじっと二人の目を見つめる。色気のある垂れた金色の瞳と、涼しげで美しい青い瞳。どちら共にそれぞれの魅力と愛情を感じるからこそ、楓は二人と共にありたいと思う。この先も、ずっと。 だからその想いを、そのまま言葉にして返した。「僕は、この先もずっと、松葉と常盤と一緒にいたい。この世
Last Updated: 2025-10-18
Chapter: *二十八 三人の想い
「……楓さま? どうした? どっか痛ぇのか?」「楓さま? どこか具合が悪いのですか?」 二人の腕に抱かれながら、楓はいつの間にかはらはらと涙をあふれさせていた。胸が苦しくて痛くて仕方ない、しかしそれが、病気やケガでないことぐらいわかっている。どんな意味の痛みを孕んでいるのかもわかっているからこそ、楓は口にするのをためらう。「どうした、どうした。この腹黒狐にイヤらしい触られ方でもしたか?」「それはあなたでしょう、松葉。下衆な勘繰りをする狸にどうこう言われたくありません」ここにきていがみ合う二人の様子に、楓は、「違う、ちがうの……」と、涙交じりに答え首を振る。松葉が楓の目元を指先でやさしく拭い、常盤がそっと背をさすってくれても尚、胸の痛みも悲しみも癒える様子がない。 最初に枕を共にして怯えた時にも泣いてしまっていたが、その時と様子が違うことに二人も気づいたのか、小競り合いをやめ、ただじっと、楓の気持ちが落ち着くまで寄り添っていてくれた。 触れて撫でてくれる手のひらも指先も、時折頬に触れる尻尾も、全てが楓に寄り添うためにここにあるのだと思うと、たまらなく愛しい気持ちが胸に溢れる。溢れ出て口からこぼれ落ちそうになる想いを、伝えてしまいたくなる。 でもそれはできない、してはいけない。何故なら、楓はもうこの世界にいるための役割を終えてしまい、元の世界へ帰らなければならないのだから。(二人を困らせるだけのことを、言っちゃダメだよね……でも、何も言えないのも苦しいよ……) 元々が住む世界が違う者同士なのだから、惹かれてはいけないものなのではないだろうか。半獣と人間、神事として結ばれることはあっても、そこに恋情を混ぜることを許されないのではないだろうか。 これが三人で過ごせる最後の夜になる。交じり合える最後のひと時になる――そう考えるだけで、楓は苦しく、涙が止まらない。 でもそれも、楓の我儘なのだと思えば、堪えてないものにするしかない。なにより、松葉も常盤も、楓と恋情を絡めて結ばれたいと思っているとは限らないのだから。(……そうだ、これは僕の独り善がりだ。二人の気持ちが同じ
Last Updated: 2025-10-17
Chapter: *二十七ノ二
 ひんやりとした何かが頬を撫でて気持ちがいい……薄っすらとした意識の中で感じるものに、楓は無意識に自ら頬を寄せる。もっと、と、呟いてもいたのか、そちらからも近づいてこられ、密着していく。 冷たいものに頬を寄せている内に、自分の体が火照っていることに気付かされる。どうしてこんなに体が熱いのだろうか……ぼやけたままの意識と、段々と輪郭を明確にしてきた視界をみつめながら楓は考え、そこに映り込んだ人影の名を呼ぶ。「……まつ、ば? とき、わ……?」 名を呼んだそれらは、楓の言葉にホッとしたように息をつき、やがて頬や額に触れてきた。「よく眠ってたな、楓さま。気分はどうだい?」「何か飲み物をお持ちしましょうか?」「ありがとう……いまは、何もいらないよ……」 熱いと自分でもわかる吐息交じりに答える楓に、松葉と常盤が弱く微笑みうなずく。二人が安堵している様子に、楓もほっと息をつく。 どうやら宴会場でしたたかに酔ってしまい、別室に運ばれたようだ。遠く賑やかな宴会場の声が聞こえはするが、この部屋自体はとても静かで、うす暗い。「随分呑まされちまってたみてえだな……気付けなくて悪かったな、楓さま」「無礼講とは言え油断していましたね……すみません」「ううん、そんなにたくさんは呑まされてないから……ちょっと、場に慣れてなかったのもあるのかも」 そう言いながら楓が身を起こすと、二人は揃って支えようと手を差し出してくる。両脇から抱きかかえられるようにして身を起こし、常盤が差し出す水差しで水分を補給する。ほんのりと甘いそれが火照る喉と体に心地いい。「ごめんね、折角の宴会なのに、僕のせいで抜けることになって……。もう大丈夫だから、戻っていいよ」「いいんだよ、みんな俺らの帰還にかこつけて飲みたいだけなんだから」「それよりも私は楓さまが心配ですから……お傍に、いさせてください」 それぞれから苦笑気味にそう言われ、楓はお言葉に甘えて二人にそのままいてもらうことにした。二人のあたたかな腕に包まれていると、無意識のうちに体に力が入っていたことに気付かされる
Last Updated: 2025-10-16
覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい

覆面ディーヴァの俺は最愛の我が子に子守歌を唄いたい

二〇××年、環境の劣悪化により惑星全土を人工管理下に置いた地球の日本・東京。  そこで唯人(ゆいと)は世界的覆面歌手・ディーヴァとして活躍していた。 天涯孤独の身の上から、自分と愛し合っている恋人の朋拓(ともひろ)との血を分けた家族を持つことに憧れている。そのためであれば、政府が推し進める「コウノトリプロジェクト」と呼ばれる、進化した医学技術の治療により男性でありながらも妊娠・出産することを決意する。  しかし朋拓はプロジェクトに反対で協力が得られそうになく、それでも我が子を望む唯人は朋拓に事実を隠したまま治療を続け妊娠可能期に入るも、思わぬ形で治療のことが知られ――
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Chapter: *エピローグ
“――おねむりよい子 あまいミルクに つつまれて    おねむりよい子 あったか毛布に くるまれて    よいゆめを よいあすを おねむり おねむり――” 陽だまりのにおいのするブランケットに包まれた小さなぬくもりが曇りのない瞳で唄う姿を見つめている。いつか見たかもしれない記憶のどこかに眠る景色に俺は目を細めて眺めてしまう。 やさしい歌声が繰り返し口ずさむ子守唄に、小さな瞳は無邪気な笑みを返してくる。「もーう、ご機嫌なのはわかるけど、お昼寝してくれよ、カナデぇ」 かれこれ一時間近く子守唄を唄ったり寝たふりで誘導したりしても、ちっとも眠る気配のない小さなカナデと呼びかけられた赤ん坊に、朋拓がとうとう|音《ね》を上げた。当のカナデはケタケタと機嫌よく笑っている。 すっかり我が子におちょくられている朋拓の姿がおかしくて思わず俺が笑うと、子どものように拗ねた顔をした朋拓か助けを求められた。「唯人ぉ、笑ってないで助けてよ~。カナデ、俺が唄うと笑って寝ないんだもん」「朋拓の声は寝かしつけるって言うより元気になる歌声だから」 俺がそう言いながらベビーベッドを覗き込むように立っている朋拓の隣に立って中を覗き込むと、カナデは嬉しそうに声をあげる。手を差し出すとしっかりと力強く小さな手で握りしめてくる。そのぬくもりと力強さに、俺はいつも胸がきゅっとしてしまう。 ほんの半年前、カナデは俺がこの世に産み出した正真正銘の血を分けた俺と朋拓の娘だ。目許は俺にそっくりで、口元は朋拓によく似ている。笑うとますます朋拓に似ていて、寝ている姿は俺にそっくりだと朋拓は言う。 長く決して平坦と言えなかったコウノトリプロジェクトの治療とそれによる妊娠期間を経て授かったカナデは、生誕時こそ小さめであったけれど、いまはすくすくとミルクを飲み、そろそろ離乳食を始めようかという頃だ。 朋拓に
Last Updated: 2025-07-10
Chapter: *32
 それから俺は朦朧とした意識のまま酸素マスクを宛がわれて手術室へと運ばれていった。「独島さーん、わかりますか? いまから麻酔して、赤ちゃん誕生させますからねぇ」「唯人! 唯人!! 先生、唯人をお願いします!!」 病院と思われるところに到着してからはただ目許に明るいものと冷たい感覚がある事しかわからず、朋拓の顔も有本さんの顔もわからないままだ。ただずっと、手術室に入りきってしまうまでずっと誰かが手を握っていてくれたのが嬉しくてホッとしていた。「唯人、大丈夫、俺、待ってるからね」 意識が途切れていく直前、耳元に届いた声に俺は小さくうなずけた気がしたけれど、本当のところはわからない。ひとつ、ふたつ、みっつ……ゆっくりとまぶたに移る光の数を数えていたらゆっくりと意識が深いところへ落ちていく感覚がして、やがて何も見えなくなった。 それから俺は、気付けばやわらかであたたかなところを小さな手に繋がれてどこまでも歩いていた。(これは夢? 現実……にしては、俺の姿は妊娠前の姿なんだけれど……?) あたりは薄っすら明るいけれどぼやけていて、あたたかいけれど少し蒸し暑い。知らない場所のはずなのに、どこか懐かしく思える。 遠く、潮のにおいとさざ波の音が聞こえる……そう、感じた時には俺はあたたかな砂浜の上を歩いていた。降り注ぐ陽射しは熱いくらいに眩しく、俺は目をこらす。 隣には、俺の手を牽く小さな光の塊のような誰かがいる。『こっち、こっち』 俺の手を牽く小さな手のそれはそう言って俺を引っ張っていく。熱いほど温かなその手は、小さいのにしっかりと俺の手を握りしめている。まるで、手術室に入るまで俺の手を
Last Updated: 2025-07-09
Chapter: *31
 それから朋拓が窓口になって例のメールの相手の連絡先を探り、コンタクトを取ってくれた。 相手は四十代の女性で、俺の父親にあたる人はいまは傍にいないと言う。「シングルマザーだったんだ……だから捨てられたのかな」「そうだったとしても、もう少し早く会いに来るべきじゃなかったのかな」 朋拓を介して数回やり取りをし、今日いまからふたりで会いに行くことになっている。 蒼介から借りた車に乗り、待ち合わせの指定場所――それはあの江の島の海のそばの公園だった――を目指す。「指定された場所もなんだかなぁ……もっと人目があるとこならわかるんだけど」 俺の母親と言う人に会うことが決まってから、朋拓はずっと機嫌が悪い。普段が機嫌が好すぎるくらいなのでかえって不機嫌さのすごみが増す。 だからなのか、俺は余計なことばかりひとりで喋ってしまう。俺の好きな海のそばだなんてすごい偶然だな、海が好きな人なのかな、とか、これからも会えたりするかな、とかはしゃいで喋る一方で、俺が子ども産むことを嫌がったりしないかな、と不安になる気持ちも同じくらい胸によぎる。「唯人、落ち着いて。お腹の子に響くよ」「……ごめん」 いつになく静かな朋拓の口調に、冷や水をかけられたように気持ちがしぼんでいく。朋拓はそんな俺の様子を居た堪れない様子で横目で見ているのだけれど、いつものように慰めてくれない。それが、ちょっとショックだった。 確かに、俺が捨てられたことを許せるかと言われると、わからない。でも、パートナーもいない経済的に苦しい状況だったとしたら、もっと何か事情があるのなら……俺は、棄てられたことを責めるべきなんだろうか?「……ねえ、朋拓。俺、ママを責めた方がいいのかな?」
Last Updated: 2025-07-08
Chapter: *30
 帝王切開での出産を迎える俺の予定日は十月二十四日。偶然にもその日は俺と朋拓が初めてメタバースのSUGAR内で出会った日だった。 きちんと俺が憶えていたわけではなく、朋拓に予定日を告げたらそう教えてくれたのだ。「え、そうだったっけ?」「そうだよー。まあ、唯人はそういうのこだわらないのは知ってるけどさ。俺はすっげぇテンション上がったんだよ、運命だー! って」「でもそう言われると確かに運命的な気がしてくるね」 俺が大きく丸くなったお腹をさすりながら言うと、その手に朋拓も重ねてくる。お腹の中の子はこの八カ月ちょっとの間、大きなトラブルに見舞われることなく順調に育ってきているらしく、とても元気がいい。現にいまも俺らに存在を誇示するように胎動している。「っはは、元気だなぁ。自分が話題の中心だからかな」「主張が激しい子みたいだね」「いいじゃん、自己主張は大事だよ、唯人」 苦笑する俺に朋拓が嬉しそうに笑い、俺もそうだねとうなずく。 手術にあたっては、数日前から準備のために俺は入院して、朋拓は前日の今日から付き添いで明日の手術まで泊まり込んでくれることになっている。 大きな手術はコウノトリプロジェクトを含めて全くの初めてで、手術は万一に備えて全身麻酔で行われることになっているんだけれど、不安が全くないと言えば嘘になる。 いまこうして朋拓と笑い合っているけれど、あと一ヶ月ほどあともそうしていられるかわからなくて、ふとした時に考え込んで口をつぐんでしまう。「唯人?」「あ、ごめ……なんだっけ?」「疲れた? もう休もうか」 朋拓が心配そうに優しく顔を覗き込んでくる。それに微笑んで返そうとしたけれど、なんだかうまく笑えない。震えそうになる指先を、朋拓がそっと握りしめてくれる。「唯人、怖い?」
Last Updated: 2025-07-07
Chapter: *29
 ボーナストラックのレコーディングの三日後に俺は病院からの連絡を受け、無事受精で来た卵子を腹腔に入れてもらった。 通常体外受精をしたあとは特に行動に規制なく日常生活を送れるというのだけれど、俺の場合は無事着床が確認できるまでは絶対安静を言い渡されているので、そのまま入院して様子見となる。 今回は絶対安静なので部屋の中であっても動き回ることは制限されていて、基本ベッドに寝ているしかない。勿論歌うなんてとんでもないので絶対禁止だ。「大声で笑うのも禁止だって言うからさぁ、お笑い番組も見るのためらっちゃうよ」『そっかぁ、それは退屈すぎるね』 ホログラム表示のおかげで寝ころんだままでも難なく対面しているように通話はできるけれど、着床が確認できるまでは家族であっても面会ができない。それくらいの安静なのだ。『起き上がるのってご飯の時くらい?』「うん、そう。あとはずーっと寝てる」『本とか読む?』「飽きちゃったよ。面白くても笑っていいかわかんないし」『少しくらいならいいんじゃない?』「そうかなぁ……なんかさ、物心ついてからずーっと唄ってたから、こうやって唄えない毎日ってすごく変な感じ。まるで自分の一部が使えなくなってるみたい」 唄うことは俺にとって生きていく|術《すべ》でありながら表現であり、意思表示でもあったから、それを制限されるとどうしていいのかわからなくなる。物足りないというよりも何かが欠けている気がしてしまう。 そして同時に、こんな日々が永遠に続いたらどうしようという不安も漠然とある。「俺、またディーヴァになれるのかな。唄い方とか忘れないかな」 自嘲するようにそう呟くと、朋拓が『忘れないよ、絶対』と強い口調で返してきた。 問うように見つめると、朋拓は真剣な顔をしてこう続ける。「唯人は
Last Updated: 2025-07-06
Chapter: *28
 妊娠前最後になるだろうという事からかなりいつもより激しめにセックスをしたことで俺は意識を飛ばしてしまい、病院からの連絡に気付くのが遅れてしまった。 病院からの連絡とは昼間採取して提出した精子の状態の報告であり、更に先日先に作成していた俺の卵子と受精するかどうかという話だ。「病院、何だって?」 伝言メモの音声を聞き終えた俺に朋拓がそわそわした様子で訊ねてくる。コウノトリプロジェクトで妊娠を希望していても、相手の精子が弱かったりなかったりして、不妊であることが発覚するケースが少なくはないと病院で聞いているので、朋拓がそわそわして病院からの話を気にするのも当然だろう。「精子、良好だって。だからすぐにでも受精させるって」 俺がそう言って朋拓の方を見ると、朋拓は心底ほっとしたように息を吐いてくたっとしなだれかかるように俺の隣に寝ころんだ。「良かった~……ちゃんとした精子なんだ~」「精子の健康状態なんてこういう機会でもないと知ることもないだろうしねぇ。卵子も良好みたいだから、たぶん大丈夫だよ」「うん、そうだね……唯人、今度いつ病院行くの?」「んー、病院から連絡きてからなんだけど、たぶん一週間以内に来てくれって言われると思う」「そっか……そしたらいよいよ、なんだね」 卵子に精を受精させるのはその日のうちに行われるらしいけれど、胎内(俺の場合は腹腔だけど)に戻すまでには数日程を要するらしく、着床させるのは更にその後になるという。 着床して、さらに胎児の心音が確認できれば無事妊娠したと認められるのだけれど、そこまでの道のりは険しいし、そのあとも妊娠を維持させる努力をしなくてはいけない。「んまあ、そうだけど、それまでにあれをやっちゃわないと」 受精卵を入れ
Last Updated: 2025-07-05
偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される

偽悪役令息は偏食魔王に溺愛される

伯爵家の庶子であるエリオットは、『母親殺し』の異名を持つ悪役令息。 家族にも使用人にも疎まれ居場所がなかった。しかしエリオットは母親を殺してはいない。 だがある日、王より国を救うべく魔王への生贄嫁になれと命じられる。 魔力回復のための『儀式』である魔王との性交を行うことになるエリオット。 しかしその夜、いざ『儀式』を行おうとしたのだが、栄養不足の魔王が倒れてしまい!? 最弱魔力のツンデレ魔王✕健気な偽悪役令息の食改善から始まる溺愛ファンタジーBL
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Chapter: 番外編*3
 ようやく機嫌が良くなった所で、散歩をさせるついでにゼフがネヴィを連れ出してくれることになった。つかの間の二人きりの時間となり、途端に恥ずかしさが増してしまうのは何故なのか。 部屋の応接セットのところにはゼフが用意してくれたお茶やお茶菓子があり、二人はソファーに並んで座ってそれを味わっている。「ネヴィといると一日があっという間なんです。朝起きてから日暮れ寝てしまうまで、ずっとあの子に合わせて動いていると本当に一日が早いんですよ」 そう微笑みながらお茶を飲むエリオットは、出産前と変わらず愛らしい姿をしている。少し伸びた栗色の髪も、緑の大きな瞳も、アズラディーンには愛しさの象徴だ。 だから余計に会えなかった日々の切なさが胸に募り、反論してしまう。「俺にとっては、一日千秋よりも長い日々だったぞ。お前のいない日々は空虚でただただ長く……寂しかった」 小さくなっていく語尾に合わせるようにアズラディーンがうつむいていくと、その頭をエリオットがそっと抱き留めてくれる。久方ぶりに触れ合う彼はほんのりと甘い匂いがし、それが一層愛しさを煽っていく。「私も、寂しかったです……ずっと、こうしてアズラディーン様に触れたかった」「エリオット……」 名を呼び見つめ合うとそこには互いの唇があり、自然と惹かれ合っていく。数カ月ぶりに触れる唇は変わらずに熱く甘く、味わうごとに深く絡まっていく。「ッふ、ン……っは、っふぅ……アズ、ラディ……あ、ンぅ」 ソファーに組み敷くように横たえるエリオットの体に影を成しながら、そっとその首元に鼻先を押し付ける。やはり、エリオットからは甘い匂いがする。比喩でも気のせいでもなく、とろけるような懐かしいような匂いだ。これをできることなら、独り占めして味わってしまいたい。そんな欲望がむくむくと湧き上がってくる。「エリオット……その…
Last Updated: 2026-08-04
Chapter: 番外編*2
 ゼフの計らいで実に四カ月ぶりにエリオットに会えることになったアズラディーンは、手持ちの中でも特にエリオットが好んでくれる服を選んだ。もちろん手土産も忘れていない。産後の体調を考えて新鮮な果物にしてみた。「アズラディーン様!」 エリオットの部屋は|夫夫《ふうふ》となる前に過ごしていた塔の中の部屋で、当時よりもより赤ん坊が過ごしやすい環境に整えてある。いずれここは成長したネヴィの個室にする予定だからだ。「ああ、エリオット。元気そうだな。なによりだ」 四カ月ぶりの対面で、エリオットも嬉しそうに駆け寄ってくれたと言うのに、アズラディーンはすました顔をしてしまう。寂しがってなどいないぞ、とアピールするかのような態度に、ネヴィを預かりに一緒に訪ねてきたゼフが呆れた顔をしている。「アズラディーン様が毎日お花を届けて下さっていたので寂しくありませんでした」 直接の対面ができない間、アズラディーンは毎日のように部屋の前に花束を届けていたのだ。特に置手紙などはつけていなかったはずなのに、エリオットにはわかっていたらしく嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔に、アズラディーンの頬も緩んでいく。「そうか、それはなによりだ」「ネヴィもお父様のお花を見せるとすごくご機嫌になるんですよ」 ねー、と揺り籠の中にいる我が子に語り掛けるエリオットの姿に、アズラディーンの表情はこの上なくとろけていく。魔王の矜持はどこへやら……と、ゼフは苦笑気味に見守っているが、アズラディーンに構う様子はない。「ネヴィ、父が来たぞ。どれ、抱っこをしてやろう」 そう、アズラディーンが揺り籠の中を覗き込んだのだが、それまでニコニコとエリオットの顔を見つめていたネヴィの顔がたちまち泣き崩れていく。まるで化け物にでも遭遇したかのような泣き叫び様に、アズラディーンは慌てて顔をひっこ
Last Updated: 2026-08-03
Chapter: 番外編*偏食魔王はミルク味の愛がお好き*1
「……もうよい、下げろ」 不機嫌さを隠さない声色で命じられた使い魔のゼフは、やれやれと言いたげにため息をついて皿を下げていく。主人である魔王アズラディーンに対して不遜に思われる態度かもしれないが、詳細を知れば使い魔にため息をつかれるのも無理はないと言える。「ゼフ、今日は何日だ」「ええっと、十九日でございますよ」 それが何か? と首を傾げるゼフに、アズラディーンは何でもないというように手を払う。 そうして残されたのは赤ワインの入ったグラスと呑みかけのボトル、それからいつもと変わりない赤身肉のステーキだ。 しかしアズラディーンは、好物であるはずのそれにほとんど手を付けていない。ナイフとフォークでひと口大に切り分けはするものの、ただもてあそぶようにそうするばかりだ。 先程ゼフに下げさせたのは、ゼフが作ってくれたミルクのシチューだ。野菜とたっぷりの月光草が入った料理で、これもアズラディーンの好物であるはずなのだが――美味しいと感じられなかった。「……ああ、ようやく四ヶ月になるのか」 一人きりになった食堂でそう呟き、テーブルを挟んで向かいの席を見やる。そこには誰もいない。いや、本来はいるはずなのだが……いまは席を同じうに出来ないでいると言うべきだろう。 アズラディーンの向かいに座るのは彼の伴侶であるエリオットなのだが、エリオットはいま四カ月前に生まれたばかりの我が子ネヴィに掛かりきりになっている。それは仕方がないことだ。 エリオットは元が人間の男性であったため、子どもを産むこと自体が異例である。そのため心身の回復に時間がかかっているため、魔力が強いアズラディーンの魔力にあてられすぎないためにも別室で過ごすことになっている。 それは致し方ない。愛しいエリオットに万一でも何かあってはならないのだから、背に腹は代えられぬ。 エリオットの手伝いも請け負ってくれているゼフによれば、産後の心身の回復には少なくとも三カ月は要するという話だ。
Last Updated: 2026-08-02
Chapter: *終章
 山々に囲まれた大陸の小国ヴェルクレイン国は、古来より魔王と関わりがある国として有名だ。その理由は、魔王の魔力と国の情勢が関係しているからだというが、最も信憑性が高い噂はとある生贄嫁の話だ。 とある時代、魔王の魔力が尽きかけ、ヴェルクレイン国の危機に陥ったことがあった。それは魔王に次ぐ上級魔物モルという者と、ハイランド伯爵家の結託による企みで引き起こされた人災であったのだ。 困窮した王はハイランド家で母親殺しと呼ばれていた令息を生贄嫁として差し出し、ヴェルクレイン国を救ったとされている。その仔細はその生贄嫁が魔王に愛を教え、真の意味で魔力を回復させたことによるとされているが、定かではない。 そうして魔物のモルは北の氷山に永久に封じられ、それと結託していたハイランド家は爵位はく奪の上追放となったという。「アズラディーンさま、バラの花が見事に咲きましたよ」「おお、随分と美しいな」 エリオットが大輪のバラを束にして抱えて入った先は魔王の書斎。ロイドメガネをかけて書物に目を通していた魔王にバラを見せると、エリオットはそれをひょいと放り投げてしまう。するとそれらは意思を持ったかのように動き出し、あっという間に書斎の机の大きな花瓶に活けられていく。 美しく飾られたバラに、魔王が感心したように目を丸くして微笑む。「だいぶ魔術も上手く操れるようになったようだな、エリオット」「はい。毎日ゼフに鍛えられておりますので」 そう苦笑するエリオットは照れたように頭に手をやり、そこに生える象牙色の羊に似た角に触れる。角の先端には耳飾りのような鈴が付いており、それは魔王の角の先端にも揺れている。 ささやかな二つの音が重なり、二人の距離がそっと縮まろうとしていた、その時だった。「|母様《かあさま》! |父様《とうさま》! ネヴィもお花をつんでまいりました!」 勢いよく書斎の扉が開き、小さな人影が
Last Updated: 2026-08-01
Chapter: 第四章 第二話*2
「ああ、愛らしいぞ、エリオット……」「アズラディーンさま……申し訳ありません……お手を汚してしまい……」「これのことか? 構わぬ。お前から溢れ出るものは一滴残らず俺のものなのだからな」 そう片頬をあげて笑ったかと思うと、魔王は白く汚れた右手に舌を這わせ、指先を咥えこむ。エリオットが吐き出した精液を味わい始め、しかも音まで立てるのだから、エリオットはまた羞恥心を煽られて悲鳴を上げる。「あ、アズラディーンさま! いけません! そんな、汚いです!」「汚いものか。これは愛しいお前が俺を感じてあふれさせた愛の証しだ。味わわずしてなんとするか」 そう恍惚とした表情でエリオットの精液を味わう魔王の姿を見つめていると、エリオットもまた欲情を煽り立てられていくのを感じた。まるで小さな種火だったそれが風を受けて勢いをつけ炎となるように。「エリオット? どうした?」 それまで寝台の上に組み敷かれていたエリオットが、ゆらりと身を起こし、魔王の許ににじり寄って来る。そうしてむき出しで露わになっている魔王のそそり立つ雄芯を前にして、ごくりと喉を鳴らした。 エリオットのものよりも何倍も長く太く大きなそれは、美しい造形をしている魔王の顔立ちからは想像もつかぬほど雄々しい姿をしている。 脈打ちつつ鈴口から先走りの蜜をあふれさせているそれを手に取り、エリオットは呟く。「……私も、アズラディーンさまを気持ちよくして差し上げたい……」 |性技《せいぎ》に関する知識は皆無と言えたが、それでもエリオットは自分からも魔王に愛を示す何かをしたくてたまらなかった。自分がされた以上の快感を魔王に施せるかはわからなかったが、それでも、疼く体と想いを止められない。 その想いが魔王にも伝わったのか、魔王はうっとりとした目でエリオットを見つめ、やわらかく髪を撫でながらうなずく。「
Last Updated: 2026-07-31
Chapter: 第四章 第二話*1
「最大の魔力を有する魔王がその力を維持し続けるには、心から愛する者と交わり、その証しである子を成さなければならない。それが儀式を行う最大の目的だ。いまお前となら、それも叶うかもしれぬ」 寝台に改めてそっと組み敷きながら、魔王がやさしくエリオットの体や頬、髪を撫でてくる。まるで宝物を扱うかのような手つきに、儀式という改まった名称の行為を前にして緊張を覚えていたエリオットの体の力が徐々に抜けていく。後頭部に手を宛がわれて横たわらせられると、ほうっと熱を持った吐息が漏れた。「本来であれば、儀式は婚姻を結んだ最初の夜に行うのだが……お前も知っているように、俺は大失態を犯しておるからな……」 出会って最初のあの獰猛な姿を見せられた夜のことを思い返すと、エリオットは思わず苦笑してしまう。いまでこそこうして笑えはするが、当時は死を覚悟するほど恐ろしかった。「そうでしたね。私、すごく怖かったんですよ、アズラディーンさま」「……悪かったと思うておる。だが許せとは言わぬ。俺は許されぬことをお前にしてきたのだから」「でも先日魔王様が私に触れて下さったとき、過剰に怖がらなければ、こんな事には……」「それこそ俺の責任だ。お前は何も悪くない」「ですが……」「お互い様だ、エリオット。俺たちはいまこそ互いを愛し合う伴侶となるのだ」 そう囁きながらエリオットを見下ろしつつ優しく頬に触れ、撫でてくる。注がれる眼差しはとても甘く、心から魔王に愛されていることを感じた。 だからもうエリオットは、以前された仕打ちのことを恨んではいない。傷ついたり怖かったりした気持ちをなかったことにはできないが、それをいつまでも憎しみとして燃やし続ける気はなかったからだ。それ以上にいまは、ただ一人の愛しい存在として想いを確かめ合いたいだけだった。その想いを示すようにエリオットは腕を伸ばし、魔王を抱き寄せて答える。「ええ、そうですね……だからアズラディ
Last Updated: 2026-07-30
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